高級うな弁争奪戦①

 高級うな弁争奪戦①



 炎天下の子ウサギ公園でくたばる3人。

 なけなしの保冷剤を額に当て、テントの陰で目を回している。

「RABBIT5! 任務から戻りました!」

「今日は廃棄品に涼しそうなざる蕎麦がありました!」

 少女の顔が引っ付いた戦車、アリス17号が暑さをものともせず部隊の先輩に声をかけるがうーん、うーんと、ぐったり確かな返事もない。

「うわーん! みんな夏の暑さにやられてしまっています!」

「さすがにコンビニ弁当だけで栄養を補うには無理があります!」

 彼女らはこの公園で長らく野宿を続けている。

 SRTでの特殊訓練、その中で身につけた野宿の知恵も、長らく晒される野外の猛暑を目の前には無力だったようだ。

 栄養の不足、過度な疲労が重なり特殊部隊もこの有様である。



 炎天下の中のオアシス、シャーレと同じビルにあるコンビニーーエンジェル24ではある奇妙な状況に陥っていた。

 夏季の丑の日限定品として入荷した高級うなぎ弁当が廃棄処分されようとしていたのだ。

 丑の日が過ぎて半額、そのまた半額、十分の一、二十分の一と赤字覚悟の割引をしているのにも関わらず、在庫は減らず多量のうなぎ弁当が山積みになっていた。

そのコンビニで働くアルバイター。

おでこがチャームポイント、中学生のソラちゃんは不思議に思いながらも賞味期限が切れたうなぎ弁当の山を整理していた。

 このコンビニでは同じビルに構える連邦捜査部ーーシャーレとかいうお偉いさんからのお願いで廃棄品をいわばホームレスに供与している。

 ソラちゃんは少し前から日課となったそれに黙々と取り組んでいた。


ーー決戦の時は近い。



 所有しない。

 確かな。

 幸せ。

 ーー所確幸。

 彼らは日々その建前を掲げて虎視眈々と高級焼肉弁当にありつこうとする獣の集まりだ。

 ヒッピーロボ、つぶらな瞳の我らがデカルトを中心に結成されたやけに武力があるホームレス集団である。

 彼らは日々、一致団結して高級焼肉弁当に向かっている。

「あっ、テメー天ぷら弁当とちくわ天弁当をすり替えやがったな! セコい真似しやがって!」

「ちくわ天を侮辱したな! 許しておけない!」

 訂正、弁当をめぐりむさ苦しい油の 臭い香る内輪揉めを繰り広げていた。

「ただでさえ最近は生意気なガキ共とガンタンクに焼肉弁当総取りされてて腹が立つのにチクショー!」

「あっ、生姜焼き弁当は貰っておきますー」

「もやし弁当こそ至高」


 そんな様子を静かに見ていたデカルトはふと思った。

 人の欲望とはなんと恐ろしいものか。

 焼肉弁当をはじめとした俗にいうTia0弁の供給不足によりあんなに和気藹々としていた仲間達も今や餓鬼道の餓鬼のようではないか?

 手に持った弁当を懐へ仕舞うーーそして。


「皆さん!みっともない!」

 その声にヒッピー共は固まる。

 しばらくの静寂の後、油臭いなかに明るく高く幼い声が響き渡る。

「みなさん! デカルトさん! 大変ですよ! 一大事です!」

「コンビニで高級うなぎ弁当が賞味期限切れになりました!」

 その声の主ーーつい最近、所確幸に身を寄せることになったなんの変哲もない量産型アリスの声を後にまたもや静寂が湧いた。

 そして弾けるように足音が響き渡った。


 足跡とお米と照り焼きソースとがベッタリついたデカルトは一体のアリスに指で突かれるが反応はなかったようだ。


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