黄金在記~2007年7月某日~

黄金在記~2007年7月某日~


「ここ、空いてるかな?」

上から降ってきた声の頼みを断る理由は特になかった。

頭を上げレジィと黄櫨に目を向けた孔は、テーブルに広げていた紙を纏めながら「どーぞ」と空席を勧める。


同席の礼に渡されたカップの中身を啜っていると、興味深いといった表情のレジィと目が合った。

「俺の顔に面白いモンでも付いてんのか?」

「いや、眉間に皺が寄ってる君を見るのは久し振りだと思ってね」

「そんなに面倒な案件なのかい?」とカップを持ったままの手が指差したのは、テーブルの一角に積まれた書類の束。

「…今度、2年が当たる任務の資料だ」

孔はそう言うと、軽く纏めただけだった紙を順番通りに並べ直しレジィと黄櫨に向かって差し出す。


高専所属の術師にとって馴染み深い形式でまとめられた任務内容を一通り読み終わった2人が抱いたのは、特段変わった点の無い2級呪霊の討伐任務という感想。

「あいつらの実力なら順当、ってか楽勝な任務だと思う」

「俺も折と同じ意見だね」

「だよなぁ……俺もそう思うんだが、どうにも違和感があってな」

何度読み返しても不審な点は見つからない、なのに拭いきれない違和感だけは感じ続けている。

お陰でたまたま目に入っただけの、自分が担当する訳でも無い任務の調査資料と休憩時間に睨みあう羽目になっているのだと、孔は片手で髪をかき回しながら苛立たし気に言葉を零した。


レジィは再び手元の書類に目を落とす。

一度目より念入りに内容を読み込んでいくが、やはり印象は変わらない。

「あ」

不意に隣から聞こえた声に振り返る。

「どうした折」

「いや、この現場、髙羽の奴が行くっつってたロケ地に近いなって思って」

今現在、お笑い芸人よりもリアクション芸人としての人気が高い髙羽がロケと言った場合、おおよそ7割はホラー物の企画だ。

黄櫨が本人から聞いた限りでは、どうやら任務と同日に行われる今回のロケも、場所自体は昔から存在していたが近頃話題になりだした心霊スポットに行くというものらしい。


「んー……文字を眺めてるだけじゃ埒が明かないな。ウチで調べてみるか」

「おいおいおい、ただの勘だぜ?」

善は急げと家が独自に有する手足を動かすため携帯を取り出した同期に、孔が慌てて待ったをかける。

何もなければただスター家が金と時間を無駄にするだけだと言外に含ませる孔へひとつウインクを返すと、レジィはキーを叩く指を止めないまま口を開いた。

「これまで1度も超人に巻き込まれていない君の危機察知能力は高く買ってるんだ。そんな君が怪しいと感じたのなら調べてみる価値はあるのさ」




2007年8月

等級の誤判定から高専生2名が2級呪霊祓除の任務にて1級相当の呪霊と遭遇。

当時現場付近にいた髙羽3級術師の介入により死亡者0名での逃走に成功。

同任務は担当を五条特級術師へ引継ぎ続行。

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