首輪の色は赤

首輪の色は赤


※後天性🥗IFロー注意(シクロ―)

※まだ折れきっていないIFロー

※首絞めネタ

※暴力描写あり

※🥗IFローが上半身裸

※性的な意味では手を出されていない時空です

※女性差別的な表現がありますが、現実の差別を賛美・美化・助長する意図はありません





 悪趣味だ、と。

 思う。

 心底。


「――――が、ァッ、」

 鶏を絞め殺すような声を聞く。

 か細い喉の、か細い脈と気道を締め付けられて絞り出される空気の音。カツカツと。足元では硬質な音が響く。ローの爪先が床を叩く音。海賊稼業で荒事をこなしていたときではありえない、長く伸びた爪が不格好なタップダンスを奏で出す。

「ァ、が、っ! ぅ、」

 ――ローはドフラミンゴによって喉元を掴み上げられ、宙吊りにされていた。

 爪先が僅かに床を掻く程度の位置に固定された、即座に意識を手放せない責め苦。悠然と立つドフラミンゴは、口の端から唾液を散らすローを眺めて嗤っている。よりにもよってこの男を愉しませているなど。虫唾が走る事実に反抗して舌ぐらい見せてやりたいが、突き出した舌は気道の確保のために他ならず。ローはどこまでも無様だった。

「が――っ、ぐ、ぁ、っ」

 時折締め付ける力を弱めては、また強めて。ドフラミンゴは己の指先の動きに合わせてびくびくと身体を揺らすしかないローを愉快げに嗤う。

 背丈に見合った掌はローの喉を覆って十二分に余りある。まして今はなおいっそう。

「かわいくなったなぁ?」

 ロー、と。

 嘲りでしかない言葉の響き。

 サングラス越しの視線がローの全身を舐めた。侮辱は酸欠に喘ぐローの脳に血を昇らせたが、直後に胸元で揺れる感覚を思い知らされる。

 “女になる病”。

 世に奇病難病は数あれど、ここまで身体の構造を大きく造り替える疾病はそう多くはないだろう。いかなる外科的手法も用いずに男性の身体を女性のものへと変貌させる――異端の病ではあろう。よく似た事象によって――あちらはホルホルの実の能力に依るものだが――国が滅亡した例もある。

 だが病は病。医者であるローにとって病とは克服すべきものであり、まかり間違ってもこんな――人間を辱める道具として用いるものでは、ない。

「ぁ、」

 けれどもどれだけ怒りを燃やそうと、ローにはドフラミンゴに対抗する手立てはなかった。

 海楼石が嵌った左腕は持ち上げることも出来ず、そもそも爪を剥がされた手指では爪立てることすら出来はしない。病に罹る以前から痩せ細り傷付けられた脚はまともに歩くことすら覚束なくて。

 睨み付けようと目元に力を籠めてもローの表情は果たして憤怒を成しているのか。ドフラミンゴは嗤うだけ。イトイトの能力でどれだけの屈辱も暴虐も強いることが出来るくせにローを女にしてからこちら、ドフラミンゴは自身の肉体で以てローを拷問することを好んだ。ローの無力さを突きつけるかのように。

「……ぅ、く……っ」

 徐々に徐々に。意識は白く染まっていく。

 けれどそれはロー自身が何より望む――、

「――――っ!」

 唐突に。

 ドフラミンゴは掌を開いてローを解放する。垂直に落下するローはしかし、受け身も取れずに床に転がった。

「が、ひゅ、」

 酸素を求めて喉が鳴る。

 散々“それ”を望んでいたというのに、未だ生を求めて膨らむ肺が滑稽だった。死んでいない。死にきれない。死を選ぶ自由もない。なにもない。今のローにはなにもないのだ。

「ろーぉ、」

 粘ついた声音。

 振るわれる足。

「かぁわいいなぁ」

 ぼん、と。

 ボールでも蹴るような気軽さでドフラミンゴの足先がローの腹部に喰い込んだ。

「ぁ゛がっ、!」

 ローの身体はくの字に折り曲がって宙に浮き、落ちて、ごろごろと床を転がった。

「ぐ……っ、っ、……ぅ」

 呻く声は腹に響いて更なる痛苦を呼び起こす。ぐわんぐわんと回る視界。堪えきれずに吐き出して、血と胃液が点々と床を汚していく。

「ぅ……っ」

 ぴしゃん、と。ドフラミンゴがローの吐瀉物を踏みつける。一点物の靴が汚れることになんの気負いもなく、ゆったりとした足取りでローへと近付いてくる。

「ひ、」

 黒い陰が床に倒れ伏すローの全身を包み込む。喉が震えた。滲んでしまった恐怖を察してか、ドフラミンゴの口角が更に吊り上がる。咄嗟に身を固めようにも力が入るはずもなく、弛緩したローの身体をドフラミンゴは足先でひっくり返す。

「……ぁ、」

 ドフラミンゴが長い足を持ち上げる。

 意図するところは予想できれど、ローにはもはや身を捩る力すらなかった。


***


 仰向けにして左右に流れた乳房の間。

 中央に刻まれた刺青へと向けてドフラミンゴは靴底を押し付けた。鈍い悲鳴が響く。海楼石の枷は能力者から肉体の自由を奪う。悲鳴を抑えるための力すら入らないのだ。

「ぅ……ぅぅ」

 吐瀉物を柔い肌で拭うようにドフラミンゴは靴底を動かした。すでに打撲や切り傷やらを負わせた肌に更に上書きしていく。――ああ。まったくとんだ兄不孝者だ。ドフラミンゴの許しもなく、勝手に肌に墨を入れるなんて。ぐちゅぐちゅと。ドフラミンゴは水音を捏ね回す。されるがままのローは時折びくびくと震えるだけだった。

「ああ。そうだ。そうだ。お前はそうしていればいい」

 ドフラミンゴに対して反抗するなど許さない。許されない。

 同盟者を喪い、クルーたちを喪い、それでもローはドフラミンゴへと反抗する意思を消さなかった。ローの反抗心は薪をくべたかのようにあかあかと燃ゆるばかり。

 だから右腕を奪って左手指の爪を毟ってジョリーロジャーに射線を引いて。獣の牙を抜くように、小鳥の羽根を抜くように。愛玩する相手にはそうするように肉体の性別を変えてやって弱く小さなモノにした。

 そうして仕立て上げた『ロー』は大層愛らしい。ドフラミンゴへの反抗のために鍛え上げた肉体などローには必要ないのだ。

 ドフラミンゴはローの鎖骨に靴底を押し当てる。ローが呻いて喉が反らされた。細くなだらかな喉元には五指のかたちの真っ赤な首輪が良く映える。

「かわいいなぁ、ロー」

 呼吸に伴って上下する胸元。

 心臓の刺繍を通じて感じる脈動。

 見下ろして、ドフラミンゴはただわらう。


 死んでおれから逃げるなど。

 そんな反抗は絶対に許さない。


Report Page