饕餮が如く
白煙に、獣が映る。
おどろおどろしい人の顔に、その醜悪さを後押すかの如く曲がりくねった角と雄々しき虎牙。羊にも牛にも似た体躯に、人の爪が生えた四足を持つ。
背に彫られた入れ墨であるにも関わらず、それは世界に存在を許されたように生を持つ。
獣は煙より出でて、白衣によって隠される。
獣の入れ墨を背負う男は、脱衣所から出てワインセラーである冷蔵庫の前で腰を折り、冷えたシャンパンを取り出す。
カブトムシを捕まえた少年のような瞳で、しげしげとグラスに揺蕩うワインを見つめ、傾けて…
「マスター、ただいま戻……」
「…あ"ぁッ」
溜め息のような吃音のような声が漏れ出る。
「…間が悪いな、アサシン」
「も、申し訳ございません…」
グビッとワインを飲み干して、何処からともなく取り出したシガーケースをトンと叩いてタバコを出す。
「ウチのモンから聞いたぞ。マスター殺しを買って出たらしいな。まぁ…結果は顔見りャ分かるが」
「直前にサーヴァントを召喚され、邪魔されました…申し開きのしようはありません。如何なる罰も覚悟の上です」
アサシンと呼ばれた女性は片膝をつき頭を垂れる。男は手慰みにタバコを指で回しながら、皮肉るような顔で吐き捨てる。
「いらんいらんお前の首なんぞ。お前はマスター殺しだけに専念しとけ。絶対にサーヴァントと正面切って戦りあうんじゃねぇぞ」
「……………承知しました」
その言葉を残してアサシンは消え去り、男は一人、タバコと接吻を交わす。
「………見てろよ、爺。アンタが捨てたモンは、俺が全部拾ってやるからよ」
煙は虚空に消えていく。それはまるで、誰かの未来を暗示しているかのように。