駄目押し

駄目押し

可哀想にオレなんかに捕まって。

 マダラは自分の勝ちを確信していた。前世は負け戦だったが、今は敵となる男が居ない。扉間にも前世の記憶があったが、マダラはそれでも負ける気はなかった。何故か。扉間は前世から柱間が好きということを隠してきたからだ。実兄に対して抱く思いではない、とひた隠しにし、文字通り墓場にまで持って行った秘密。それをマダラが知っているとは扉間は夢にも思わないだろう。実際、マダラが扉間の秘密を知っている理由は同じ穴の貉だったからだ。弟を殺した仇を愛してしまったマダラは当然周囲にそうと悟られないように生きた。穢土転生で作られた偽りの身体とは言え、愛しい相手を痛めつけた辺りマダラは結構な役者である。

 それはともかく、扉間が柱間を愛していた記憶を持っているという事実はマダラの追い風になっていた。愛していた相手が居ながらも公言できない扉間はマダラのアプローチを受けるほかない。マダラが秘密を知っていると知らずに。勿論、マダラは扉間が前世のことを今に持ち出す気質ではないことを知っている。だから、マダラはわざと、前世のことを持ち出して扉間にアプローチをしていた。

「扉間」

「……マダラか」

「待ち合わせか?」

「いや、さっき見送ったところだ」

店の近くに立っていた扉間にマダラが話しかけた。質問に答えるだけ答えて去ろうとした扉間の手を掴み、マダラがそう急ぐなよ、と言った。扉間はマダラといると前世のことを思い出して落ち着かない気分になった。当然それは、マダラが度々前世のことをほのめかすせいだ。それでも、扉間はマダラにやめろと言っていない。言ったが最後、何故止めて欲しいのか訊かれると解っていたからだ。マダラがわざと前世のことを匂わせているとは扉間は知らない。マダラの気質が丁度隠れ蓑になっていた。

「離してくれ」

「誰も見てねぇよ。それとも見られたら困る相手でも居んのか」

「居ない、が」

「なら良いだろ、ちょっとくらい」

扉間の手を握り、マダラは人の少ない通りに入った。夜に差し掛かった時間帯なのもあって人通りは全くない。大人しくついてくる扉間に、マダラは独占欲や支配欲が満たされるのを感じていた。扉間を当然のように従える柱間を幾度となくマダラは羨ましいと思っていた。柱間が扉間に恋心を向けられていると知ってからは、勿体ないと思うようになっていたが。自分なら早々に食べてしまうのに、と思いつつ柱間に気付くなよとマダラは祈っていた。

「マダラ、何処に行くつもりだ」

「あっちじゃ目立つからな」

そう言ってマダラが握っていた手を離して扉間を両腕で抱き締めた。扉間が逃げようとするより先に、ずっとこうしたかった、と耳元でマダラが低い、熱の籠った声で囁いた。固まったままの扉間の頬を片手で撫でながらマダラは、痛めつけるんじゃなくてな、と付け足した。明らかに前世のことを指した言葉に扉間が苦い顔をする。意地悪をした謝罪のように、マダラが優しい手つきで扉間の背を擦った。

「オレじゃだめか?扉間」

「マ、ダラ」

「オレは正直になれなかった男だが、お前のことを愛してるのは本当だ」

こういう言い回しをすれば、扉間が柱間への恋心を思い出して傷付くと解っていての言葉。失恋して貰わないと困るのだ。マダラは。万が一柱間と再会しても、扉間が改めて恋に落ちたりしないように。まだ、過去の話の段階で。扉間が、助けを求めるようにマダラの服に縋り付いた。マダラが無言で扉間を優しく強く抱き締める。五分か十分か、二人は無言だった。マダラの方は、葛藤しているであろう扉間を甘やかすように髪を撫でたり背を擦っていた。

「マダラ」

「なんだ」

「もう少し強く抱き締めてくれ」

「ああ、良いぜ」

先程まで身体を強張らせていた扉間をマダラが強く抱き締め直す。ほんの僅かだが涙の滲む扉間の目尻にキスをし、マダラは、オレのものになる覚悟は決まったか?と訊ねた。マダラの問いに扉間は黙ったまま頷いた。それに心の底から嬉しそうな顔をしてマダラが扉間の唇を塞ぐ。まるで、昔の男は忘れさせてやるからと言わんばかりの濃厚で執拗なキスだった。

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