魂の迷い

魂の迷い

モテパニ作者

エレン「………」

C拓海がエレンと絆を結びこの街の正式な一員となって数日、調べの館の住居では住民の二人の雰囲気は少し気まずそうだった。

C拓海「なあエレン」

エレン「ひゃい!な、なに…」

C拓海「あー、いやなんでもない」

エレン「そう…」

ここ数日これと似たようなやりとりばかりだ。

理由は明確、C拓海がエレンに告白した事だった。

答えは保留になったものの、なんでもない接し方はできなくなっていた。

エレン「…」

C拓海「…」

〜〜〜

エレン「それじゃあ私は学校行ってくるから」

C拓海「ああ、いってらっしゃい」

私生活が気まずい時もやらなければならない事はしなければならない。

まあむしろ顔を合わせない時間が今はお互いありがたいかもしれない。

C拓海「…俺も行くか」

〜〜〜

音吉「すまんな拓海くん、いつも手伝ってもらって」

C拓海「いえ、お世話になってる身ですし」

存在が安定してからC拓海はなにをしているかというと、音吉の作業を手伝っていた。

音吉は少し前に調べの館のパイプオルガンの調整を行っていた。

しかしそれはある出来事によって破壊されてしまい、今はそれをなんとか修復しようとしていた。

C拓海はこういった事は素人だが、なにぶん人手が足りないためやれる事は多かった。

しばらく時間が経つと…

音吉「ふむ、拓海くん今日はそろそろ上がりなさい」

C拓海「え、いえまだ…」

音吉「悩みを労働にぶつけるのはおすすめせんぞ」

C拓海「!?」

C拓海は図星を突かれて動揺する。

音吉「働くのはよかろう、それは人が負って当然の義務じゃ。しかし働き過ぎる事はいかん」

C拓海「……」

音吉「…散歩でもしてきなさい。この街は歩いておるだけで楽しいぞ」

C拓海「…はい」

音吉の勧めに従い街へくりだすことにした。

〜〜〜

街の様子を見てみると見知った制服、エレン達が通うアリア学園の生徒達を見かける。

C拓海「(もう下校時間だったのか)」

よほど作業に没頭していたのだろう、思っていたより時間が経っていた。

とりあえず公園のベンチに腰掛け改めて今を振り返ってみた。

C拓海「(なんで本物の俺がゆいに告白しないか少しわかるな)」

こうなってみてよくわかる。

近しい相手との恋愛は上手くいけば最高だが、上手くいかなければ一転して最悪だ。

相手が他人なら失敗すればそれまでだが、近しければそれでもなお続く。

C拓海とエレンのどっちつかずの状態ですらこんなに気まずいのに、もしはっきりとフラれてしまえばその空気の悪さはこの比では無いだろう。

しかしC拓海にとってはそれはそれで自信のある行動だと思う。

C拓海があの場でエレンに告白したのは雰囲気にあてられた勢いもあるが、焦りもあったからだ。

自分にとってエレンはかけがえない存在になったが、エレンにとってそうではない。

たかだか二週間足らずの付き合いしかない自分がそんな位置に立てるほど彼女の人生はちっぽけであるはずがないのだから。

本物の自分とは違う。

本物の自分の最愛の人は人生の大半をともに過ごした幼馴染。それは最愛の人にとっても同じこと。

自分にとってのエレンもそう、ほとんどなにもない自分と生まれた時から一緒にいてくれて生きる意味も力も与えてくれたのが彼女だ。

しかし彼女にとってはそうではない。

彼女にとって自分は最近知り合ったばかりの元保護対象。そこから友達くらいに関係を進めただけの男に過ぎない。

絆は確かに存在する。彼がそこにいることこそがその証明だ。

その絆も彼の告白の後押しをした理由だが、絆にもいろいろな形があるのだから…

C拓海「でも告白しないってのも無しだったんだよなぁ」

今の自分にエレンを繋ぎ止められるものは何もない。

だからそれを得るために行動しなければ先には進めなかった。

振り返っても気は晴れず、むしろ気が滅入っていく。

そんな彼に近づく者が一人…

〜〜〜

エレン「はぁ…」

授業も終わって放課後エレンは一人黄昏ていた。

拓海が参っているように、エレンもまた悩んでいる。

最初は簡単に答えが出ると思っていた。

しかし実際は考えれば考えるほどわからなくなっていった。

拓海の事は好きだ。

嫌いとの択一ではなくはっきりと。でなければ絆など生まれない。

しかしそれが拓海の求めているものかと言われると…

奏「エーレン♪」

エレン「わっ、奏…。響は?」

奏「サッカー部。今週助っ人に呼ばれてるから練習にも参加してる。エレンはやっぱりまだ拓海くんの事で悩んでるの?」

エレン「ええまあ…」

奏「エレンは拓海くんのことどう思ってるの?」

エレン「………好き、だけど奏たちに向けてる気持ちとそんなに変わらない。バスドラ達が騒いでたけど、正直告白されるまでそんな対象として見てなかったもの」

奏「あはは、そっか…」

奏はややぎこちなく笑う。

奏も内心三銃士たちと似たような目で二人を見ていたのだから。

エレン「…でも付き合うのが嫌かって言われるとそれもわかんない。あいつと一緒に出かけたりしたら面白そうだって思えるし、手とかも繋げる。けど…」

奏「けど?」

エレン「キ、キスとか…そ、その先とか求められたら無理!ってなっちゃう。たぶん、いや絶対!」

エレンが悩んでいるのはそこ。

付き合うのに対して許容できる部分があるが、そうでない部分もある。

だからYES NOではっきりと答えられなかったのだ。

奏「…別にいいんじゃない?それで」

エレン「…え?」

奏「キスとかエッチな事NGでも手を繋いだりデートしたりはOKならその形で付き合っちゃえばいいんじゃないかな?」

エレン「で、でも!男は付き合い始めたらそういうのを求めるって音吉さんから借りた本に書いてあったし!」

奏「私たちまだ中学生だよ?そりゃあもう済ませてる子もいるだろうけど、早いかどうかでいったらまだ早いよ」

エレン「そ、そう…?」

奏「それに私はまだ拓海くんはこういう人だーって言えるほど彼を知らないけど、少なくともエレンに嫌な事する男の子だとは思ってないよ。私より拓海くんを知ってるエレンはどう思う?」

エレン「それは…」

彼と過ごした二週間弱の時間。

決して長いとは言えないが、人となりを知るには充分だ。

ほとんど記憶がない時から自然と気遣いできていたし、告白されてからも一度も返事を急かされる事は無かった。

そんな彼なら奏の言った形で付き合ってもいいのか?いや、しかし…

奏「もし答えが出ないなら一度デートしてみれば?」

エレン「えっ!?」

奏「デートは嫌じゃないんでしょ?それなら」

エレン「い、いやーその、いきなりデートとか、思わせぶりに思われちゃうかもだし…」

激しく動揺するエレン。嫌じゃないといってもそう簡単にいくものでもない。

奏「(…はっ!!!)」

そんな様子を見て奏は妙案を閃く。

奏「二人きりが恥ずかしいならさ!ダブルデートにしよ!」

エレン「ダ、ダブルデート!?…ってなに?」

奏「ダブルデートっていうのは二組のカップルが一緒にデートする事よ!二人きりのデートとはまた違った雰囲気になるから!」

エレン「で、でもこんな事に誘えるようなカップルに心当たりが…」

奏「私と王子先輩が付き合うよ!!!」

エレン「はぁ!?なんでそこで王子が出てくるのよ!?奏と王子は付き合ってないでしょ!」

奏「事情を話せば王子先輩なら力になってくれるよ!王子先輩は優しい人だもん!」

エレン「ひょっとして奏、王子とデートしたいだけじゃないでしょうね?」

奏「ぴゅ、ピュー」

エレン「わざとらしく誤魔化すな!」

奏「で、でも、エレンのために提案してるのも本当よ。二人きりより気が楽じゃない?」

エレン「いやそれは…」

言いにくい。王子の前で拓海とデートするのに抵抗があると。

エレンは過去マイナーランドの歌姫セイレーンとして響と奏、プリキュアたちの敵だった時がある。

その時は親友のハミィと決別し、プリキュアには連敗を喫し、部下であるトリオ・ザ・マイナーからも不信を募らされていた孤独の時代。

そんな時エレンの心を唯一癒した存在、それが王子という男だった。

その時は確かに恋に似た感覚を感じていた。

その後プリキュアとして覚醒した後はハミィと和解して響たちとも親友になると前ほど王子に対して特別といえるほどの気持ちは無くなっていた。

だから何かあったわけではないのだが、謎の罪悪感を感じるのだ。

奏「まあいいじゃない。王子先輩のとこ行こう♪」

エレン「えー、あー、でも、王子も忙しいんじゃない?ほら王子隊とか」

奏「大丈夫。私は王子隊のスケジュール全部把握してるから。今日は特に予定無かったはずだから王子先輩がよく行く公園に行ってみよう!」

エレン「なんで王子隊のスケジュール把握してんのよ…」

Qなんで奏は王子隊のスケジュール把握してるの?

A王子隊とコネがあるから。

〜〜〜

そして場面はC拓海の元へ戻る。

C拓海に近づいた人物とは…

王子「なるほど、好きな女の子と気まずいか」

C拓海「ああ…」

エレンと奏が話題に出していた王子正宗であった。

王子は暗い顔をしていたC拓海を見て心配になり相談を受けていたのだ。

見ず知らずの相手の相談に乗ろうとするなどあまり普通ではないが、王子にとっては普通のこと。

彼は困った人を放っておけない心優しき人物だった。

王子「ごめんね、僕は恋愛の経験が無いからあまり力になれそうにないや」

C拓海「いや、話を聞いてくれただけでありがたいよ。結局のところ俺には返事を待つしかできないし、愚痴ってわけじゃないけど一人で悶々とするより気が晴れたよ」

それに加えてC拓海は最近、いや生まれてから同年代の同性との会話をしてなく、そういう意味でも気楽な会話ができて嬉しかった。

悩みについては置いておき、C拓海は王子と会話を続けていると。

???「あーーー!!!」

突然大きな声が正面から聞こえる。その正体は…

エレン「なんで拓海が王子と話してんのよ!?」

奏「すごい!ラッキーチャンス!」

C拓海「エレン」

王子「南野さん」

エレン「(どうするのよ奏!?公園に二人ともいるなんて想定外なんだけど!?)」

奏「(むしろ好都合だよ。王子先輩に例のお願いをしてそのまま拓海くんをデートに誘っちゃえば手っ取り早いよ!よしまずは私が…)」

二人は小声で相談し合い、まずは奏が王子に例の依頼を申し出る。

奏「あああ、あにょ!おおお王子先輩!こここ、こちへ!」

エレン「(めっちゃガチガチじゃない…)」

無理もない。片想いする相手に口実を使いながらとはいえデートに誘うのだから。

王子「よくわからないけど、相談事なら聞くよ。ちょっと待っててね」

奏はガッチガチになりながらも王子を連れてC拓海たちから離れる。

C拓海「奏のやつどうかしたのか?」

エレン「あーまあ戻ってくるまで待ってましょ」

そして残された二人はそれを待つ。

C拓海「(あれ?なんでだろ?)」

エレン「(今朝より話しやすい)」

二人とも身の内を誰かに溢したからか、今朝までの緊張が少し和らいていた。

〜〜〜

奏「王子先輩!私とデートしてください!」

王子を連れて行った奏は真っ先にそう言う。

王子「うーん、デートか…」

それに王子は歯切れの悪い態度になる。

王子は奏以外にも多くの女子からモテる。

しかし先程拓海に言ったように恋愛をした事が無いのは彼が今は恋愛より音楽に夢中だからだ。

そんな自分が半端に女の子の相手をするのは不義理、と王子は思っている。

奏「あ、あ、でも!二人きりじゃなくて私と王子先輩にエレンと拓海くんの四人で!」

王子「黒川さんと、拓海くんってさっきの彼かい?」

奏「そ、そうなんです!エレンは拓海くんから告白されて、エレンもそれに前向きだけど後一歩踏み出せなくて、だからデートで気持ちを確かめようとおもってますけど二人きりは緊張するからダブルデートで二人の力になってあげようってわけです!」

王子「なるほど…」

王子は考える。その話は先程の拓海の話とも一致する。

先程彼の力になってあげたいと思ったが自身の経験の無さゆえに断念するしか無いと思った矢先にこの話、まるで導かれているような気がしてくる。

王子「わかった。受けよう」

奏「よっしゃァァァ!!!」

奏は思わずガッツポーズと奇声をあげる。

王子「(南野さんこんなに喜んで、友達想いなんだね)」

そしてその様子に下心を見出さないのが王子正宗であった。

〜〜〜

奏「と、いうわけで!ここにいる四人でダブルデートをします!」

王子「よろしくね」

C拓海「どういう事だよ!?」

知らぬ間に進んでいた話にC拓海も思わず叫ぶ。

C拓海「ていうか、ここにいる四人ってことは…」

当然自分とエレンも含まれる。それをエレンは…

エレン「…そういう事だから」

拒否しない。

つまりデートの事実を受け入れているのだ。

現金なもので好きな子とのデートとなれば途端にドキドキしてくる。

C拓海「(ひょっとして、このデートがターニングポイントか?)」

ならば気合いを入れねばならない。

このデートでエレンの大切な人に近づけるように…

奏「(よーし!このデート必ず成功させなきゃ!エレンと拓海くん、そして私のために!気合いのレシピみせてあげるわ!)」

皆それぞれの思いを抱えてその日を待つ。

デート本番編に続く!!!


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