魔女の末裔と悪魔の末裔

魔女の末裔と悪魔の末裔


「冴ちゃんってさぁ。なんか混じってるでしょ」


 U-20とブルーロックとの対戦。

 それを終えてシャワーを浴びている最中の冴に、同じく水浸しで頭にシャンプーの泡を残したままの士道が声をかけてくる。

 わざわざ隣のシャワーブースからこっちに移動して来て扉まで無断で開けるその失礼と紙一重の自由奔放さに、冴は問答無用で愛用の洗顔石鹸の容器を顔面目掛けてぶん投げる傍若無人さで対抗した。

 プッシュすれば最初から泡で出てくる便利な洗顔フォームは見事士道の額にヒットし、彼は「あだっ!」と悲鳴を上げて一歩だけ後ずさる。

 その隙に素早くボトルを回収してシャワーブースの扉を閉めると、膝から下と肩から上だけ見える簡易的な仕切りの向こうで冴は不機嫌そうに睨んだ。


「いきなり人のシャワーに乱入してくんじゃねぇよ。本物の発情悪魔かテメェは」

「そうそう、それそれ! 実は俺もご先祖様にマジマンの悪魔いるらしいんだわ!」


 つれない態度の冴に臆することなく、士道は前後の繋がりさえ微妙な話を嬉々として続ける。

 自分は悪魔の血を引いている。ただの人間がそんなことを口走れば厨二病の謗りは免れないが、冴にはそれが虚言ではないとわかってしまう。

 士道が冴から人ならざるものを嗅ぎ取ったように、冴も士道から似て非なる何かを感じ取ったが故に。


「……魔女らしい。どこの魔女かは知らねぇが」

「魔女かぁ。道理でスパイス効きまくったゲロ甘いケーキみたいな匂いしてんのね。俺も悪魔混じりだから余計に嗅ぎ取れちまって、試合中抱きついた時とか吸い込む空気の糖度がエグすぎて吐くかと思った」

「勝手に触ってきた挙句に人をクセェみたいに言ってんじゃねぇよ」


 再び洗顔フォームの硬いボトルを投擲姿勢で構えれば、士道はごめんごめんとティッシュよりも軽い謝罪だけを残して隣のシャワーブースに引っ込んだ。

 ……それにしても、魔女の末裔と悪魔の末裔か。映像だけ見て引き抜く対象に士道を選んだ時はそんなこと知る由も無かったが、なんともまあ因果なものだ。

 本来であれば、魔女と悪魔の組み合わせならば悪魔のほうが上なのだろうが。こと糸師冴に関して言えば、たとえ相手が神であろうと自分が兄であることを譲らない男。血筋の曰くを把握したからとて遠慮するつもりは無かった。

 今後また不用意に触ってきたら容赦なく投げてやろう。


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