黄泉の国、夜の一幕
・擬人化要素あり
・夜の匂わせあり
・いろいろ捏造あり
以上の要素が大丈夫な方、このままどうぞ
黄泉の国、それは死した魂の行き着く世界
そこには多くの人とそうでないものが住み、生前と変わらぬ暮らしを送っている
一部の魂は然るべき場所へと引き込まれるのだが、それはこの世界を司る“何か”の心持ち次第だ
そんな世界の何処か、月夜の縁側にて一人の男が晩酌に興じていた
その顔立ちは青年といえる程に端正で、新雪の如き髪が穏やかな風に揺れる
下弦と言うには少々太いがまだ満月には手が届かない、彼が“主人”と定めた男に初めて振るわれた夜と同じ月
そんな月を見上げながら盃を傾けていると、
「雪くん」
一人の女性が声をかけてきた
「テラ様」
「隣、いいかしら?」
「はい」
青年-雪-が頷くと、テラと呼ばれた女性は彼の横に座った
「今日は一人でお月見なのね」
「はい。月が、あまりに懐かしい形をしていたもので」
雪が酒を注ぎながら応えると、テラは静かに微笑んだ
「あなたは?」
「寝る前にちょっと風にあたろうかと思って。あの人、今日はいつになく積極的で。まだ少し腰(ここ)が重たいけど、動ける程度には休めたから」
「なるほど。では、ほどほどに涼んで戻ってくださいね。じゃないと拗ねてしまいますよ」
雪の言葉に彼女は「ええ、そうするわ」と返して月を見上げた
その寝間着からのぞく胸元には、小さな紅が点々と咲いていた
月明かりの下、とりとめのない会話が流れる
そんな中、雪はすっと目を細めながら口を開く
「世の中には「死が二人を別つまで」という言葉がありますが、最近違うのではないかと思うようになりました」
「違う?」
「ええ。「死が二人を別つまで」ではなく、「死すらも別てない」なのではないかと。むしろ、死して尚想いはつのるのだと。あなた方を見ていると、そう感じるのです」
「雪くん…」
「もう少し言わせていただくと、お二人が幸せだと私も幸せなのです。お二人の仲睦まじい姿を見ると、なんというかこう、胸が高鳴るのです。心が暖かくなるのです。花が咲いているように見えるのです。世界が彩られていくのです。世界が幸福に包まれるのです。なのでお二人にはいつまでも仲良くいてほしいと思っていますし、私もお二人のご子息たる主様の刀としてこの幸せを守っていきたいと思うのです。お二人を引き裂こうなんて輩が現れようものならもう骨も残らぬ程に斬り刻んで三途の川n「雪くん?」
テラの声が聞こえたところで雪はハッとした
その顔は俯き、みるみるうちに赤くなっていく
まさか本人の前でこんな話をしてしまうとは
酔っていたのか?いや、そんなのは言い訳に過ぎない
雪の頭の中がグルグルとかき回される
俯いたまま動かない彼をテラが心配そうに見つめたその時、雪はガバリと顔を上げた
そして、
「あ、あの…わた、私……ね、ねましゅ!き、今日はお付き合いしてくだしゃってありがとうごじゃいました!それでは、おやすみなしゃい!」
そう言ってそそくさと酒瓶と盃を持ち、逃げるようにその場を後にした
残されたテラは、呆気に取られながらも暫く雪の歩いて行った方を見つめていた
その後、
「雪くん、ありがとう」
と彼のいた方に微笑んだ
そして最後にもう一度月を見上げ、彼女も部屋へと戻って行った