夢の中

夢の中



【注意】

・ギーツ&ガッチャード冬映画の「あるシーン」を元としており一部ネタバレを含む要素があります。未鑑賞の方でネタバレが嫌な方はブラウザバックを。

・改変・CP要素ありです。こちらも苦手な方はブラウザバックを。

明日の数学の授業で提出する問題集をやっとの思いで仕上げ、宝太郎は今まで張り詰めてた気が緩んだのかあくびをする。卓上の置き時計を確認したら夜中の24時半を過ぎていた。課題を終え、やっとの思いで眠りにつけるという安心感を感じ、ルームウェアの姿で自室の照明を常夜灯に変えてベッドに隅に身を任せる事にした。

すると、その枕元に居た相棒「ホッパー1」が今まで構って欲しかったと言わんばかりの様子で彼の顔に飛びついてきた。宝太郎は、勉強の疲れもあり一刻も早く眠りたいという欲求がケミーとの交流より勝ってしまい

「また明日遊ぼうね ホッパー1」

と彼に一言残して瞼を閉じた。

ホッパー1も眠りについた宝太郎を見て構って貰えなかった事を少々不満に感じつつ明日一緒に遊んでもらえる約束を忘れずに次第に眠りに就いた。

2人が眠りについてから約5分後、宝太郎の部屋に、小刻みな足音が迫ってくる。次第にその足音は近づくにつれて大きくなりやがて部屋のドアを開けて入ってきた。宝太郎は「誰かが来た」という気配はするも気にせずそれでも眠っている。

薄暗い照明の中顔はわからないものの自分の部屋にずかずかと入ってくるのは「彼女」しか居ないだろうと。

「やっと洗濯の準備も済みましたわ」

と一息をついたのは今日は家事当番だった宝太郎の家庭教師のラケシスだった。

宝太郎の成績を確認し今現在の弱点とそれに対する課題作りをするのも彼女の役目であり、宝太郎が日々学校やアカデミーで授業を受けている裏でも色々仕事をこなしている働き者だ。

彼女は着ていた長袖のモコモコとした生地のパジャマを部屋の中に放り出し、冬場だと常人には寒さで風邪を引いてしまうぐらいの薄着姿で軽いストレッチをしてから宝太郎が眠っているベッドに潜り込んだ。

これを毎日宝太郎の部屋の中でするのが彼女の就寝前のルーティンらしい。

ラケシスの破天荒な行動に対して宝太郎は内心「やめて欲しい」と嫌悪感を感じ何度も本人にその旨を伝えていたが、【ある目的】を宝太郎と叶えたい彼女がお願い程度でそう簡単に辞めるはずがなかった。次第に宝太郎は、半ば諦めた様子で毎日のように彼女がベッドに潜り込み寝返りが打てないぐらい窮屈になって苦しくてももはや気にしない「フリ」をし続けている。

やがて静まり返った部屋の中に、大きなツノが特徴的で顔は暗くて紫色のマントを羽織った魔術師のような格好をした人間ではない生物がカードから突如として姿を表し、熟睡しつつある2人の姿を見て

「最近、宝太郎が構ってくれないな〜」

「お疲れの様子だし仕方ないか〜」

「なら、2人には特別に良い夢を見せてやろう。ウィ〜ウィッウィッ。」

と特徴的な笑い声と共に放った光線が2人の顔に命中した。



「うぅっ…あれ?ここは自分の家だ…」

と一言と共に目を覚ました宝太郎が辺りを見回すと、そこには普段となんも変哲もないキッチンいちのせのテーブルと台所が広がっていた。テーブルの上には何も入っていない茶碗,味噌汁,ハムエッグそれに麦茶が入ったコップがそれぞれ4つずつ置かれていた。

おかしい。さっき部屋の中で寝ていたはずなのに。きっとこれは夢の中なのだろうと脳裏に浮かんだが、あまりにも光景がいつも通りで現実的過ぎる。それならば、眠ったまま知らない内にに1人でここまで戻ってきたんだろうと思い込み自分を納得させようとした。

そうやって色々と悩んでいる内に部屋の奥から足音が聞こえてきた。そこから出てきたのは髪を団子状に纏めたエプロン姿のクロトーのような人物だった。ただ彼女の様子を見るに宝太郎はある違和感を感じ取った。普段自分に対して見せる怖くて厳つい表情とは真逆の、清々しいような表情をしていた。

「クロトー!なんかいつもと様子が違うんだけど、一体どうなってるの?」と忙しない様子の宝太郎を感じ取ると

「あーやっと見つけたぞ宝太郎。特に何もおかしくはないけどね。あと、クロトーって誰の事だ?いつもお姉ちゃんって呼んでくれてたのにどうした?」とこちらも様子が変だと不審そうに感じた。

「別人?お姉ちゃん?」と彼は首を傾げ普段とは違う情報が脳内に入ってきて今起きている状況が全く理解出来ていない様子であった。

「忘れたの?私は一ノ瀬黒奈だ。従姉妹の長女であと2人妹が居て…だな」と家族構成を伝えると彼はそんなのありえないと言わんばかりの表情をしていたので、

「何言ってんの?昔一緒に遊園地とか行ったりとかしたじゃん。お化け屋敷苦手だったよね。」と宝太郎からしたら存在しないような謎の思い出話が彼女の口から語られた。

黒奈はとりあえず頭を働かせる為にもまずは朝ごはんを食べさせようと促して、彼もとりあえず椅子に座り、まずは豆腐とワカメが入った味噌汁を一口ごくりと飲み頭の中を一旦冷静になろうとした。いつもクロトーが作ってくれているのとなんら変わりもないおいしい味噌汁だった。

冷静になった宝太郎は母親ならきっといるはずだろうと思い

「クロッ…お姉ちゃん。お母さんは?ホッパー1は?」と同じく椅子に座った黒奈に聞くと

「母なら用があるって先に家出て行ったかな。それにホッパー1ってどういうものなの?」という返事を聞くと母はちゃんとここに居たんだという安心とホッパー1は居ないんだという不安が襲いかかり、すぐさま質問した。

「なんか緑色のバッタのような形をしたケミーで…ホッパー!って叫ぶやつ!」

「けみー?あーバッタなら似たようなものならうちにあるぞ。看板バッタというキッチンいちのせの人気者だ。客の呼び込みをしてくれてるんだ。今は寝室で寝てるんじゃないかな?」

「カンバンバッタ?」と宝太郎は食べていたご飯の箸が止まった。

すると、上の階段から軽やかな足音が聴こえてきた。

「おにいちゃん、おねえちゃん、おはよう!」という一言と共に姿を現したのは髪は黒く長く,目はぱっちりとしたごく普通の寝巻きの格好をした少女だった。

「今日も1人で起きたの偉いな。朝ごはん用意したから食べていきな」と黒奈は少女の頭を撫でながらテーブルにある朝食を食べる事を促し、少女も椅子に座りご飯を食べ始めた。

「おはよう…?」と宝太郎は少女の顔をまじまじと見つめて昔会った事のある誰かに似ているような気がするが思い出せずにいた。

「おにいちゃん…どうかしたの?」と少女は彼に聞くと、宝太郎はやっと正体が誰なのか気付いた。

「あぁぁぁぁぁ!?アトロポス…」と過去に彼女が宝太郎達にとった恐ろしい行動が脳裏にフラッシュバックをしたのか恐怖心を感じた。顔は確かに似ているが、普段のアトロポスの姿や思考の読めない不気味さとは遠く離れた姿だった。2人は何故彼がそこまでして恐れ慄くのかが理解出来なかった。

「あとろぽすってだれ?とあだよ。叶えるに愛情の愛って書くの。」

「叶愛は末っ子なんだよ。てか、宝太郎さっきからおかしいよ。頭でも打ったのか?」と2人は宝太郎を心配する様子で見て

「叶愛ちゃんって言うのか…なんというか…普段の3人と様子が違うというか…」と彼は状況を飲み込めないままであった。

すると、叶愛はなにか思い出したかのように、

「あっ!しらねーねはまだ起きてないの?起こしてくる!」と階段を駆け上がり2階を向かい黒奈は気をつけてと一言掛けた。

(クロトーにアトロポスが居るってなるとそりゃラケシスも居るんだよね)と先程、黒奈が妹が2人居るという事を言ってたのと宝太郎はふと思い出した。

白音は昨日ソフトボールの試合があって疲れて寝てるんだよな。アイツいつも朝弱いからな〜。」

「ラケシスは白音って言うんだ…」

という宝太郎と黒奈がやり取りをしていると再び階段から叶愛が降りてきて

「しらねーねおこしてきたよ」と言った背後から

「あ〜眠い。もうちょっと寝かしてくれたっていいじゃん。」

「おい7時半だぞ!起きろ!」

と白音が右手に時刻を叫ぶ看板バッタを抱えてながら降りてきた。

白音の姿はラケシスと顔が瓜二つであるものの髪型が寝癖だらけで気怠げな感じでいつも宝太郎が見ている普段の彼女からは想像出来ないようなぐーたらでだらしないな姿であった。

「やっぱり二度寝していいかな?お願い!」と3人にもう少し寝たいという頼み込みをするもの

黒奈は

「ダメ!今日は宝太郎の大事な日でしょ」

宝太郎はすかさず

「大事な日って?」と聞くと

「何を惚けてるの?今日はお前の結婚式の日だろ?」

「け、結婚式!?僕が!?誰と?」

と信じられないような反応で宝太郎は言ったのを見て、思い出したかのように白音が

「あ〜そうだった。イケ叔父のむ…」

と言いかけたのを黒奈は聞いて咄嗟に彼女の口を塞ぎ

「失礼…九堂りんねだな」

「え!?九堂と?そんなのあり得ない!なんだか今日の皆はなんだか変だよ!?」

「ドッキリみたいな反応をしているが、本当だ。むしろ今まで知らなかったのか?もうあと2時間後には会場着いておかないといけないからそろそろ準備しないとだな。お前はすぐ着替えをして白音は急いで朝ごはん食って叶愛は歯磨きな。」

「よく分からないけど…とりあえず向かってみるよ…」と宝太郎は階段をあがり2階の自室で着替えをしながら

「九堂と結婚するのか…」と呟くと

「スピーチの準備は出来たかー!」

と看板バッタは言い、

「ハイ」と白音はすぐさまご飯を食べ始め

「は〜い、おにいちゃんのけっこんしき楽しみだな〜」と叶愛は洗面台へとそれぞれ向かった。


なんとか4人は出発時刻までに準備を間に合わせて家の扉を開けると、もう既に九堂りんねと横には金色のバイクと自家用車が並んでいた。

「りんねちゃんおはよう!」

「おはよう叶愛ちゃん。ほら一ノ瀬…違う……宝太郎!早く!こっち!」

「……すぐそっちに向かう!」

りんねの声に応じ、半信半疑になりつつも看板バッタを抱えて走り出した宝太郎だったが、その先へと足を踏み入れた瞬間、絶叫と共に深い奈落へと落下してしまった。

「九堂?あれ〜いててて… なんだ夢か…」

目を覚ますと宝太郎は自室のベッドに戻っていた。部屋の様子を目視で確認すると、安らかな顔で眠っているラケシスと横にはレベルナンバーXケミー「クロスウィザード」が立っていた。

すると、目覚めた事を確認したクロスウィザードはすぐに彼に語りかけた。

「夢の中はお楽しみだったかい?素晴らしかっただろ?」

「クロっち…こんな夜中に…びっくりしたよ。よくわからない設定の夢を見せないでくれよ〜!」

「ウィ〜ウィッウィッウィッ〜」

と言い宝太郎に構ってもらえた事に満足したクロスウィザードはケミーカードに再び自ら封印されていった。

結局、宝太郎はクロスウィザードによって見せられた夢の内容が頭から離れず、朝から学校があるにも関わらず徹夜する事となってしまった。

翌朝、

「お姉ちゃん。おはよう。」

「お姉ちゃん?何を寝ぼけた事を言ってますの?」

その後ラケシスにどういう夢を見たのか聞いてみると

夢の中では「彼」と甘い新婚生活を送っている夢を見たそうで宝太郎を見るとどこか照れ臭そうな表情をしていたのだが、鈍感な彼は全く気が付かなかった。

〜〜〜

「一ノ瀬、その寝不足な様子。また徹夜したでしょ…」

「九堂…おはよう…実は夜中こんな夢を見てしまって…」

その内容を宝太郎を聞かされたりんねは

「はぁ?え?嘘でしょ!?」

という反応をして下校中までずっとそわそわして信じられない様子だった。

クロスウィザードによる作り物の夢は正夢になるのか否か

この先のまた未来の話かもしれない。




夢の世界での設定

黒奈

クロトーと瓜二つだが、家事をこなすしっかり者で面倒見が良い。キッチンいちのせの2代目店主を任されて彼女考案のメニューが名物となっている。

宝太郎とは従姉妹であり一ノ瀬三姉妹の長女。普段は白音,叶愛と三人で共同生活をしていて姉妹仲はかなり良い。

白音

ラケシスに瓜二つだが、朝に弱くて家ではぐーたらしている。運動(特にソフトボール)は大の得意で実業団の選手。ポジションはサード。試合前日は必ず験担ぎで大盛りのカツカレーを食べている。部屋はとあるアイドルグループのメンバーであるスパナのグッズでいつも散らかっていて勉強がちょっと苦手。

宝太郎とは従姉妹の次女。

父・栗由の態度が彼女に対していつも厳しかったのもあり内心快く思ってない。

叶愛

アトロポスに似ているが、恐ろしさは全く無くいつも元気で明るい。通っている小学校ではかなりの優等生。いつも黒奈の作ってくれる料理が一番美味しいと思っている。

宝太郎とは従姉妹の末妹。宝太郎の事「おにいちゃん」,黒奈の事は「おねえちゃん」,白音の事は「しらねーねー」と呼んでいる。

栗由

一ノ瀬三姉妹を娘に持つ有名錬金術師。ケミーを初めて産み出した。研究者の間ではグリヨン様って呼ばれているらしい。

宝太郎とは伯父にあたる。教育熱心でだらしない白音には厳しく、しっかりしている黒奈と叶愛には甘やかしている。

九堂りんね

学校で宝太郎とは同級生。現実のりんねとあまり変わらない。ケミー騒動をを通じて色々な交流を経て進展を深めていき、この度宝太郎とは結婚する事になった。

看板バッタ

見た目はホッパー1に似ているがなんか人間の言葉を発する一ノ瀬家に居るケミー。

キッチンいちのせのお客さんから大人気で客の呼び込みだったりテーブル拭きを手伝ったりする。


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