飴と肉

飴と肉


※ちょっと注意

ころころ、口の中でミルク味の飴を転がしつつ、ルフィはうきうきと町に向かって歩いていた。

天気はいいし、飴はおいしいし、なにやら肉の焼ける香ばしい匂いもする。間違いない、飯屋が近い。今日はナミからちゃんと小遣いを貰っているので好きなだけ肉を食べるんだ。

スキップしそうな足取りで町に入ろうとしたルフィを、ふと横から呼び止める声があった。おーい、そこの兄ちゃん、と。

なんだとそちらに向かえば町の入り口で、5,6人の男達が肉を焼いていた。肉!?とルフィの目が輝くのはお約束。じゅうじゅう焼けるいい音と匂いが変わった風向きに乗ってルフィの耳と鼻を擽る。あ、これ絶対美味いやつ。

「兄ちゃん、どうだい一緒に?肉嫌いじゃねーだろ?」

「大好きだ!」

元気な答えに男達が苦笑する。一人が「じゃあ、ほら」と網の上から串に刺さった大きな肉を一本とってルフィに向けた。やったぁ!と受け取って食いつこうとしたルフィだが。

「(あ、ダメだ まだ飴舐め終わってねぇや)」

大口を開けた途端に口の中に残っていた飴の存在を思い出した。ころん、と小指の先ほどもなくなったミルク味の飴。

ルフィは何でも食べるがいくらなんでも飴と肉は一緒に食べるものじゃない。齧りつきかけた肉を一端口から離して――ぽたりと肉汁が落ちた、とてつもなくジューシーでいい匂いがする――ともかく飴を舐めきってしまおうと口を閉じる。肉を渡した男が怪訝そうに眉を寄せる。

「なんだ、食わねぇのか?」

「美味いぞ?」

「食う!食うよ!ちょっと待ってくれ!」

おかしい。ほんの小さな飴なのに、舐めても舐めてもなくならない。必死に口をもごもごさせるルフィはふと違和感を覚えて顔を上げた。えっ、と声にならない声が出る。


今の今まで目の前で楽しげに笑っていた男達がピタッと黙り込み、全員無表情でルフィを見ていたのだ。


「食えよ」

「えっ」

「食えよ」

「食う、けど」

「食えよ」

「食えよ」

「食えよ」

「食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよ食えよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよくえよ」


ダメだ

本能的にルフィは後ろに飛び退いた。飛び退いてそのまま駆け出す。町の中に文字通り飛び込んで屋根から屋根へ飛び移った。

あれはダメだ。本能がガンガン警鐘を鳴らす。一秒でも速くあいつらから離れなければ。あれは戦ってはいけないものだ。

気配を探っても男達は追っては来なかった。チラッと視線だけ後ろに投げれば男達は一歩も動かず首だけをルフィに向けていた。うげ、身体と首が真逆向いてるやつがいる。

気持ち悪っ!と表情を歪めて、ルフィはまた一つの家の屋根を飛び越えた。道行く人達の呆気にとられた顔になど気づきもせずに。

Report Page