飛行機雲と星のあいだに
「おどう君強かったですよねー、出遅れても慌てずに自分の脚を信じて…ンアー、アースってばそんな一世一代の勝負に…シニア期になって…今更ジュニア期の悪い癖がでちゃって…ケッサクですよ!まーた善戦ウーマンって言われちゃいますね!」
そうレースを語る彼女の様子は、明るい。
その名の通り、まるで輝く星の様だ。
「先輩も…確かに全盛期の走りには戻れなかったかもしれません。でも…あの走りは確かにいま出来る先輩の最高の走りでした。アースはなーにやってるんでしょうねえ!ロケットスタートを決めたら最後までエンジン点火してないと!」
その輝きは、話を追うごとに強くなる。
「後、余さんもパレスくんも頑張ってましたよねえ、お互い来年どこ行くかわからないですけど、当たるとなったら注意しなきゃ…」
君も頑張っていたよ。
充分凄かったよ。
次は勝てるよ。
自分用のメモを必死に取る彼女に、そんな気安い言葉をかけるような、善にも悪にもなれないボクだ。
テーブルを挟んで、彼女とボクは向かい合わせになっている。
だけどその心の距離は、何光年も離れているだろう。
君が涙の時には、僕がポプラの枝になる。
君が笑ってくれるなら、僕は悪にでもなる。
…そんな役目は、より近しい、相応しい誰かがいる。
空をゆく飛行機雲では、地上で輝く星々に近づくことすら出来ない。
「…お兄さん?アースの話…退屈でした?」
戦い続ける君に、戦わないボクが添える言葉があるだろうか。
歓喜の声とは裏腹な、冷たい声の中に、彼女がいつも震えながら向かうことを知っているだけの、ボクに。