麦わらの一味vs.戦闘兵器(パシフィスタ)
シャボンディ諸島・12番GR——
「「「だあああああ!!!」」」
巻き起こる爆発を回避して、ウソップ・フランキー・ブルックの三人が物陰に身を隠した。
「ハア・・・ハア・・・手からも、口からも・・・!」
「コワァ」
「ゼェ・・・一体何だありゃ」
突如襲撃してきた王下七武海の一角・くまの放つ攻撃に、ついフランキーの口から文句が零れる。
「だから“ビーム”だろ“ビーム”!!」
「“ビーム”ってのは“光線”で!!そんな武器があったらすげェなっつー夢物語だろ!!!」
ウソップの発言に、フランキーは多少の焦りも含めて突っ込む。造船の都・W7で育ち、自身も様々なメカを作ってきたフランキーをして、今くまが放つ“ビーム”という攻撃手段は全く未知のものだった。
「で、なにやってんだお前」
「死んだフリですね」
「「もうバレてんだろ!!」」
スリラーバーグでの戦闘時は、ニキュニキュの実によって肉球が生えていたはずの掌からビームを乱射するくま。その攻撃を掻い潜りながら、三つの影がくまへと肉薄した。
「三刀流・・・」
「“ゴムゴムの”」
「“悪魔風”’(ディアブル)」
「「“羊肉JET”(ムートンジェット)!!!」」
「「“六百煩悩攻城砲”(六百ポンドキャノン)!!!」」
ルフィ、ゾロ、サンジ。麦わらの一味が誇る三強のコンビネーション攻撃をもろに喰らい、くまの巨体が轟音と共に吹き飛び建物に激突する。
さらに三人を脇を抜け、マイクランス・ピリオドを構えたウタが突撃した。
「“強き詠唱曲”(フォルテ・アリア)・・・!!
ハアアアアァァァ!!!」
口から零れる旋律で力を高めたウタは、そのまま気合いと共に未だ起き上がれていないくまにマイクランスを突き立てる。
「これなら瞬間移動も関係ないでしょ・・・!
いくよ!!“非常に急速な夜想曲”(プレスティッシモ・ノクターン)!!!」
突き差したマイクランスを通じ、骨振動で直接くまに歌声を流すウタ。
「・・!??」
だがすぐに異変を察知し、マイクランスを引き抜きルフィたちの元へと飛び退いた。
「どうだウタ!?」
「ダメ!アイツ、やっぱりスリラーバーグの時のくまじゃない!」
「ハァ・・・ハァ・・・そんなに違うのか!?じゃああいつ双子なんじゃねェか!?」
「——それも考えられる・・・!」
「でも、どのみち普通の“人間”じゃないよ・・・あいつ、ウタワールドに連れて行けなかった・・・!」
「ハァ・・・とにかく、本物なら“瞬間移動”でもっと攻撃を避けるはず。何より“衝撃”も飛ばさねぇし肉球もねェ・・・!それに、本物の方は喋りもしたし感情も確かにあった・・・!」
ここまでの戦闘で感じた情報を共有する四人。四人とも、軽く息を切らしていた。それはすなわち、彼らが全力で攻撃を続けていることを意味している。
だというのに、その攻撃を喰らい続けているくまは、平然と瓦礫の中から起き上がろうとしていた。
「——何にしてもニセ者だと言うなら、それはそれで問題だ・・・こんな強ェのが・・・二人もいるって事になる」
立ち上がったくま——否、謎の敵を見て、サンジは忌々し気に吐き捨てた。
51X話〝麦わらの一味vs.戦闘兵器〟
「ゾローー!!」
「・・・ウウ・・・!!」
「ゾロ!大丈夫!?」
ビームを喰らい倒れるゾロにウタが駆け寄る。
「おいゾロお前・・・!そんな動けねェほどやられたか・・・!?」
「ハァハァんな奴放っとけ!!ルフィ!アレを倒すのが先だ!!」
「・・・ああ!!ウタ、ゾロ頼む!」
「うん!」
スリラーバーグでの顛末を知らないため、ゾロのダメージに驚きと困惑を隠せないルフィとウタ。ウタに抱えられるゾロの状況を考え、サンジは目の前の敵に心中で毒づいた。
(あの時の傷が完治してるわけねェのに・・・!あのツラをまた拝まされちゃあ、立ち向かうだけで相当な苦痛だろ。
クソ野郎が・・・“七武海”と全く同じ姿なんて・・・一体どうなってんだよ!!)
「“刻蹄”!」
「!」
一方で、ルフィたちに注意が向いていた敵に、ランブルボールを使用したチョッパーが接近を仕掛けた。
「“桜吹雪”(ロゼオ・ミチエーリ)!!!」
鉄の如き堅さを持つチョッパーの蹄が、“腕力強化”(アームポイント)の力でもって乱舞する桜のように敵の体へと叩き込まれる。
微かにミシミシと音を立てふらつく敵だったが、踏みとどまり左腕でチョッパーを掴みあげた。そのまま空いた手でビームを発射しようとするが、そうは問屋が卸さない。
「“ストロングハンマー”!!!」
割って入ったフランキーの拳が、ビームの発射口を大きく逸らす。その隙にチョッパーは“脚力強化”(ウォークポイント)へと姿を変え、敵の拘束から脱した。
「‟フランキーBOXING”!!!オラオラウラァ~~!!!」
さらにフランキーの追撃。猛烈なパンチの雨が敵に殺到する。だが何発目かの拳を躱すなり、フランキーのそれにも劣らない強烈なパンチが逆にフランキーを襲った。
「ぶへ!!」
「“蜘蛛の華”(スパイダーネット)」
すぐさまロビンが生やした“腕”によって組まれた網が、吹き飛ばされたフランキーを受け止める。
「ハイお気をつけて~~!!行きますよ~~!!!」
次の一手は上空から来た。ヤルキマン・マングローブを駆けあがったブルックが、落下の勢いも加えて敵を急襲する。
「“飛燕(スワロー)ボンナバン”!!!」
だが信じられないことに、その攻撃は服を僅かに割いたのみ。鋼鉄のように堅い敵の皮膚に阻まれてしまう。
驚くブルック。敵はそんなブルックの方に顔を向け、ビーム口でもある口をパカリと開けた。
「ちょっとちょっとそれヤバイですって~~!!」
「必殺!!」
瞬時に、ウソップが巨大パチンコ『カブト』を引き絞る。
「“アトラス彗星”!!!」
四つに分かれた攻撃が敵に直撃し、窮地を脱したブルックはウソップにお礼を言いながら彼と共に引き下がる。
「アレ!?あいつ・・・様子が変だぞ!?」
異変に気付いたのはチョッパーだった。敵の動作に明らかなダメージが現れたのである。
「何だ・・・!?今更爆弾が効くのか!?」
「さっきの攻撃が一発口の中に入った!体の中の何かがショートしたんだ!
体は硬ェが肌から血も出る。おれと同じ様に体中を兵器に改造しただけの・・・元は生身の人間なんだ!!」
「じゃあウタ、お願いね!」
「任せて!行くよナミ!」
その頃、ゾロを少し離した場所に下ろしたウタは、今度はナミを抱えて駆けていた。
敵もその姿に気付き、掌と口からビームを乱射して仕留めようとする。
「大丈夫なの!?」
「だいじょーぶ!!いくよ!“快速な詠唱曲”(アレグロ・アリア)!!」
しかし、ウタには当たらない。旋律と共にスピードを上げたウタは、降り注ぐビームを全て掻い潜り走り続ける。尚も敵は彼女たちを仕留めようと攻撃を続けるが、それが隙を生んだ。
「“八十輪咲き四本樹”(オチュンタフルール。クロトワマーノ)!」
能力を発動したロビンが、複数の腕で構成された巨大な四つの腕を敵に生やす。
「“ショック”!!」
そのまま、ビーム発射直前の敵の口を強制的に殴って閉じたのだ。
行き場を失ったビームが、口の中で爆発を巻き起こす。
がくんと、膝を付く敵。
「お兄さん、休憩中悪いんだけど」
そんな敵の正面に移動したナミが笑みを浮かべて語りかける。
「そこ・・・雷注意報ね!」
その反対側には、雷迸る小さな黒雲。追撃の準備は整った。
「“雷光槍(サンダーランス)=テンポ”!!!」
黒雲からナミのクリマ・タクトに向かって走る雷の槍が、敵の体を貫く。
さらにその雷を、クリマ・タクトの前に構えられたマイクランスが受け止めた。
「“インレイ・サンダー”・・・!!」
そのまま、未だ動けない敵に雷と歌による力を帯びた槍が繰り出される。
「“急速な追奏曲”(ブレスト・カノン)!!!!」
痛烈な二連撃を喰らい、ついに敵が背中から地に倒れた。
「やった!」
「ナミ!!」
「え・・・キャ!?」
喜ぶナミだったが、駆け寄ってきたウタは彼女を抱え素早くその場を離れた。疑問への答えは、巻き起こった爆発によってもたらされた。
起き上がった敵が、四方八方でたらめにビームを乱射し始めたのである。
「おわァ!あんにゃろ暴走し始めた!!」
「ヤケになったら勝負は終わりだ!!」
「おい!!」
再び“悪魔風脚”(ディアブルジャンブ)を纏ったサンジが、敵へと駆け出す。そんな彼の背に、バンダナを締め復帰してきたゾロが声を掛けた。
「こっちへ・・・飛ばせ・・・!!」
「意地はりやがって」
一瞬振り返ってそう言い——
「“画竜点睛(フランバージュ)ショット”!!!!」
サンジ渾身の蹴りが、敵に直撃した。
破片をまき散らしながら吹き飛ぶ敵。その向こうに待つのは、気迫により三面六首の鬼神の姿を成したゾロ。
「“鬼気九刀流・阿修羅 魔九閃”!!!!」
渦巻く斬撃の嵐でその動きを止められる敵。
「“ギア3(サード)”!!いっくぞ~~!!!」
そして、トドメは上空から。巨大化させた腕をギリギリと捻じりながら、ルフィが最後の一撃を叩き込んだ。
「“ゴムゴムのォ!!巨人の回転弾(ギガントライフル)”!!!!!」
敵がひしゃげつぶれる轟音と、勝利に息をつく一味。これより続く惨劇を、彼らはまだ知らない——