黒歴史SSまとめ②
ドンキホーテファミリー~旗揚げそうして北の海で有名な海賊団"ドンキーホーテファミリー"の門を叩いたロー
全てを憎み、全てを破壊したいと望んだ幼い少年は心の支えなどほとんどなかった
全てを奪われたローに残されたものとはロジャーから譲り受けた航海日誌
だがローはレストの言いつけ通りにロジャーとの関わりは一切喋らなかった
レストはロジャー関わりがあることを知られたらどんな目に合わせられるかを正確に理解していた故にローにロジャーのことを何一つ喋るなと言い聞かせていた
それが幸か不幸か……少なくても今はそれは幸に傾いていた
ドンキーホーテ海賊団の門を叩いて数週間
毎日のように続くコラソンの暴行にローは図らずとも少し参っていた
もちろんこの程度で出ていくつもりはないが、それでも辛いものは辛い
故郷もなくし、家族もなくし、居場所も何も無いローはここ以外にいる場所がない
それに、ここにいたら世界を壊せるかもしれないのだ
この程度で出ていくなんて許せない
「……?」
ふとローはロジャーから貰った航海日誌が目に付いた
ロジャーからもらった形見であり、ローもこの日誌の内容はとても面白く普段から持ち歩いていたことによりあのフレバンスの悲劇から奇跡的に現存していた
「ロジャーおじ様……」
ローはぎゅっと日誌を抱きしめた
そうして、ロジャーが昔教えてくれた"ある歌"を思い出した
「……スゥ」
───ビンクスの酒を 届けにゆくよ
海風 気任せ 波任せ
潮の向こうで 夕日も騒ぐ
空にゃ 輪をかく 鳥の唄
フレバンスのみんなで楽しく歌ったこの歌を静かに口ずさんでいく
───さよなら港 つむぎの里よ
ドンと一丁唄お 船出の唄
金波銀波も しぶきにかえて
おれ達ゃゆくぞ 海の限り
気がついたらローの綺麗な琥珀色の瞳から涙が止めどなく零れ落ちていた
───ビンクスの酒を 届けにゆくよ
我ら海賊 海割ってく
波を枕に 寝ぐらは船よ
帆を旗に 蹴立てるはドクロ
楽しかった思い出は今や珀鉛のように真っ白に変わり果ててしまった
───嵐がきたぞ 千里の空に
波がおどるよ ドラムならせ
おくびょう風に 吹かれりゃ最後
明日の朝日が ないじゃなし
気がつけば他のドンキーホーテファミリーも静かにローの歌を聴いていた
───ビンクスの酒を 届けにゆくよ
今日か明日かと宵の夢
手をふる影に もう会えないよ
何をくよくよ 明日も月夜
その歌詞にドンキーホーテファミリーの数人が手をピクリと動かした
───ビンクスの酒を 届けにゆくよ
ドンと一丁唄お 海の唄
どうせ誰でも いつかはホネよ
果てなし あてなし 笑い話
ローは海を眺めながらかつてロジャーに教えてもらい国中で歌った"ビンクスの酒"を歌いきった
ローにとってこの歌は唯一フレバンスを思い起こす歌にしてロジャーから受け継いだ日誌以外の"忘れ形見"だった
コラソンと旅を続けて1ヶ月が過ぎ去ったあたり
「なぁ。ずっと気になってたんだがその日誌なんだ?」
「……」
ローは話すべきか迷っていた
この1ヶ月で大体コラソンがどんな奴かは把握していた
それでももしバレたらどうなるのか分からない恐怖がローを襲った
だが、いつかはバレるだろう
ならば話しておいた方がいいだろう
「……海賊王、ゴール・D・ロジャーの航海日誌だ」
「へぇ、そうなん……え"っ"!?」
コラソンは衝撃のあまり加えていた煙草を地に落としてしまった
(……やっぱり言わない方が良かったかな)
ローは少し後悔していた
だがコラソン反応は想像していたものと違っていた
「ロー!お前海賊王と知り合いだったのか!?すげぇな!!」
「……え」
てっきり驚愕したコラソンに最悪見捨てられる覚悟をしていたのに、そんな素振りも見せずなんなら目を輝かせているコラソンにローは目を見開いて固まった
「……なにも、しないのか?」
「ん?」
ローは航海日誌をギュッと握りしめ言い放った
それにコラソンは小首を傾げた
「別になんもしねぇよ」
「は?」
コラソンはそう言って朗らかに笑った
その様子にローは思わず声を上げてしまった
「そりゃ、それを悪用しようとするなら俺も止めるさ。でも、お前はそんな素振り一切見せなかったからな!」
「!!」
ローは大きく目を見開き驚愕のあまり体を小刻みに震わせ始めた
ロジャーの関係者であるローはフレバンスの生き残りであることも加味して世界政府からしたら目障りでしかない存在だ
しかも、それを知りながら自分を"普通の子ども"として扱ってくれる人間など、もうこの世に居ないものだと思っていた
「……ふん」
「え"!?どうしたんだロー!俺なんかしたか!?」
照れ臭さからかコラソンから体ごと背け鼻を鳴らした
そんなローを見てコラソンは機嫌を損ねてしまったと思い慌て、ローの背後で盛大にコケた
ローはコラソンに顔を見られていないことをいいことに口元をモゾモゾさせて頬を少し赤らめ笑っていた
(……ロジャーおじ様。この人なら、あなたの事を話してもいいかもしれない)
コラさんと旅に出て半年が経った
そうしてようやくローを救える方法が見えた
だが、コラさんはオペオペの実を盗む際に負傷、そしてヴェルゴに徹底的に痛めつけられ死にかけていた
ローはオペオペの実の能力者へとなり、コラさんによって生かされた
「コラさん……コラさんっ!!」
泣きながらも懸命にローは歩き続ける
その両腕にしっかりと航海日誌を抱きながらひたすらに、ひたすらに
辛くても何がなんでもローは生き残らなければならない
それが、コラさんの望みであり、フレバンスの望みであり、ロジャーの望みである
生きなければならない
「死んで……たまるかっ!!!」
そしてローはスワロー島に辿り着き、そこでヴォルフという老人と3人の子分ができた
色々ありつつも、スワロー島に着いて3年後にローは"ハートの海賊団"として旗揚げをした
ローはまだ知らない
世間に出回ったローの手配書に、数多の海賊が喜びに打ちひしがれローに会いに行こうとするものがいることを
敬愛するロジャーの友の子供
それだけで、ローは守護するに値する存在だ
こうして、運命の歯車は動き始めた
旗揚げをしてから数年がたち遂にグランドライン入りを果たしたローたちハートの海賊団
そろそろ資材が足りなくなったことにより海面に浮上し、資材を仕込もうとしたら
「キャ、キャプテン!!前方から四皇"赤髪のシャンクス"の船が!!」
「な!?」
ローは慌てて甲板に出て前方を見た
確かにあれは四皇赤髪のシャンクスの船だ
だが赤髪のシャンクスは新世界にいるはずだ
何故こんなグランドラインの前半にいる……?
「ちっ!考えたって仕方ねぇ!急いで潜水の準備を……!!」
「キャ、キャプテェン!もうすぐそこまで来てるよォ!!」
「はぁ!?」
急いで前方に目を向けると確かに距離があった赤髪の船がもう目の前にまで迫っていた
そしてローたちハートの海賊団は(終わった……)と思った
だが
「お前がトラファルガー・ローか?」
「……ああ」
ローは覚悟を決め堂々と自分がトラファルガー・ローであることを認めた
これから戦闘になることを覚悟して鬼哭を構えようとした
「やっぱりそうか!!俺、ずっとお前のこと探してたんだ!会えてよかった!」
「……は?」
ローはポカンと口を開け呆けてしまった
そして、ふと思い出した
(……あれ?シャンクスってロジャーおじ様の日誌に書かれてた気が……)
「……あ」
「赤髪のシャンクス…?まさかっ!」
色々あったがなんだかんだ言ってローは赤髪のシャンクスとすぐに打ち解けることができた
そもそもシャンクスはローに危害を加える気は一切無かった
あれやこれやと言われるうちにちゃっかり別れ際にシャンクスのビブルカードを持たせられたりとシャンクスはローに過保護の一面を見せてきた
「じゃあな!ロー!なんか困ったことがあったらなんでも言ってくれ!」
「ああ」
そう言ってシャンクスは自身のナワバリに帰って行った
ローは受け取った電伝虫の番号とビブルカードを見つめた
まさか、日誌に書かれてたシャンクスが四皇なのには驚いたが、それと同時に喜びも感じていた
「……会いに、行ってみようかな」
この日誌に書かれている人に会ってみたい
ローはそう思った
赤髪海賊団の「突撃!となりの忘れ形見!」から数ヶ月経ち、それなりに名を挙げ始めたころ
「キャ、キャプテェン!!前方から白ひげ海賊団がぁ!!」
「はぁ!?」
ローはひたすら困惑した
だってこの前四皇の一角にあったんだぞ???数ヶ月もしないうちに白ひげとかち合うなんて誰が想像する???
「……潜水を……」
「もうそこまで来てますキャプテン!!」
「……スゥー」
ローは死んだ目になり息を深く吸い込み天を仰いだ
「グララララララ!!お前が有名な"死の外科医、トラファルガー・ロー"だな!?」
「……そうだ」
そしてローは思った
……あれ、デジャブじゃね?と
「ちょいとお前に頼みたいことがあるんだ」
「……?」
(いや待て……白ひげ……?そういえば白ひげもロジャーおじ様の日誌に書かれてたような……)
「……あ」
色々あったが(主に白ひげの黒歴史暴露)ローは白ひげが病気にかかっているので治せないか聞かれた
正直白ひげの病気を治すことは簡単に出来る
だがなぜそんな重要な役目を最近名を挙げたばかりのローに頼む理由が分からなかった
「……白ひげ屋の病気を治すことは可能だ」
「ほんとか!?」
「良かったな親父!!」
「グララララララ!まさか治るとは思わなかったなぁ!」
「1つ、聞きたいことがある」
その言葉に騒いでいた海賊たちは一斉に口を閉じローを不思議そうに見つめた
「別に俺はあんたを治すことに不満はねぇし、俺は医者だ。患者が目の前にいるのに放っておく訳にも行かない」
「……」
「あんたは四皇だろ?そんな"この海"でも重要な立ち位置にいるあんたがわざわざ新世界から最近名を挙げたばかりのルーキーにグランドラインの前半までやってきた?」
ローはカルテを一旦下げ、白ひげを見つめた
「……ロジャーから聞いた」
「!!」
「あいつは昔不治の病に犯され、ある凄腕の医者に見てもらったと」
「ロジャーを見た医者の名は"トラファルガー・レスト"……大方お前の父親だろう」
「……確かに、レストは俺の父だ」
ローは少しいたたまれなくなり顔を伏せた
まさかこんなところで父の名を聞くとは思いもしなかった
「フレバンスの件は知っている……なにもしてやれなくてすまなかった」
「!?」
ローは目を見開き白ひげを見つめた
「な、んであんたが謝るんだよ……」
「フレバンスについては俺もロジャーの代わりに守ってやりたかったが内陸国ということもあって難しかった」
白ひげは頭を下げたまま言葉を続けた
「まさか生き残りがいるとも思わなくてフレバンスの件からは完全に手を引いていた」
「……」
白ひげはゆっくりと顔を上げた
その顔は慈愛に満ちておりとても優しい顔をしていた
「ロジャーが可愛がっていた子供ってのは……お前のことなんだろう?」
ローは言葉を出さずにゆっくりと頷いた
「今まで、辛かっただろう」
「……っ!」
白ひげは大きな手でローの頭を撫でてやった
「ひぐっ……」
ローはその大きくて優しい手にかつてのロジャーを思い浮かべ枯れたはずの涙をとめどなく流し始めた
「……悪ぃ、みっともない所を見せた」
「グララララララ!気にするな」
ローはゆっくりと白ひげの手を両手で掴んで降ろした
「あんたの病気は、俺が絶対に治してみせる」
──俺は、医者だから
そう言ってローは力強く白ひげを見つめた
その瞳に白ひげは目を細めた
(……ああ、確かに……いい目をしてやがる)
白ひげは昔ロジャーの話していたことを思い出した
『レストの目はまっすぐで燃えているようだった!今時あんないい医者はいないぜ!』
きっとローは今まで酷い目にあってきたはずだ
それなのに目の輝きを失わず、医者としてのほこじを持ち続けているローに白ひげは思わず"無くしてはならない"……そう思った
「手術は来週の今日だ」
「ああ。わかった」
───全く……ロジャー
お前は本当に、人に恵まれている
あれから宣言通りにローは白ひげの病気を治してみせた
白ひげ海賊団は病気が治ったことに大喜びをしていた
その中でもマルコやイゾウ……かつてロジャーと関わりのある者たちはローのことを気にかけていた
フレバンスの悲劇を知らぬものはいない
白ひげからは何となく事情を聞いている
それでも折れずに海へ出て医者としてのほこじを持ち続けているローを気に入った
「グララララララ!まさか本当に治すとはな!!」
「トラファルガー、感謝してもしきれないよい……」
「気にするな。俺は医者として治したまでだ」
そしてローは白ひげの治療代としてそれなりの財宝を貰い立ち去ろうとしていた
「……もう行くのか?せめてもう少し……」
「俺はやらなきゃ行けないことがあるんだ。悪いな」
「……ちょっと待て」
「?」
ローを引き止めた白ひげはローにビブルカードと電伝虫の番号が書かれた紙を渡した
ローはまたしても謎の既視感に襲われていた
(……赤髪といい、四皇はビブルカードと電伝虫の番号を押し付けたがるのか……?)
そう思いながらも白ひげの思いやりを無下にすることも出来ず、諦めて受け取った
「グララララララ!じゃあ元気にやれよ。虎小僧」
「ああ。酒は程々にな」
そう言ってロー率いるハートの海賊団は海へ潜っていく
聞こえているかは分からないがそれでも白ひげ海賊団は声を上げていく
白ひげは大きな羽織をはためかせながらローが消えた水平線を見つめ静かに佇んだ
(今度会った時にゃぁ……1杯飲みかわしてぇもんだ)
「……生き延びろよ、虎小僧」
その時、ローも白ひげも気づくことは無かった
ローに這い寄る……闇の気配に