飛んで巣に入る砂の鰐

飛んで巣に入る砂の鰐

ホワイトモンスター外伝〜悔恨の揺籠より〜


アラバスタ内乱とは名ばかりのおぞましいパンデミックのさなか。

凄まじい抵抗の末ついに捕らえられたクロコダイルは、蟲の巣穴と化した王宮に連れ込まれた。

元はビビの私室も、ナメクジが這った跡のような粘液だまりや溶けかけた人間の成れの果てが無造作に床に転がってひどい有様だ。鼻を突く饐えた臭いに、吐き気がこみあげてくる。


左耳に開けられたちっぽけな海楼石のピアスがずきずきと熱を帯びているようだ。

弛緩した身体をこともなげに抱き上げる王女の薄皮一枚下。

蠢く蟲の痕跡にらしくもなく嫌悪感と強い憐みの情が沸いた。


ーー

絡みついて組み伏せて。無数の手で抑えつけて。

丁寧にラッピングされたクリスマスプレゼントの包装を剥がすように。

サークロコダイルが纏う分厚いファーコートを細い女の腕が容易く引き裂いた。

スナスナの実を警戒してか、肌の上を這いまわる手はじっとりと湿り気を帯びている。

きっちりと後ろに撫でつけた髪を戯れに乱され、舌打ちと共に睨みつける。


「…離せ、ガキと遊んでる暇はねェんだ」

「ええ、遊んでいるつもりはないわ。…私もビビも真剣よサー」

「あなたと、ようやく楽しめるんだもの」


うっそりとほほ笑む四つの瞳は、玉虫色に怪しく輝いていた。




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