魂の在処

魂の在処


「先生は、人の魂ってどこに宿ると思う?」

"魂?"

「そう、魂だ」

「生き物の個を証明する最後の身分証である魂が人体のどこに存在するのか、先生は考えた事があるかい?」

"……"

「おっと誤解しないでくれよ、別にこれはテストなんかじゃあない」

「正解なんて誰にもわからない問題だ、当然僕だって知らない」

「つまりこれはただのコミュニケーションなんだよ先生、馴れ合いみたいなものさ」

"…うーん"

"きっと聞いても面白くないと思うけど"

"そういうカナミはどう思ってるの?"

「逆にこっちに聞くってわけか、まあ構わないさ」

「魂はどこにあるのか、心臓?脳味噌?手先?それとも姿形?」

「その可能性を試すために僕は自分の肉体の部位を一つずつ切り取ってみたんだがね」

「結果は見ての通り、肉体を構成する全ての組織を切り離しても僕の魂はついぞ消えなかった」

「このヘイローこそがその証と言えるだろうね」

"一応、全く残ってないわけではないよね?"

「むぅ…それは…」

「そりゃ、まあ、一応その…ムニャムニャ…は残ってるが…」

「それでも!これだって一度は完全に切り離していたんだ、後で再びくっ付けただけだ」

「というか!あんなところに人の魂が宿るとか先生も思ってないでしょ!」

"ごめんごめん"

"あまりにも深刻そうに話しててつい"

「全く…年下をからかうのは趣味が悪いぞ」

「で、話を元に戻すわけなんだが」

「最後に残った候補は、ヘイローだ」

「まあそこまでおかしい話でもないだろう、何せ私たちはヘイローが壊れると死んでしまうからね」

「でも、そうだと言うのなら」

「それこそ何故、私のヘイローは複数の身体の間を移動してもついてくるんだろうね?」

"……"

"私には、わからないかな"

「まあそうだろうね、最初に言った通りこれは答えの無いなぞなぞなのだから」

「では、僕の出した結論を聞いてみてくれ」

「僕は最終的に、魂は『宿りたいと思ったところ』に宿ると言う結論を出したわけだ」

"ふむ"

「拍子抜けだと思うかい?でもそもそもの話僕はスピリチュアルな分野は専門じゃないからね」

「こういう陳腐な結末にしかならないのだよ、僕の話なんて」

"…確かに陳腐な答えかも知れないけど"

"カナミらしくて、とても良いと思う"

「…ハハッ、相変わらずおべっかが上手だね先生は」

「で?今度は先生が話す番だろう?」

「なに、心配しないでくれ」

「僕の話だってさほど面白いものでもなかったんだ、先生だって気負わなくて良いさ」

"私は…"

"魂は、『在り方』に宿ると思うよ"

「在り方、ねえ」

「それだけじゃ少しナンセンスだな」

"例えるなら、明日目を覚めた時"

"今の私が消えて全く別の人格がそこにあったとしても"

"その『人』が生徒の皆を"

"カナミちゃんを"

"大切に思い、手助けしようと思うのであれば"

"その人はきっと皆の先生なんだよ"

"昨日までと変わりなく、ね"

「…なるほど」

「自己連続性だけでなく、自己同一性さえもどうだって良い」

「先生はそう思ってるわけだ」

"陳腐でしょ?"

「ああ、陳腐だね」

「これ以上なく陳腐な話だ」

「でも」

「先生らしくて…とても良い」

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