黄金の再会

黄金の再会


目が覚めたら別の自分になっていた。

突拍子もない話だがそういう例えが一番正しいだろう、なにせ自分の中に見知らぬ自分の記憶が存在しているのだから。

身に覚えのない記憶の数々に驚きはしたがそこまで混乱する事は無かった。それよりもむしろその記憶を当然のように認識している自分が一番の驚きだった。それでも混乱が無いのは——自分が変わった原因と為すべき事をはっきりと認識しているからだろう。

手早く身支度を整え、朝食もそこそこに彼女は家を出る。

原因ははっきりとしているがそれにより何が起こっているのかははっきりとしていない。問題解決のため、彼女のマスターのために一刻も早い解決が望まれる。

その為には行動あるのみだ。


「それでは出かけてまいります。遅くなるかもしれませんが心配なさらないでください」

「セイバーに限って危険とか早々無いと思うけど……まあ、何かあったら連絡してくれ」

「はい、シロウ」


そうしてセイバー、真名アルトリア・ペンドラゴンは衛宮邸を後にした。



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夏も終わり秋に差し掛かる境目の季節、境界というものにはよくよく何かが交わるものらしい。

例えば、居る者居ない者が交錯する今。例えば、出会うことの無い者達が出会う今。例えば、知ることの無かった一面を知ることになる今。

例えば、本来有り得ない筈の特異点を解決するためにやって来た者と出会う今。


「あれ……アルトリア?」

「ああ。ようやく見つけました、マスター」


何食わぬ顔で冬木の町には存在しえない者——カルデアのマスターと合流する。

だが当の彼は困惑気味だ。自分が共にレイシフトし特異点に辿り着いた時には居なくなっていたはずのサーヴァントはアルトリアであってアルトリアではない。オルタと呼ばれる目の前の彼女の別側面なのだから。


「困惑するのも無理はありません。私はこの特異点に元々存在していたアルトリアですから、厳密には貴方のサーヴァントであるアルトリア本人ではありません」


だが、自分の中には確かにカルデアのサーヴァンととしての記憶——アルトリア・オルタの記憶が存在する。

おそらくこうなった原因は存在そのもののコリジョンが原因だろう。完全同位の存在が万全の状態で同時に成り立たないのはカルデアでもままある事であり、アルトリア・オルタがレイシフトした先にアルトリアが存在したため情報だけが現地のアルトリアにレイシフトしたような形だろうと。


「レイシフトにトラブルは時たまある事だけど……そういうのトリスメギストスが予測して予め省くんじゃないかなあ?」

「そこは如何とも……あえて弾かず、この状況こそが重要なのかもしれませんが……」


考えても答えは出ない。そもそもこういう専門的な知識に関しては頭脳陣に頼らなければ分からないだろう。

そして肝心の頭脳陣との連絡はレイシフト後通信が不安定になっているためどうにもならない。


「またですか」

「うん、いつもの事と言えばいつもの事」

「はあ……そうですね、貴方の旅路は不測の事態ばかりでした」


オルタの記憶は正確には自分の物ではないものの同位存在だからか妙にしっくりくるもので、我が事のように思い返す事が出来ていた。

これならば今後の行動に支障も出ないだろうと改めて彼女は気を引き締める。

これは、この冬木にあってはならない事態。それを解決するため自らここに赴いたのだから。


「では……本来貴方のサーヴァントではない身ですがこうなったのも何かの縁。この事態を解決するまでの間、レイシフト出来なかった私に代わり貴方の剣となる事を誓いましょう」

「ありがとう。頼もしいよ、アルトリア」


そしてこの事態に元のマスターを——シロウを巻き込みたくはない。

だからその事にはあえて触れず胸に秘め、特異点早期解決を目指し二人は行動を開始した。



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だが、特殊な状況は相応の負担をアルトリアへと掛けた。

戦闘を行うのは良い。だが下手に騒ぎ立ててはパスを通じてマスターである衛宮士郎が気付く可能性が高かった。それを嫌ったアルトリアは戦闘に関して消極的にならざるを得ず、更にもう一点頭を悩ませる事がある。

自分自身の記憶と別に暴君としての側面であるオルタの記憶がある事。違和感なくそれを受け入れ記憶を活用できる事は都合が良いと思っていたが……戦闘に関しては明確にマイナスにならざるを得なかった。

理想の王としてのアルトリアと暴君としてのアルトリアはその振る舞い、戦い方からして別物である。己の魔力にものをいわせ全てを薙ぎ払う戦い。エコな戦闘を行おうとするアルトリアと反発する様な癖は当然の帰結として齟齬として行動に現れ隙を生む。

別に、それで問題があった訳ではないのだ。

何故ならばカルデアのマスターはその特殊な立ち位置ゆえに多くのサーヴァントの力を影として行使でき、その戦力は単純に考えれば冬木に残存するどのマスターよりも遥かに強大な武器だろう。

だからこそアルトリアの動きが精細を欠いていても特に問題は無かった。

それを彼女自身が許せるかどうかはまた別の問題だが。


「アルトリア?」

「……やはり、このままではいけない」


このままでは戦力になるどころか肝心な場面で足を引っ張る結果になりかねない。

そうなれば最悪、特異点を解決できず極大の災厄が目の前の彼や胸に秘めた本来のマスターに襲い掛かる可能性がある。それを看過する事など彼女には不可能だ。だからこの状況をどうにかするため、自分が戦えるようになるために今の彼女に思いつく手段は一つ。

パスをもう一つ、カルデアのマスターとの間に繋ぐのだ。

幸いにもオルタとの重なりでラインの構築自体は容易いだろう。それさえ出来ればカルデアのラインを頼りに彼女も全力で戦闘でき、本来のマスターにそれを気取られる事も無い。

問題があるとすれば一つ、自分が知り得て即実行できるその手段は一つくらいということだが……守るべき者のため、彼女はそれを吞み込んだ。


「マスター……私と、正式な契約をお願いできますでしょうか」



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「お゛お゛っ♥♥膣内で、暴れて♥ひぐぅっ♥♥」


獣のような声だった。

本来のマスターのため、特異点解決のため、自身が実力を発揮できるようになるため、言い訳はいろいろとあった。このような事情で行為に及ぶのも初めてではない、だから気にすることは無い、と……カルデアのマスターを誘い、本当の意味で契約を結ぶために行為に及んだ。

だが本当にそれだけだっただろうか。


「マスターのチンポっ♥これ♥すごぉっ♥♥」


オルタの記憶があり、それを当たり前のように認識している事。

それはつまり彼との——藤丸立香との関係も同じように当たり前のように認識しているという事だ。

だから当たり前のようにアルトリアは知っている、彼の性行為の凄まじさを。多くの英霊、女性をその身一つで虜にしている事を。その多くは伴侶が居る身でありその想いすら変えさせてしまうほどの物だという事を。そして、何よりも暴君である自分が彼の虜である事を。


「アルトリアっ!アルトリアっ!」

「んああっ♥マス、タァ♥子宮♥潰れ♥おおおおっっ♥♥」


シロウのためと行動した。この戦いに彼は本来関係無く、たまたま自分だけが関わったのだから戦う必要は無いのだと。せめて穏やかな時間を過ごして欲しいと願い、カルデアのマスターと行動を共にした——そう思っていた。

けれど分かる、分かってしまう。

ここ数日行動を共にしながら行為に及ぶことが無かった彼はその性欲を持て余していた、それをぶつけられる相手が出来ていつも以上に興奮しているのが分かる。そして自分もまた……彼の欲望を一心に受ける悦びを久しぶりに味わい、魂の芯から歓喜の叫びを上げているのが分かってしまう。


「もっ♥もっと強く♥激しくして下さい♥♥いつもオルタにするみたいに遠慮無く♥私を抱き潰すつもりで♥」


もう、誤魔化しは出来ない。


「オルタと同じように♥私をリツカの愛で♥♥満たしてくださいっっ♥♥♥」


彼に女として求められる事を、期待していたことを——♥


「あああ凄いっ♥素敵♥私の膣内♥リツカの形に変わってますっ♥♥広がって♥奥の奥まで♥リツカ専用にぃっ♥♥」


乱れる、喘ぐ、腰を振る。

今の彼女を見て騎士の王と思う者は居ないだろう。快楽に溺れ、蕩けきった一匹の雌……それが今のアルトリアだった。

果たすべき使命も、守るべき本来のマスターも、ようやく得られた女として最高に満たされた時間の前には何の意味も無かった。ただ蹂躙され、ただそれを享受する。自分の全てが男のものにされていく充足感のなんと幸福なことか。


(ああ……♥これ程、自分が女だと思い知らされた事は無い♥これ程、自分が女であった事に感謝した事は無い♥)


記憶は記憶だと思い知らされる。肉体での実感は記憶を遥かに上回り真実の実感を伴って心を犯しつくしてくる。

それが、嫌と思えない。

不貞であるはずなのに、裏切りであるはずなのに……嫌だなんて思える筈が無かった。

気付けば顔が近い。

荒い吐息、赤らんだ顔、快楽に歪んだ表情。シロウとどこか似た雰囲気を感じるが確実に違うそれを前にして……気付けば彼女は自ら唇を捧げていた。


「んむっ♥ちゅ♥じゅる♥ぷあっ……んんっ♥んぶ♥む♥じゅるるるるるるっ♥♥」


舌を絡める。唾液を飲み干す。自分が今感じている気持ちが少しでも相手に伝わる様にと夢中になって口を使って奉仕する。

今まで感じたことの無い幸福感に全身を満たされながら自らの中で震える逸物にその時を悟った。


「ぷはっ……♥だ、射精してくださいっ♥私の奥に♥子宮にっ♥♥」

「っ、良いのっ?」

「構いませんっ♥私を、貴方のサーヴァント/女にしてくださいっっっ♥♥♥♥」


その言葉が引き金だった。

まるでダムが決壊したかのように灼熱の欲望が我が物顔で騎士王の女の象徴を占領していく。


「お゛っ♥♥♥あ♥お♥んひっ♥♥ん゛ん゛ぉぉおおおおおぉぉおおおぉおおぉおおおおおおおおおおっっっ♥♥♥♥」


溺れるような熱だった。目が眩むほどの幸福だった。

目の前の男の欲望を受け止めたという事が誇りに思えるほど、心に烙印を焼きつけられるような極上の快楽だった。

だらしなく舌を伸ばし開いた口から唾液を垂れ流し雌の本懐をアルトリアは堪能する。

魔力と共に身体を満たす女としての充足感と、共に感じる確かな繋がり。

……ここに目的は果たされた。


「——これより、我が剣は貴方と共に在り……♥貴方の運命は♥私と、共に在る♥

——ここに、契約は完了……した♥」


これより先は真に彼のサーヴァントとして、戦うのだ。



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そして、特異点は解決した。

元凶を聖剣で断ち切り人理定礎は安定を見せる。であるならば有り得ざる者は立ち去るのが定めだ。

その事実が胸を締め付けるが——彼女は騎士。それを見せる事は無く最後まで騎士として立ち続ける。


「ありがとう。アルトリアのおかげでこの特異点を解決できた」

「いいえ、私は貴方のサーヴァントとして当然の働きをしたまでです。貴方の剣となり、敵を討ち、御身を守った……この約束を果たせてよかった」


後悔は無い。

例え特異点の消滅と共に全ては元に戻りこの想いが消えるのだとしても。

彼のサーヴァント/女として駆け抜けた日々は本物なのだから。

だから。


「————ん♥」


唇を奪われる。

頭の奥がじんと痺れるような幸福。


「——————————」


その熱の名残を残して彼は消えた。

例え全てが無かった事になるとしても。

僅かでも何かを残せるようにと、そのように歩んできた彼の旅路と同じように。


「ああ————本当に、貴方らしい」


指で唇に触れれば仄かに感じる暖かな熱。

全てが修正される間際の別れ。

永遠に巡る四日間に立ち戻る僅かな時間、彼女はただの女として想いを馳せた。



——————————


目が覚めたら別の自分になっていた。

そう形容するしか無い違和感。理想郷にあって変化の無い身に起きた覚えの無い僅かな棘。

彼の人生を見守り、心を痛めながら、その奥底で何かが違うと違和感が拭えない。

気持ちは確かなのにそれだけではないような……歯車がかみ合わないような感覚。

彼を迎えた時もその再会を喜びながら——何かが足りないと感じていた。そうじゃない、違うと、心のどこかで声を上げる自分が居た。

分からない。分からない。

彼ではない誰かを求めている——なんて、そんな性質の悪い冗談を信じたくはない。

そう思っていた。


「——サーヴァント・セイバー。召喚に従い参上した」


こうして死後、彼に召喚されるまでは。

思い出す、理解する。

私は生きている身で召喚されたサーヴァント。だからこそ遠く時空を超えた肉体にその記憶は刻まれたのだ——それが例え泡沫の夢として消える特異点の出来事であろうと。それこそ、目の前の彼と同じように。


「————ん♥」


今度は自分から唇を捧げた。

別れ際の寂しさを上書きするように、再会の喜びを伝えるために。


「最初に、一つだけ伝えないと」


違和感も当然だと彼女は理解する。

自分の身体は覚えていたのだ、真に愛した男を。心は理解していたのだ、身体が求める相手は彼ではないと。

それをようやっと理解した彼女は同時に、辿り着いたのだと確信する。自分の今までの道のりはこのためにあったのだとも。

即ち、人理保証期間カルデア。そこに確かに居る人類最後のマスター藤丸立香——今度こそ何の憂いも無く彼のサーヴァント/女として共に在るために自分は英霊になったのだと。


「リツカ————貴方を、愛している♥」

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