高校生クザサカと少年ルッチの話
【注意】
・クザサカとルチハト前提
・転生ネタ+年齢操作(クザサカは高校生、ルッチは小学生くらい)
・たぶん現パロ
・色々設定がおかしい
以上が良ければどうぞ
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人の縁というのは不思議なもので、“過去のつながり”というのは切れないものだと、クザンは今までの経験から強く感じていた。そもそもかつて自分たちの生きてきた世界は、今自分のいる世界では“物語の中の世界”と認識されているのを知った時は驚いたものである。
ともかく、前世は“物語の中の世界”で生きていたなんて言ったら笑われるのはいい方で、下手したら白い目で見られたり迫害の対象になったりする可能性が十分ある。だからクザンは前世の話を人にすることはない。相手が自分と同じように記憶を持っていたのなら別だが。
自分と同じように転生した者が多いことを彼が知ったのは、中学生になった頃だった。小学生の頃は全く見なかったのに、新入生や先輩の中には、見覚えのある顔がちらほら居た。その中で記憶を持っていたのは一部だけだったが、話の合う知り合いが増えるにこしたことはなかった。
さらに高校に入ると、彼はある運命的な出会いをした。それは前世の恋人とその友人だった男と再会したことだった。もっと言えば長らく同じ海軍本部大将を務めていた仲だ。特に恋人とは色々と複雑な事情が絡み合い最終的に決闘、決別という終わりを迎えた。それ自体はクザンの信念に基づく行動の結果なので後悔していない。しかし未練タラタラだったのも事実だ。
ともかく、その前世の恋人との再会はクザンにとって非常に喜ばしいことであった。もう一度と願ったそれが実現できるかもしれなかったからだ。
幸か不幸か、その前世の恋人……サカズキは前世の記憶を持っていなかった。とはいえ性格にそれほど差違はなかったが、過去の軋轢もしがらみも全て無い状態で再会できたのなら、やり直せる。そう思ったその日からクザンは行動を開始し、晴れて今世でも恋人となったのである。
これにはサカズキの友人(クザンにとっても友人ではあるのだが)であるボルサリーノの助力が大きかった。彼も記憶を保持しており、サカズキへの親心からなのか面白がってなのかは知らないが、クザンへの情報提供やアドバイスにことかかなかった。もしかしたら彼も、クザンとサカズキの顛末に何か思うところがあったのかもしれない(詳しくは知らないがサカズキの相談にものっていたらしい)。
現在のクザンとサカズキの仲は非常に良好であり、恋人として最高の高校生活を送っている。登下校は余程の理由がなければ一緒にするし、昼食は(ボルサリーノも同席することが多いが)一緒に食べるし、暇があればデートだってする普通の恋人だ。クラスも同じなので、学校では何もなければいつも一緒にいるくらいだ。
しいて言えば人前でのスキンシップを嫌がられるのは残念だが、それは前世の頃から変わっていないのでクザンとしては可愛いやつという感想を抱くだけだった。
ともかく、クザンは平和な世界に生まれたことを天に感謝するくらいに幸せだった。
移動教室の前の休み時間。サカズキは次の授業の担当教師に質問があると言ってクザンを置いて先に行ってしまったので、彼は仕方なく一人で教室を出ていく。
ちょうどその時に、同じように教室を出るクラスメイト達のある話が耳に入った。
「なんか最近さ、鳩多くない?」
「鳩?」
「昨日公園にめっちゃいたんだよね」
「もしかして、誰かが餌あげてるとか?」
それはクザンも少しばかり気になっていたことだった。ここ数日、街中で鳩を見かけることが多くなっている。前まで近所で鳩を見ること自体はあってもそれほど多いわけではなかった。最近の鳩の数は異常である。鳩による害も増えていると聞くので、問題になっているかもしれない。
誰かが鳩に餌やりをしているというなら迷惑な話だと思いながら、クザンは授業をする教室に入った。
その日の放課後、クザンはいつも通りサカズキと一緒に下校している。付き合ってからはずっとそうだし、実のところ付き合う前から一緒に帰るのは珍しくなかった(その頃はまだボルサリーノが付いてきていたが)。
そこでふと、休み時間に聞いた話を思い出した。
「なぁサカズキ、最近鳩多くね?」
「ほうじゃな」
手に持った参考書に視線を落としたままでサカズキが返事をする。普段から帽子とフードで表情が見えづらいが、下を向いていると更に顔が見えない。だが見ただけで興味が無いというのがわかる態度だ。
そしてその話をしている最中に、二人の頭上を数羽の鳩がポッポーと鳴き声を上げながら飛んでいく。
「こんだけ多いと誰かが餌やってるんじゃないのとか思わない? 昨日公園にいっぱいいたらしいし」
「なんじゃと?!」
勢いよく自分の方を向いたサカズキに、驚きのあまりクザンは肩を跳ねさせ、「うわっ」と声が漏れた。妙に真剣そうな目がクザンを睨む。
果たして変なことを言っただろうかとクザンが聞く前にサカズキが口を開いた。
「ほうなら犯人を捜さにゃ迷惑じゃろ!」
「えっ、いやそりゃそうだけど。別に俺らがやる必要……」
「ええから行くぞクザン!」
「なんで?!」
サカズキはクザンの腕をつかむと走り出す。
雑談のつもりが変なスイッチを入れてしまったことをクザンは後悔する。サカズキにはこういうところがあった。
前世は正義正義と悪を滅ぼすのに異常なまでの情熱を燃やしていたが、今世の彼はそれほど苛烈ではない。しかし、妙な正義感は残っているのか、変わらない生真面目さのためなのか、悪人や他者に迷惑をかける者を許さないのは相変わらずだった。
今回の鳩のことも、自然に集まっているならいいが、誰かが餌をやってそれで集まっているなら問題だと思ったのだろう。間違ってはいないが何も自分で探さなくてもいいだろというのがクザンの本音だった。
走ったおかげか、すぐに公園が見えてくる。そこにあったのは、目を疑う光景だ。
「はぁっ?! 何だよこれ!」
見渡す限り、鳩、鳩、鳩、鳩、鳩……鳴き声の大合唱。公園中に鳩が集まっていた。
さすがのサカズキもこの光景には驚き、隣のクザンと顔を見合う。
「犯人はどこじゃ」
サカズキは鳩まみれの公園の入り口に立って、中を見渡す。すると奥のベンチの近くに人影が見えた。
「おどれか!」
「ちょ、サカズキ!」
サカズキが走り出すと、鳩たちが一斉に飛び立っていく。羽根が舞いやかましいくらいの鳴き声が響け。
鳩たちが飛び立った後、犯人の姿が見えてくる。それを確認して二人は声を上げた。
「なっ……?!」
「ガキじゃと?!」
立っていたのは、随分と奇妙な格好をした、10歳くらいの子供だった。一番目を惹くのは、サイズの合っていないシルクハット。そして「平和」と書かれた明るい色のTシャツ。手には子どもが持つには大変そうな大容量の鳥の餌の袋。クザンと似たような髪質なのか、肩まで伸びた髪の毛先はパーマをかけたようになっている。
ふてぶてしい顔をしたその子供は、特徴的な形の眉毛を釣り上げて、駆け寄ってきた二人を睨んでいる。
さて、悲しいことに(?)クザンはこの子供に覚えがあった。前世で直接子供時代を見たわけではないが、見覚えのある顔にシルクハットときたら浮かぶのは一人だ。
前世の世界にて、世界政府の諜報機関、CP(サイファーポール)に所属していた、「殺戮兵器」と呼ばれた男。
その男の顔を思い浮かべたときに、ふとサカズキが自分と子供を交互に見やっているのにクザンは気付く。
「クザン、お前……弟がいたんか」
真面目な顔で聞くものだからクザンは呆れてため息をつく。
「……どこ見てそう思ったか言ってみろ」
「髪」
「馬鹿、弟なわけないでしょ」
クザンは再びため息。確かに似たような髪型とはいえ早計すぎである。大体どこをどう見たら兄弟だと思うのかと文句を言いたいところだったが、サカズキの関心は既に子どもの方に移っていた。
「のう坊主、お前が鳩を集めたんか?」
サカズキはしゃがんで子供に視線を合わせると、少し困ったような顔で問いかける。大人がやっていたなら厳しく言えただろうが、相手は子供だ。なんなら前に子供に話しかけて泣かれていたので余計に対応に気を使っているのだとクザンには分かった。
「うん。何の用だ。おっさん達」
「おっ……?!」
「さんっ……?!」
クザンとサカズキは思わず絶句した。特にクザンはショックを受けた。日頃老け顔と揶揄されるサカズキはまだしも、自分までおっさん呼ばわりされるとは思いもよらなかった。
「お、俺はクザン。この近くの高校通ってんの。んで、こっちの怖いおっさんはサカズキ」
「誰がおっさんじゃ。わしも高校生じゃぞ」
「クザンとサカズキ」
子供は教えられた名前を繰り返す。この様子だと、前世の記憶は無いようだ。
「そ。で、お前の名前は?」
「……ルッチ」
やっぱりか、クザンは心の中で呟いた。
「おどれ知っとるか? 公園で鳥に餌をやるんは禁止じゃぞ」
「知ってる」
「じゃあ何でこげなことしちょる。言うてみぃ」
「サカズキ、それじゃ子供泣くよ?」
まぁこいつは泣かないだろうけど、クザンはまた心の中で呟いた。
「“ハットリ”を探してる。だから鳩に聞いてた」
「は?」
サカズキは首を傾げるが、クザンはなるほどと思った。ルッチ……CPの殺戮兵器、ロブ・ルッチには、常に行動を共にする愛鳥がいた。それは白い鳩で、名をハットリといった。
どうやら、それだけは覚えているらしい。
ところで果たして鳩に聞いたところで答えが返ってくるのかはわからないが。
「そのハットリってのは、鳩なの?」
「うん」
「お前が飼っちょるんか?」
「ペットじゃない。見たことないけど、多分白い」
「どういうことじゃ」
ルッチは記憶に関しては相当おぼろげのようだ。ハットリという愛鳥(相棒の方がいいのかもしれない)がいたことは覚えていても、姿までは覚えていないらしい。彼にとってはそのくらい大切な存在だったのだろうが、本当にいたことだけを覚えているというのはどこか悲しい気がする。そして、こういったパターンは珍しかった。
クザンが今まで会った見覚えのある人間たちは、はっきり覚えているかまるきり覚えていないかのどちらかだった。クザンは前者であるし、サカズキは後者だ。だからただ一つのことだけを覚えている相手に会うのは初めてだったし、覚えているというよりも囚われているように見える。
もしも今世にも愛鳥がいるなら、きっと白鳩だろう。さっき集まっていたのは灰色の鳩だったので、あの中にはいないということだ。
「クザンとサカズキは、ハットリがどこにいるか知ってるか?」
「いやぁ~。白い鳩は見たことないかな」
「わしも知らん」
「そうか……」
少ししょんぼりした顔でルッチは俯く。前世の彼からは想像できない姿だったので、クザンは違和感から笑い出しそうになるがどうにか堪えた。
「しかしのぉ坊主、いくら大事な鳩を探しとっても、野生の鳩に餌をやるんは皆の迷惑になるけぇ」
「けど、教えてもらってるから、”報酬”をやらないといけない」
「ガキのくせに随分難しい言葉を知っとるのう。餌が情報の報酬っちゅうわけじゃな」
「うん。俺も貰うから」
「親からか?」
「親はいない」
サカズキが完全に子供の方しか見ておらず、面白くないと口をとがらせそっぽを向いていたクザンだったが、ルッチの受け答えに薄ら寒いものが背筋を走った。先ほどは多少子供らしい表情を見せたが、今は完全に無表情で、声に子供らしいものが感じられない。簡単に言えば「抑揚がなさすぎる」のだ。
おまけに、クザンは突拍子もない想像をしてしまった。それは、ロブ・ルッチが今世でも前世と同じ境遇である可能性だ。つまり、幼いころから諜報員として育てられ、既に裏の仕事をしているということだ。そんなわけはないと笑い飛ばしたいくらいだが、何故かそんな気は起きない。
これ以上はまずいとクザンの直感が警鐘を鳴らす。気づけばサカズキのフードを引き無理やり立ち上がらせていた。
「ねぇサカズキ。もう子供のことなんかいいからさ、早く帰ろうよ」
「なんじゃクザン。話はまだ……」
「いいから帰るよ!! えっとルッチだっけ? 多分この街にお前の探してる鳩はいねぇと思うから、探すなら別の場所にしといたほういいぜ!! あと、勝手に餌やるとサカズキみたいに色々言ってくるやつがいるから気をつけろよ!!」
とてつもない早口でそう言い切ると、クザンはサカズキの手首をつかんで走り出す。この公園に来た時と逆の状況だ。
走り出した直後に、クザンたちが向かっている出口と逆の方向から声が聞こえる。
「ルッチ! お前こんなところにおったのか!」
子供特有の甲高い声なのに年寄りのような口調。その時点でクザンはその声の正体が誰なのかをなんとなく察したが、振り返りはしなかった。そのあとに聞こえてきた「手間かけさせんじゃねぇ、化け猫」という男の声も覚えがあったが気にしてはいけないと自分に言い聞かせる。
「サカズキ。今日あったことは忘れよう。多分、明日には鳩もいなくなってるから」
「おどれ何を言うとるんじゃ!!」
「いいから。面倒なことになりたくないなら忘れて!!」
いつになく真剣な声を出したとクザンは我ながら思う。
何故自分のバカみたいな妄想が本当なのか信じ切れるのか、クザンにもわからない。しいて理由をつけるなら「前世からの何か」である。
少なくともあれ以上話していたら、きっとろくでもないことになっていたという確信があるのだ。政府の雇った殺し屋に追われるなんて御免だった(流石にそれはあり得ないのだが)。今世は平和に幸せに生きることがクザンの望みなのである。
公園から大分離れたところでクザンは足を止める。全速力で走ったので、二人とも息切れしている。
息を整えたサカズキがクザンを睨む。
「よいよわからん。クザン、お前あのガキのこと何か知っちょるんか?」
「知らないってことにしといて。いや、ホントに知らないんだけど……」
ある意味ではよく知っているが。
「ほらあれだよあれ、……忘れた! あの、とりあえずさ! 今日暇でしょ? カラオケ行こうよカラオケ!!」
「……来週は期末テストじゃぞ」
「じゃあカラオケで勉強しよ」
もう一度サカズキの手を掴み、クザンはカラオケに向かって歩き出す。あれほど街に溢れていた鳩の姿は、いっそ恐ろしくなるほどなかった。
その日の夜、勉強会を終えて幸せな気分で帰宅したクザンは、ベッドに横になり、公園でのことを思い出していた。
ふと考える。もしもサカズキが物心ついた頃から、クザンのことだけは覚えていたなら、果たして自分を探してくれるだろうかと。元恋人の自分に会いたいと思ってくれるのだろうかと。
物心付いた頃にはすでに記憶があったクザンだが、正直なところ自分から探そうと思うことは無かった。きっと、前世のことを覚えているのは自分一人だけだという意識だったからだ。
自分だけが覚えている、周りの誰も知らない記憶。それを共有できる相手と出会うまで、彼はまるで世界にたった一人取り残された気分だった。
ある意味では、ルッチも同じような感覚を持っているのかもしれないとクザンは思う。彼の場合は世界に一人ぼっちではないのだろうが。どちらかといえば、彼の世界を構成するただ一つ、それだけが足りないのだから。
さて、本題はサカズキのことだが、クザンの中で既に答えは出ていた。
「探すわけないよなぁ……」
呟いて苦笑する。けれどもクザンの知るサカズキはそういう男だ。そもそも本来は前世の時点で終わった話なのだから、引きずっている方が女々しいのかもしれない。
昔は昔、今は今だ。今世を楽しめればそれでいいだろうとクザンは自分を納得させる。
「考えてもしょうがねぇよなぁ」
クザンは目を閉じて眠りについた。
「クルッポー!!」
「は?」
次の日の朝、クザンはつんざく鳴き声で目を覚ました。
思わず起き上がって窓を見ると、近くの木の枝に白い鳩がとまっている。
「いやいやまさか……」
あれがルッチが探していた鳩だなんて、そんなことはありえないだろうと思いながら窓を開けると、白鳩がクザンの方を向く。
「ポーー!!」
「うるさ!!」
「ポッポー!! ……ポ??」
白鳩はクザンを見て一瞬嬉しそうな鳴き声を上げた後、首を傾げる。それを見たクザンはため息をついた。
「あのさぁ……飼い主の顔ぐらいちゃんと覚えておきなよ」
「ポッ」
どうやらその“まさか”だったようだ。髪の毛で間違われるのはクザンとしては微妙な気分だ。
「お前の飼い主、随分熱心にお前のこと探してたぞ?? 昨日は公園にいたけど、おれが居ないっていっちまったから別のとこにいるかもな」
「ポーー」
突然、白鳩……ハットリがクザンめがけて飛んでくる。そしてクザンの髪を嘴で引っ張り始めた。
「ちょ、お前!! 痛ぇ!! 痛いって!!」
「ポッ!」
余計なことをとでもいうように、強い力で引っ張られる。クザンが禿げるのではないかと思うほどだった。
そうしていると、下から聞き覚えのある怒鳴り声がする。
「おいクザン!! はよぉ起きろ!!」
「げ、……おい、ちょっと鳩!! おれ学校行かなきゃだからやめろって!!」
手を振り上げると、ハットリはようやく髪から嘴を離した。
「ごめーーんサカズキ!! 今起きたからちょっと待っててーー!!」
クザンは急いで朝の支度を整えて玄関から飛び出す。門の前では不機嫌そうな顔のサカズキが待ち構えていた。
「いやー、ついつい寝すぎちゃった」
「おどれのせいでわしまで遅れたらどうするつもりじゃ」
「走れば間に合うからいいでしょ!!」
「しょうがない奴じゃのう」
二人が歩き始めると、頭上を一羽の白い鳩が飛び去って行く。それを見たサカズキがぽつりと。
「そうじゃ、あの坊主……」
「もうそれ気にしなくていいじゃん。おれらに関係ないし、鳩だって居なくなったし」
「ほうじゃが……」
「そのうち見つかるでしょ。さっさと行かないと遅刻だよ」
「誰のせいじゃと思うとる!!」
「そんなに怒んなよ~~」
クザンは逃げるように走り出した。サカズキがそれを追う。
走っている最中、昨日の公園の前を通ったので、中をちらりと覗く。
シルクハットを被った子供が白鳩を抱きしめているのが一瞬だけ見え、クザンは少しだけ微笑んだ。