魔女の末裔冴がお狐凛ちゃんの神域にお呼ばれする2

魔女の末裔冴がお狐凛ちゃんの神域にお呼ばれする2


「勝手なことを言わせて貰うとな。お前のことも小さい俺のことも、俺はどっちも弟みたいに思ってるんだ。だからいつかは仲直りしてくれよ?」


飲み終えた湯呑みをぽいっと前に放り捨て、男は隣に座る冴の頬をそう言って指先でつつく。

湯呑みのほうは地面に触れる前に境内の石畳に一瞬で咲いた狐花が受け止めて、ずぼっと自ら体を引き抜くと、根っこを足みたいに器用に使って動き拝殿の中に運んで行った。

男が「切り離されたとはいえ小さい俺は俺だ、あいつが魔女の末裔のお前の血を摂取するようになって以来狐花の使い勝手がとんでもなく良くなっちまってなぁ」なんて軽口を叩いていたのは何回前の神域訪問での出来事だったか。


「……言われなくても。つーか俺は兄貴は欲しくねぇ。どうしても兄弟に割って入りたいならお前も俺の弟だ」


いつまでも人のほっぺたをスクイーズ感覚でもちもちしてくる男の指先を顔を背けることで外す。

だが座っているフラワーチェアは男の命令下にある狐花。次の瞬間には椅子ごと半回転させられて再度視線が合わさることになった。

訳あって気軽に名前を呼ぶ訳にはいかない大きいほうの凛は、そんな冴の様子を楽しげに愛しげに眺めてはくすくすと笑っている。

昔家の近所にいた老夫婦が庭先で遊ぶひ孫を縁側から見守っている時の眼差しにソックリだ。

慈しまれつつ遊ばれているのを悟って冴は余計にむすっとした表情を浮かべた。負けず嫌いは幼少の頃からの生態である。


「ひょっとしたら千行ってるかもしれねぇ数百歳の爺さんが弟かよ」

「……凛の兄貴にならなって良いぞ。でも俺とも兄弟なら空いてるのは弟の席だけだ。兄ちゃんの席は俺が年俸で買い占めてる。売り切れだ」

「ははっ! なるほど売り切れか、それなら仕方ないな! 冴の年俸なら俺の神社がまだ現世にあった頃の賽銭の総量より上だろうぜ!」


発言のどこがウケたのか、座っている狐花の葉っぱのあたりを激しく叩きながら大きい凛はおかしそうに笑っていた。

あんまり笑いすぎて気管に何か入ったのか、途中から明らかに咳き込み始めたので背中にチョップしてやる。

優しくさする? そんなチンタラするよりも調子の悪い古めの電化製品みたいに強く叩いたほうが手っ取り早い。母のお墨付きのやり方だ。


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