風邪をひいたダイブちゃんとキッド海賊団クルー
ヴィクトリアパンク号の女性クルー専用敷地にある広めな共有スペースは、やけに静かだった。温暖な気候の海域を航海している昼間で、みんなどこか別の場所にいるからという理由ではない。
やけに落ち着かない風に雑誌をめくっているエマ。
いつもはこだわっているネイルに集中できない様子のヒップ。
さっきから資料室と自室を往復しているクインシー。
そして、いつもは似た背格好の片割れのような存在とよく遊んでいるハウス(今日はクインシーとよく一緒にいる)。
まあ、あのダイブが重めの風邪を引くなんて久しぶりだもんな…と思いながら甲板の掃除当番を終えてきたばかりのホップは近くの手ごろなソファーに腰を掛けるのであった。…自分自身もダイブの様態を想像以上に心配していると自覚せずに。
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新世界に入って比較的穏やかな海域に入って数日、ダイブが風邪を引いてダウンした。船医によると、合併症などはなく、数日前の嵐で外で激しい雨に打たれながら船の作業に加わっていたことが原因ではないか、とのことだった。俺はじめ、他のクルーも外での緊急の作業に加わっていた者はいたが、ダイブ以外に体調不良に陥ったものはいない。
船医「やはり、性別やら体格とかも影響するもんだぜキラーさん。とくにあいつは特別体格が小さいからなぁ」
様子もやや長めに見るようにした方がいい、とキラーは船医からアドバイスをもらっていた。
ワイヤー「んで、今はどんなかんじだったんだキラーさん」
キラー「心配することは無い。ぐっすり寝ていた」
ヒート「船医からもらった薬が効いたのかな…」
キラー「ああ。前の島に寄った時に買い足した薬がダイブの体質に合っていたらしい」
ヒート「そうか、そいつはよかった…」
キラー「なお、船医の奴は『格別苦い薬だったから飲ませるの躊躇した』って言ってたな」
ワイヤー「でも薬だから飲ませなきゃだからでしょ」
キラー「案の定、酷い、最低とかという暴言を浴びてたな」
ヒート「うわかわいそ…」
船内の船長室の近くにあるキッドと幹部(キラー、ワイヤー、ヒート)が作戦会議をしたりこっそり飲んだりするのに使ったりする部屋にて、3人は情報の共有をしていた。穏やかな海域であっても突然の襲撃に備える必要はあるため、数日に一度こうして今後の進路や買い出し、その他の予定の大まかな方針を(ときにキッドを巻き込んだりして)話し合ったりしている。今日の主な議題は買い出しや修理のおおまかなリストアップやその予算の調整、そしてやや重めの風邪に伏しているダイブについてだった。
キラーは2人に対してダイブの様子や合併症がないという診断を受けたこと、数日から1週間あたりの各当番に変更が生じること、他のクルーに対しても体調の変化や薄着に気を付けることといった情報を共有した。キラーは実質副船長の立場で皆によく頼られるが、キッドと行動を共にすることも多くクルーのそばから離れることも多々ある。そんな時に船長・副船長の代理として指揮を執るのがこの二人である。
ワイヤー「温暖な気候の付近だと気を抜きがちだからぁ。パンツ一丁で寝る奴もいるし」
ヒート「そんな奴なんざ船医もみたくねぇだろ」
キラー「一応女性クルーの敷地については問題はないといってたが、一応換気はするようにとホップに伝えてある。船内で感染だなんて洒落にならねぇからな」
ヒート「そういやアイツ甲板の掃除当番だったな。…てか今日クインシーとかヒップとかあんま見てねぇな」
ワイヤー「なんだか静かだよな」
キッド「入るぞ」
キラー「おおキッド、おまえが進んでここに来るなんざ珍しいな」
キッド「あ?俺が来ちゃまずいことでもあったのかよ」
キラー「あるわけないだろ。まあ座れ」
そういって隣の空いている椅子に誘って、ついでに麦茶の入った大きめのコップを渡すキラー。キッドはイラつく様子もなく、案外素直にそれに従った。キッドがキラーにいくつかの質問を投げかけながら、麦茶を飲む。それに対してキラーは少し前にワイヤーとヒートにした説明を繰り返し、キッドの質問に答えていく。
キッド「んでよぉ、話は変わるがダイブはどうなんだ?」
キッドが麦茶を飲み干した後、一番の関心事にお題は移った。
キラー「船医曰く、ただの風邪で合併症はなし。換気を十分にしていれば船内での感染リスクもぐっと下がるようだ。数日から1週間以内には復活するらしい」
キッド「薬とかは?買い足す必要とかはあるのか」
キラー「前の島で買い足した薬が十分聞いているそうだから、このまま服用させるとのことだ。航路変更は今のところは必要なさそうだ」
キッド「もしかしてあれのことか。アイツ(船医)がやけに質のいい薬が手に入ったとか言ってた」
キラー「ああ。体質に合ってた良薬だったらしい」
キッド「ほう」
そいつはお手柄じゃねぇか、といった後、ワイヤーが口をはさむ。
ワイヤー「そういや、カシラなんかいつもより元気ねぇな」
キッド「あ…?あんな雨程度で風邪なんか引くかよ」
キラー「ちげぇ、お前がしょぼくれてるって言ったんだキッド」
キッド「俺がしょぼくれてるだぁ?どういうことだキラー!」
ヒート「無理もねぇよカシラ。ダイブがぐったりしてて船医を慌てて呼びに行って医務室のベット整えてさ、カシラとキラーさんは医務室行ってたけどその間他のクルーは感染症だ病気だなんだって騒いでたんだ。そのあと船医が診てるっていって持ち場に着かせたりしたんだけど…やっぱ今日はしんみりしちゃってるぜみんな」
それがカシラにもなんとなく伝わってるだけだと思うから、カシラが気にすることじゃねぇと思う、とヒートがさらに付け加える。
ワイヤー「女子のエリアから漏れてくる音楽もねぇしな」
ヒート「クインシーがよく流す奴か。聞きなれた音楽がないと調子狂うときあるもんな」
キッド「………」
キラー「…手持無沙汰なら、医務室行ってきたらどうだ?」
キッド「…俺がわざわざ行く必要もねぇだろ」
キラー「お前の体は人一倍丈夫で感染の心配はねぇし、アイツもベットの上でぽつんとしてるようなタイプじゃねぇしな。船医の判断にもよるが、少しかまってやったらどうだ?」
キッド「ガキ扱いするなってこないだ言ってたじゃねぇか」
キラー「ゼリーをよそうときの分量とはわけが違うだろ」
ヒート「顔見せたらきっと喜ぶぜカシラ」
ワイヤー「ちょうど苦い薬飲んだ後らしいからな」
キッド「…俺のクルーの中に苦い薬が嫌な奴でもいたのか」
そいつは見逃せねぇな、といいつつキッドは部屋を出ていった。
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【医務室にて】
キッド「(寝てるか…?)」
船医に入室していいかの確認を取った後、キッドはそっと医務室のドアを開ける。中をのぞくと大きめの白いベットの上に小さな塊が見える。寝ているダイブだ。小さい塊が呼吸によってわずかに動いているのを確認して、そっと閉じようとしたとき、ふいにカシラ、と呼ぶ小さな声がした。
キッド「……起きたのか」
ダイブ「あ。やっぱり」
やっぱりってなんだと思いつつ、ベットのそばに行く。
キッド「…調子はどうだ」
ダイブ「ちょっと寝たら楽になった」
キッド「…吐き気とかはねぇか」
ダイブ「ない」
キッド「なんか飲むか」
ダイブ「うん…あとなんかおかし食べたい」
キッド「スポドリで我慢しろ」
そういってキッドは医務室の棚から小さめのコップを選んで、適度に冷えたスポドリを冷蔵庫から出して注ぎ、ダイブに渡す。ダイブが焦らずにゆっくり動けるようにペースを合わせ、手を支える感覚で手渡す。
ダイブ「…おいしい、ありがとうカシラ」
キッド「……そうか」
ダイブ「…ねぇカシラ」
キッド「…あ?」
ダイブ「その……風邪ひいちゃって、ごめんなさい…」
キッド「気にするな。お前が謝る必要もねぇ」
ダイブ「雨で服濡れてたのに、すぐ着替えなかったからそれで…」
キッド「そっち(女性クルー)は詳しくねぇが、野郎なんざそんなんしょっちゅうだ。それに急に嵐にあったらなりふり構ってらんねぇだろ」
ダイブ「そういえばただの雨でも外出てるときあるよね」
キッド「…余計な手間を増やしやがる」
ダイブ「カシラ雨とか苦手だもんね」
キッド「うっせ病人は寝てろ」
ダイブ「えーあっち行きたいよーみんなと顔合わせないのさみしいのに」
キッド「ぶり返して他の奴らに移されたらたまんねぇから、船医の指示に従え」
ダイブ「…はぁい」
医務室から出る直前、キッドはダイブに声をかける
キッド「あとそれからダイブ、出された薬はちゃんと飲めよ。その薬結構いい奴だからな」
ダイブ「えまってあれすっごく苦いのに?!」
キッド「良薬は口に苦しっていうだろ」
ダイブ「やだぁまた夜飲まなきゃなんだってあれ!」
キッド「ほーよかったじゃねぇか早く治せるぜ」
ダイブ「やだよぉ~カシラ飲んでよ~」
キッド「俺が飲んでも意味ねぇよ」
良薬のあまりのまずさにダイブは勘弁してるらしい。まあアイツ甘党だしな、とキッドは思いつつ、文句を言うダイブに声をかけてやった。
キッド「とにかく早く治せ。んで治したら菓子やらスイーツやらの店連れて行ってやる」
ダイブ「え、ホント?!」
キッド「ああ、そこでお口直しすればいいだろ」
もちろんヒップやハウスたちも連れてな、という頃にはダイブはめちゃくちゃ喜んでいた。そういや、こいつは布団一枚で寒くねぇのか。…このファーを置いて行ってやるか。
キッド「(…まあキラーほど甘くねぇしたまにはいいだろ)」
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ヒート「カシラってダイブに対しては割かし心配性だよな」
ワイヤー「まあ体もちいせぇし、ダイブがいねぇとなんだか静かだしなぁこの船」
キラー「ところでお前ら、今日の夜ダイブに出すかゆについてだが、しゃけのかゆとかぼちゃのかゆどっちがいいと思うか?」
ヒート「(しゃけ…)」
ワイヤー「(しゃけ…)」
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