黄昏を生きる
WCI編のサンジ奪還時のサンジイメージ曲よりタイトルをお借りしてます。(ルフィイメージ曲に対するアンサーソング)
ルサン、と言うかこれだけ読むとル←サン
キスやエロはないけどcpもののつもり。
対になる話を読んでもらうとル→←サンの両片思いになります。
なんでもバッチコイの方は以下よりどうぞ
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死ぬこと以外はかすり傷で。
死ぬこと以外はかすり傷なら、それこそ受けた恩は死ぬことでしか返せない。
ずっと、そう思っていた。
だからルフィを突き放した。
「お前が海賊王になれるかどうかも疑わしい。」
なんて言って。
「そうじゃないだろ。」と。
地に落ちた血潮のような黒が呼ぶ。
「そうじゃないだろう。お前は。ルフィを切り捨てるつもりなら『お前は海賊王にはなれない』と断言しないといけないだろう?」
紅い黒(ヴィンスモーク・サンジ)がニヤリと笑う。
「そうじゃねぇだろ!」と。
深い深い、深海の青を孕んだ黒が叫ぶ。
「ルフィは海賊王になる!俺なんか居なくても絶対に成る!だから『海賊王になれねぇ』なんて、お前が言わせんな!」
青い黒(黒足のサンジ)が叫ぶ。
俺の中でうわんと巡る2つの声も、ルフィの「海賊王になれねぇ!」なんて叫びにも耳を塞ぐ。
ボロボロになって、それでも走ろうとするルフィを、俺はもう振り返れない。
死ぬこと以外はかすり傷だけど。
ルフィを蹴った足は、死ぬほど痛かった。
○○○
本当は、きっと、気付いてた。
俺は分かってて、それでもプリンちゃんの言葉に騙されていたかった。
でも。
○○○
結局また、俺はルフィの元に戻ってきてしまった。
恩を返す為ならいつでも捨てられると思っていたオールブルーへの夢を救われた時みたいに、生きるのをやめようとした俺を、ルフィは掬い上げて、救ってくれた。
―――「お前が居なきゃ、オレは海賊王になれねぇ!」
なんて。
あぁ。
なんて。畏しく、恐ろしく、そして、震えるほど嬉しい言葉だ。
そんな言葉に、でも俺は、呪われてしまいたいと願った。
俺は、ルフィが食べるところを見るのが好きだ。
満足そうに笑う顔が好きだ。
―――夢のために振り向かない、その背中が好きだ。
でも、ルフィは夢のために振り向かないんじゃなかった。
「おれは、海賊王になったとき、1番好きなモンが見てぇ。うめぇメシ作って笑うおまえが見たい!」
「は」
お、まえ、それは。
それは、「夢を叶えたその瞬間にお前が見たい」なんてそれは。
(そんなの、勘違いしちまうだろ…!)
「海賊王になれねぇ」に加えてそんな言葉をもらってしまったら、もう俺は逃げられない。
どうやらルフィは振り向かないんじゃなかった。
俺を見るルフィをずっと、見ないふりをしてきたのは俺の方だった。
ルフィの言葉と瞳に雁字搦めになって、逃げ道なんてなくなって。
いつでも終われると思っていた夢の捨て場も無くなって。
(あぁ。)
それで漸く覚悟が決まった。
そうさ、俺は、ハラが減った奴は見過ごせねぇし、「お前が居なきゃ海賊王になれねぇ」なんて叫ぶバカを見捨てられない。
「付き合ってやろうじゃないか、海賊王への道!」
過去の自分の言葉を破れない。
海賊王になる男の、呪いじみた呪い(まじない)の言葉を、手放せないなら。
(だったら呪いすら引き受けて、俺はお前を海賊王にしてやるよ。ルフィ。)
晴れていた日が落ちて、真っ赤な夕陽が青を呑む。
黄昏時がやってくる。
暗くなり始めの、顔の輪郭が曖昧になる時間の中で、けれど見失うことを許さないと、真っ赤な意思を宿した黒曜石の目が俺を見る。
その目に映った俺は、生まれ変わったみたいな顔をしていた。
#黄昏を生きる