食べるというと
コトコトと鍋が音を立てている。
ゆっくりとしかし中のスープを沸騰させすぎないようににかき混ぜていく。
『とりあえずウタにアレルギーはないぞ』
『そいつは良かった!』
頼れる船医の診断書を思い出しながら手早く野菜や肉を包丁で切っていき、スープの中に入れていく。
煮込んでいる間にウソップに作ってもらったマス目の容器に一口サイズに切った魚のムニエルや自家製のローストビーフなど料理を少しずつ盛り付けていく。
『サンジくん、このミカン使ってデザート作ってあげてくれる?』
『お任せくださいナミさん! このサンジ全身全霊で作ります!』
愛しのナミから渡されたミカンを使ったゼリーやシャーベットの様子を見るとやはりモノがいいのか色・光沢ともに素晴らしく、味見をすれば思わず笑みが溢れる。
「よし……あとはスープだな」
麦わらの一味のマスコットでもあり、ともに数多の冒険を乗り越えてきた生きている人形ウタ。
しかし、それは悪魔の実の能力で姿を変えられていたルフィの幼なじみの少女ウタだった。
その事実を聞いた時サンジの心は元凶への怒りに染まった。
理由は知らないが少女をおもちゃへと変え、喋ることも寝ることも食べることも何もできない生き地獄へと落としたものへの怒りに。
しかし、その元凶も我らが船長に完膚なきまでにぶっ飛ばされたのならもう自分がやることは唯一つ。
「お待たせしましたプリンセス。サンジ特製ランチでございます」
「うわぁ・・・すごい!」
「うまそー!」
「おい待て。これはウタちゃん用だ。お前らには別のやつを用意しているからちょっと待っとけ。ウタちゃん優先だ!」
眼の前で料理に目を輝かせているお姫様を満足させる料理を作ることのみ。
食べることができない苦しみ、悲しみは知っている。
だからせめて自分の料理でその苦しみや悲しみを癒やしてほしい。
「こちらはお水で、こちらはナミさんのミカンで作った特製オレンジジュースでございます」
「えっと・・・いただきます!」
恐らく今まで物を食べられなかったので顎の筋肉も弱っているはずだから多少時間はかかったがすべての料理を少しの力でも噛めるように柔らかく仕上げた。
食べたいものなどを思いつかない可能性があったから一つの料理をたくさん食べるよりも色んな料理を楽しめるように一口サイズで盛り付けた。
食事とは、食べるという事は笑顔になって生きる活力を養うこと。
「~~~! おいしい! 美味しいよサンジくん!」
「お口にあったようで何より・・・デザートも用意していますのでゆっくりとお楽しみください」
そろそろ我慢できなくなってきた船長たちのためにも料理を持ってくるかと、食べるという事を取り戻した少女の声にならない喜びを背中に感じながら厨房へと戻っていく。