魔弾の招待券

魔弾の招待券

砂糖堕ちキリノと病床フブキ

カンナ局長が買ってきて、キリノと私が一緒に食べたドーナツ…

実は、あの中にとんでもない麻薬が混入されていて、私とキリノは気づかない内にその麻薬に依存しちゃっていた


私はカンナ局長やヴァルキューレの子達が迅速に対応してくれたお陰で入院する事になったけれど…キリノは…

私と一緒に病院へ連行されそうになった時、突然逃げ出しちゃった

それ以来彼女とは会えていない


あれから私は警察病院で、通称「砂漠の砂糖」と呼ばれている麻薬を、身体から時間をかけて追い出す治療を受ける生活を送り続けてる

局長さんは砂糖中毒者への対応に追われてる中、僅かな時間を作ってお見舞いに来てくれてるんだ


前以上に疲れてるのは分かってるけど、それでも私を励ましてくれる局長さんや同じヴァルキューレの子達の応援のお陰で、私の砂糖中毒の症状は少しずつ緩和されていった

どうやら他の同程度の中毒者と比べてもかなり治りが良いらしい

もしかしたら何かしらの抗体でもあるのかもという説も出たらしく、近々治験のお願いをするという話を持ちかけられていた



そんなある日

この日も、カンナ局長は私のお見舞いに来てくれた

いつもとあまり変わらない


──…この後、ずっと安否を心配していた彼女が来るまでは


──────────────────────────

カンナ「医者はなんと言っていた?」

フブキ「あぅ…とりあえず、大分凶暴にならなくなったかも〜って感じかな?」

カンナ「そうか。ちょっとずつでも良くなってきているならこれ以上言う事はない。…苦しいだろうが、貴官が完治する時をいつでも待っているぞ」

「は〜い。局長さんも、無理するくらいなら少しぐらいサボりなよ?」

「全く…公安局長に言うような言葉ではないだろう。ではまたな」


局長さんは病床横の椅子から立ち上がり病室を出た

はぁ…甘いもの食べれない日々って結構キツイよ…しかもこんな風にサボる事になるなんてちょっと、いいやかなり嫌な感じだなぁ

最初あのドーナツの甘い香り嗅いだ時にいつもと変だって感じたのに…

あの時食べるのを止めてたら…キリノも砂糖を摂取しなかったはずなのに…


そんな風に後悔しながら目を瞑る

やる事なんて治療を受ける時以外は寝るくらいしかない



でもその数時間後、夕方ごろ

(バリーンッ!)

「うわっ!?なになにぃ!?」

突然病室のガラスが割れる音が響く

見てみると、私の真横にあるガラス窓に銃弾を撃ち込まれた穴が空いていた

「え…うっそ…」

悪戯にしちゃやる事が悪質すぎるよ

とりあえず近くのナースコールを押して看護師さんを呼ぼうとした



その時

枕元に小さな筒が置いてある事に気づく

「…何これ?」

そっと手を伸ばし筒を持ってみる

「あちっ!?」

異様に熱かった

ということは…まさかこの筒を撃ち込まれたという事?

私はナースコールを押すのも忘れて筒をゆっくり開けた


その中には一枚の紙

【フブキ お話したい事があります
22時に 病院裏手の庭へ来てください】


「こ、これって…!?」

キリノの字だった

なんで彼女が

あまりの衝撃で脳がフリーズする


その時窓ガラスが割れる音を聞いて駆けつけて看護師さんがやってきた

私は急いで寝巻きのポケットに筒と紙を隠す

とりあえず看護師さん達には「石でも投げ込まれたのかも」と適当に誤魔化してその場を収めた


…キリノ、やっと会えるんだね

私は喜びと同時に、どこか不安を覚えながら22時を待った

──────────────────────────

22時

私はこっそり病室を出る

別に足が悪いってわけじゃないから歩く分には問題ない

サボるために気配や足音を消して歩くのは得意だったから、誰にも気づかれずに病院裏手の庭へ訪れた


「キリノ…?来たよ?」

そこに人影はなかったが…

???「久しぶりですね、フブキ」

「っ、キリノ…!?」

植え込みの木の影から人影が現れた


その姿は…確かにキリノだけど、キリノじゃなかった

声や、大雑把な見た目全体で見れば中務キリノだと分かる


しかし服装も顔つきも持っている銃も…

何もかも、あの生活安全局のキリノからかけ離れていた

まるで警官とは真逆のアウトローみたいな姿に、私はキリノなのかどうか分からなくなっちゃう


「…誰?ほんとにキリノなの?な、なにそのカッコ…」

キリノ「まあ、信じられないですよね…でも私は、間違いなく中務キリノです」


…私?キリノは本官呼びだったはず…

いや、でも声は同じだ。偽者じゃない


「…やっぱ、そうなんだ。ねえ、今まで何してたの?私ずっと病院で治療してたんだよ?キリノも早く治療しないと…」

「あ、それはもう知ってます。アビドスの諜報網のお陰でフブキやカンナ局長の動きは全部お見通しだったので」

「は…?アビドス…?」

アビドスって、砂糖を流通させた元締めじゃん

なんでそんな単語がキリノの口から…


「フブキ、私はもう警官を辞めました。現在はアビドスでホシノさn…様の側近の1人として活動してます」

「ちょ、は…?いや、そんな冗談…」

「そうだ、フブキに伝えたい事が2つほどあるんですよ!1つは、遂に私の射撃能力が上達したんです!見ますか!?」

突然楽しそうな笑みを浮かべたキリノは持っている【SR】を構えると、すぐそこにある電灯に狙いをつけた

(バンッ!)

「えっ」

普段のキリノなら弾はあらぬ方へ飛んでいくはず…でも弾は電灯に命中し、その真下は一気に夜の暗闇で包まれた


「見ましたか?これも砂糖のおかげなんですよフブキ!」

興奮した様子で話しかけてくるキリノ

怖い

嫌だ

こいつはキリノだけどキリノじゃない

足を震わせながら後ずさる


「そして2つ目ですが…フブキ、私と一緒にアビドスに来てください!」

「ひっ…!?」

爛々とした目で告げられる最悪の言葉

折角治ってきたのに、その誘いに乗ったら今度こそ終わりだ

それに、私の治験で救われる人が増える可能性だってある


「私、アビドスでアイドル活動のお誘いを受けたんです。けれど、あの時のようにフブキがいないのが残念で…」

「あ、アイドルって…」

もしや、前にキリノや他の子達とやったあれの事…?

「強制入院で砂糖を取れないフブキの事をハナコ様に相談したら、どうにか連行許可を取れたんですよね。でも病院内のセキュリティはかなり強いので、手紙を入れた筒を枕元に撃ち込むことにしました。…来てくれて嬉しかったですよ」

一歩ずつ近づいてくるキリノ

「さあ、こんな牢獄から出て、私と一緒にアビドスでまたアイドルをやりましょう?楽しい砂糖生活が待ってますので…あはははっ!」

「や、やだ…来ないで…!」


あまりの恐怖に顔を引き攣らせながら、迫ってくるキリノから逃げようとする

そ、そうだ!今大声で助けを求めれば!

「だ、誰k」

「大声を出そうなんて思わない方がいいですよ」

キリノはSRを私に向ける

「実は今フブキの後方には私の女…じゃなかった。協力者が狙ってます。下手な真似をしたらフブキの後頭部を撃ちますし、私も足を撃ちます。痛い思いはしたくないでしょう?」

「そんな…やめてよキリノッ!どうしてこんな…」

「だから大声を出さないでって言ってるじゃないですか。…まあさっき電灯壊しちゃった私が言えたことでもないですけども。さてどうしますか?大人しく来るなら撃ちませんけど、抵抗するなら爪先に1発入れるか、後頭部を狙撃させて気絶させますよ」


銃口が爪先に向く

ここで逃げようものなら、キリノの言う通り酷い目に遭っちゃう…


でも、私は


『…苦しいだろうが、貴官が完治する時をいつでも待っているぞ』


「…いやだ!私は行かないよキリノ!」

「──」

「実は、最近治験協力の話を持ちかけられてるんだよね…!これを受けるのならば、高待遇にするって言われててさ…!悪いけど、砂糖漬けの毎日よりはそっちの方が楽しくサボれそうな気がするし、いくらキリノの頼みと言っても断らせてもらうよ!」


わざと挑発するような事を言っちゃう

虚勢かもしれないけど…なんか言いたくなっちゃった


「──そうですか、残念ですよ。ならば、無理矢理にでも連れて行きますね」

怒りの表情を浮かべるキリノが引き金に指をかける

急いで逃げようとしたその時…


──────────────────────────

(ピカッ!)

フブキ「くっ!?な、なに…!?」

突如強い光が庭を照らした

そして病院の敷地を囲う高い壁から人影が飛び降りて私の方へ駆けてくる

あれは…!


カンナ「止まれっ!ヴァルキューレ警察学校だっ!中務キリノ!お前は包囲されているっ!」

キリノ「っ!?カンナ局長…!」

「え…な、なんで…」

「警察病院のセキュリティを舐めるな。キリノが来ていた事は早期に気づいていたが、公安局の皆をこっそり配置しつつ撤退不可能な位置まで引きつける必要があったんだ…すまない、囮に使うような事をしてしまった」

「う、あ…それはまあ別にいいけど…」

よく見たら、病院内部から大勢の警官達が出てきてキリノを囲んでいる


「そしてよく言った。砂糖の誘惑を振り切った貴官の姿、しっかり目に焼き付けたぞ」

「え、えへへ…それは、どーも…」

まさか褒められるなんて思わなかった


「カンナ局長…いいえカンナ!私の邪魔をするつもりですか!?」

「中務キリノ…貴官がそこまで堕ちるとは…なんだその姿は。アウトローにでもなったつもりか?」

「うるさい…!フブキを早く渡してください!」

「それは出来ない相談だ。アビドスへの招待状は受理させない…フブキ、手紙とやらは持っているか?」

「あ、は、はい…」

私は局長さんに手紙と筒を渡す

「いいかキリノ、今後はこの病院に砂糖中毒者を寄せ付けさせない…治療の邪魔もさせない…それを覚えておけっ!」

局長さんは手紙を破き捨てて、筒を踏み潰した


「っ…!貴様あああああっ!」

「大人しく投降するんだキリノッ!今更逃げられはしな…」

あ、そういえばキリノ…さっき協力者がいるって言ってた…!

「待って!キリノには協力者がいる!」

「何っ!?」

「ああそうですよ!やれっ!アルッ!」


その瞬間

(ズダァンッ!)

「くっ…!?」

「局長さんっ!」

SRの音が響き、局長さんの肩を撃った

その隙を突いたキリノは、動揺した警官達を撃って逃走する


「き、キリノ…!待って…!」

私の声は届かず、キリノは夜闇の中へと消え去った──


「だ、大丈夫?」

「なに、この程度…カイザーに攫われた先生を助けた時に比べれば…」

「そ、そう…?でも無理しちゃダメだよ局長さん…あ。それならさ、一緒に隣のベッドで治療する?そっちは怪我の治療で私は砂糖治療だけどさ」

「…まあ、一時の休息と考えれば…それも良いか」


少しだけ退屈が晴れそうだなと思いつつも、逃げたキリノの事が気になって仕方なかった

この後復帰出来たら、局長さんと一緒にキリノを戻そう…そう決意した

こればっかりは、いくら私でもサボる気になれないしね!



──────────────────────────

キリノ「はぁ…はぁっ…!」

悔しい

フブキを取り戻せなかった

カンナ局長が…カンナが邪魔さえしなければ…!

怒りと悔しさに満ちながら、夜の砂漠を駆け抜ける


気づいた時には喫煙所に居た

「くそっ…!こんなはずじゃなかったのに…!」

怒りで手を震わせながら、ポケットからシュガレットを取り出し吸う

「フーッ゛…はぁ゛ぁ…」

吸ってるうちに落ち着いてきた

アル「はぁはぁ…キリノ…!置いていかないでよ…!ヴァルキューレの連中相手に大立ち回りする羽目になったじゃないもう…!」

「あ…ごめんアル。ちょっと、頭に血が昇ってて…カンナを撃って隙作ってくれてありがと」

冷静な判断が出来てなかったから置いていってしまってたらしい

はぁ…後でハナコ様とホシノ様に怒られるだろうなぁ…



フブキ。次会ったら、今度こそアビドスに招待してあげる

その時は…【アビドル】として、一緒に楽しみましょう


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