鳴いちゃうアースが悪い

鳴いちゃうアースが悪い


ヴァイオリンの手入れをしているとキタサンブラックが興味深げに覗いてくる。

「思ったよりシンプルな構造だね」

いつの間にか私の真後ろに座って身体が密着しそうになっている。キタサンブラックの体温が空気を通じて伝わる。昨夜のことを思い出して集中力が乱れそうになる。

「毎朝やってるの?」

動揺を悟られないように肯定の言葉を返す。

清掃を終え、マイナスドライバーでネジを締め、ヴァイオリンの蓋を閉める。そして、スマホを取り出してクラシックのコレクションを開いた。

ウマ娘の走りが日々成長し変化するように、奏でるべき音楽も毎日変わる。

「録音するんだ?」

不思議そうな顔で、けれども興味深そうにキタサンブラックは私の手元を見ている。

私の愛器は旧型で曲のデータをインポートするような機能はない。お小遣いが足りなかったからな。

ヴァイオリンを立てかけ、スマホを操作して再生を始める。部屋にヴァイオリンの曲が流れる。

目を閉じ、美しい調べに集中する。静謐な朝の時間にのみ許される音の世界――

そこに不意に脇腹に肌が触れる感触。

私のものではない手のひらが、臍や鳩尾の辺りに触れている。

キタサンブラック? 目を開けると、すぐ横に彼女の美麗な顔があった。まもなく背中に彼女の豊かな胸の柔らかさを感じた。

赤い瞳に見つめられている。じりじりと頬が熱くなってきた。

どうした? 一体何なんだ?

戸惑う私の様子を楽しむように、その瞳は愉快げな笑みを浮かべた。

唇をとがらせ、人差し指をその前に立てる。「静かに」のサイン。最後に片目を閉じて可愛らしくウィンクをしてきた。

美しい顔が後ろに引っ込んで、代わりに身体の密着具合が上がった。

お互いに素肌で。私の背中の皮膚と、キタサンブラックの身体の皮膚が触れあっている。昨夜の彼女とのアンサンブルを響かせた後の朝のため、私たちは生まれたままの姿だった。

私の臍の辺りを触っていた手がゆっくりと肌の表面を滑り始める。わずかに甘くくすぐったいしびれが生じる。何度も何度も彼女に触れられて、私の全身はすっかり快楽に敏感になってしまった。

ッ! つい、声が漏れそうになる。美しい音色をかき乱すノイズを発するわけにはいかない。

キタサンブラックのもう片方の手が私の胸に触れた。

もう止めてくれ! と願ったが叶うことはなく、膨らみを手のひら一杯に受け止めるようにすると、下から優しく回すようにこね始めた。

本能に響くような快楽。キタサンブラックへの母性が目覚めさせられていくような感覚。

その後も、キタサンブラックの手は私の身体を撫でて、つまんで、擦って、押し込む。

私は必死に声を抑える。眠りかけた快楽を伝える神経は徐々に開いていき、快感は大きくなる。キタサンブラックの動きに愛される度、私は全身をビリビリと震わせる。

背後の彼女の息遣いも激しくなってきた。時折、楽しそうな音が混じる。

キタサンブラックは私が声を出さないように耐える姿を見て楽しんでいる。

背後の彼女に批難を込めた視線を送るが、上手く伝わっていないように見えた。

臍の辺りをぐるぐると撫でられて、腹の奥に澱ように快感が蓄積している。

それが、暖めるように慈しむように撫でる動きに変わる。

抱きすくめられて、彼女が私の髪の匂いを嗅いだ後、唇の端にヴェーゼを受けた。

胸の中の愛しさがお腹に向かって落ちて、腹の奥で風船のように膨らんだ快楽に針のように刺激を与え、一気に弾けた――。

ッ♥!!♥……!!

「――残念、最初からやり直しだね♥」

キタサンブラックは震えて脱力する私の代わりに機械を停止させる。

私は息を整えながら、ヴァイオリンの調律だけはさせて欲しいと涙声で訴える。

「アースのソロ、また聞きたくなっちゃってさ♥」

艶を含んだ声で言うと、彼女は私の首筋にヴェーゼを落とす。

昨夜かわいいかわいいと囁かれながら身体の至る所にヴェーゼの雨を降らされた時の感触が蘇ってくる。

「録音がちゃんと終わったら止めてあげる。“終わったら”ね♥」


ヴァイオリンの調律が昼間で続いたため、キタサンブラックに支えられながらカフェテリアに行くことになった。

「だってアース、絶対嫌がってないんだもん♥」

その間私はずっと視線でキタサンブラックに抗議していたのだが、それを見ていた学友達は、「アースがすっごく女の子の顔してて、ドキドキしちゃった」などと言うので、納得がいかない。

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