麦わらの一味に拾われたif続

麦わらの一味に拾われたif続

スーロンベポと同軸世界で


体中から漂う消毒液の香りによって青年は目を覚ました。

久方ぶりに嗅いだ匂いに、心地よささえ感じていた。

仲間たちと海を冒険していたころには毎日のように嗅いでいた匂いに、青年の目の端からしずくが零れ落ちる。


青年が、もう一度目を開けた。

無事ヘルメスは起動したらしい。ここは…。どこの世界だろうか。

麦わら屋たちは、生存している世界か。

意識を失う前に、見た船長は記憶よりもずいぶんと、強い覇気がしていた。

きっと、ドフラミンゴに決着をつけてくれた世界なのだろう。

ひょっとしたら、ゾウで全滅したはずのクルーも。生存しているかもしれない。


とりあえず、今は情報が欲しい。

目を動かして周りを見る。医療室であることは、理解できた。

都合よく新聞などがないかと、思考したが。一枚もなかった。


「あ!!トラ男!!目を覚ましたんだなァ!!」

ベットの下から声が聞こえる。よいしょという掛け声と共に、椅子に上がったのは、トナカイの船医だった。


「たぬき屋…。新聞ねェか…?できれば、おれのクルーの情報がほし…。」


起き上がろうとする青年を慌てて船医が止める。


「お前!!医者なら自分の状況がわかってんだろ!

本来動けるような状態じゃないんだ!!」


船医が見たことないような真剣な顔で言うものだから、青年はおとなしく頭を下すことにした。

情報は、船医からもらえばいいかと考えていた。


「たぬき屋。すまなかった。」


船医は動揺した。

自信に満ちた船長だったはずの青年が、頭を簡単に下げることに恐怖さえ感じていた。

青年の体を船医は全て見た。すべてを。


その体に刻まれたジョリーロジャーの入れ墨に大きく斜め線が引かれていたことも。

体に刻まれた無数の傷跡も。弾痕も。失った右腕も。


「無理するんじゃねェぞ!!生命活動をするのにギリギリの状態だったんだぞ!お前!」


「起きたか!!トラ男!!」

太陽のように輝く笑顔を浮かべた青年が扉を勢いよく開けた。ドアノブが、大きな音を立てて壁にぶつかった。


勢いよく、入れ墨をした青年の足元に腰かける。

青年の体が少し跳ねた。


「ルフィ!!やめろ!!重病者だぞ!!」

小さな船医が、同盟相手の船長の頭をたたいた。


「悪いな。ロー。止めたんだが…。」

タバコをくゆらせながら、コックが入ってくる。

その手に乗った皿からは良い香りが漂ってくる。

「胃もだいぶ弱ってたからな!!ちゃんとその辺も考えてもらったぞ!!」

得意気に、船医が笑う。

コックが、持ってきてくれたスープを飲み終わった青年は静かに。

静かに。左手で目元を隠した。


船長が開けっ放しにした扉から、麦わらの一味の面々が顔を出す。

いつの間にか、狭い診療所内はいっぱいになっていた。


「なぁ。トラ男。ワノ国を出航した後に何があったんだ。」

剣士が青年に問いかける。

青年は長らく、口を閉ざしていた。


返答に困っていたのではない。嬉しさをかみしめていたのだ。


もう二度と聞くことのないと思っていた宝物のことを。


「………。ハートの海賊団はワノ国を出航できたのか?


ベポ達は!!生きてるのか!!!?」



「なに言ってんだ。もちろん生きてるよ!!あんときゃびっくりしたな。ギザ男が、滝から降りるなんて言うから!!!お前ら二人とも落ちてると…ブッ!!」


船長が、オレンジ色の髪の航海士の鋭い一撃によって沈められた。


「そ……っか………あい…つら…は。生き……て…。」


燃え尽きて、灰に変わったビブルカード…。

青年は、顔を見せなかった。少年の顎を大粒の雫がこぼれていく。

その顎にあったはずの髭はない。その為か、記憶の中にある顔よりもずいぶんと幼く見えた。


「トラ男くん。あなた。

まるで、そのハートの海賊団にあなたが含まれてないような話方をするのね。」


考古学者が指摘した。考古学者の中には一つの推論があった。

この言いぶりと、空から落ちてきた謎の機械。そして…ヘルメスの名だ。

冒険の神の名を冠した機械のこと。

考古学者は、足りないピースがつながったような気がしていた。


「……」


青年は口をつぐんだ。聡明な考古学者のことだ。

真相にたどり着くのは時間の問題だとは思いつつ、どう答えていいかわからなかったのである。


「お前ひょっとして、きおく…そうしつってやつか?サボもそんなこと言ってたな。」

船長は、革命軍の幹部である自身の兄を思い出している。

「どこかで頭でも打っちまったのかな。」

船医がそっと呟いて、”記憶喪失の恐れあり”とカルテに書き加えた。


えっと、こういう時は、関係あることを言ったらいいんだったけな。と兄のことを思い出しながら船長がこぼす。


「覚えてないか?トラ男!!お前、おれと、ギザ男と錦とかミンク族のおっさんたちと一緒にカイドウとビックマムをぶっ飛ばしただろ!!」


「…おれが…?カイドウと…ビックマムを…??」


「あーカイドウとビックマムも忘れちまったのかな?めちゃくちゃデケェおばはんと、デケェおっさんだよ!!」


「は?カイドウと…???




カイドウ・・・・と。」


青年の頭は完全にショートしかけていた。

言語としては理解できている。


その単語は、海賊ならば誰もが知っているはずの名前だ。


青年はこの船長…Dの名を持つ船長ならば、(たとえ自分がコラさんの本懐を遂げるため死んでしまったとしても)30%程度の確率で成し遂げられるかもしれないと思っていた。


しかし、トラファルガー・ローがドレスローザから生きてワノ国にたどり着く確率など10%未満に等しかったはずだ。


何やったんだ。この世界のおれは。


「ビックマム…?」


「なんというか。信じられんじゃろうが。

これがお前さんたちがなしたことじゃ。カイドウとビックマムの同盟を退けたのがルフィとキャプテンキッドとお前さんたちじゃ。」


太陽のマークを腹に刻印した魚人が扉の向こうから申しなさげにこちらに笑いかける。その顔に青年は見覚えがあった。


かつて、自身が治療したはずの魚人だった。


トラ男と呼ばれた青年の顔が、歪む。

その様は、航海士によると、ルフィの攻撃を受けたエネルのようだったと、航海日誌に記されることとなった。


「そういや、トラ男さん。懸賞金30億にもなってましたねー。ルフィさんと同額ですよ。ヨホホ。」


医療室に入りきらなかった音楽家が、扉の奥から声を浴びせる。


「あんたたち加減しなさいよ!!一度に浴びせる情報としては多すぎるわ!!」


航海士が、さらに情報を浴びせようとする男たちを制した。


「なんで…麦わら屋の船に。しち…ぶか…い??

ビック・・まむ・? ゆーすた…??

 おれはどこからつっこめばいい??」


青年の目がグルグルと回る。情報の洪水に耐えられなかったようだ。


頭を抱えた青年の前に、鼻の長い青年が同情したように肩に手を置いた。


「な。だからおれは、忠告してやったんだ。

お前が思っている以上にこいつは滅茶苦茶って。」


「ちなみに、新しい四皇は、おれだからな!!

 もう1人のバギーはアホなんだよ!!!」


船長の声がどうやらとどめになったらしい。


「????????」


「あァ!!トラ男が!!倒れた!!!医者ー!!!!??

おれとお前だァ!!!」

Report Page