類友
降って湧いた休日の扱いに困るのは、どうやらトレセン学園生でも例外ではないらしい。
「……ヒマっすね」
「……そやんなあ」
「……そうじゃの」
トレーニングに励む子たちを眺めながら、私とパイセンたちは最近修理されたばかりの柵にもたれてボーっとしている。
一日かけて合同トレーニングを行うはずが、書類の不備がどうとかで三者のトレーナー全員が見事に学園へ缶詰なのだ。
「……出掛けよか?」
「どこに?」
「そのへん」
「えらくざっくりしとるの」
「……行きましょうか。どこにしろ、ここでボーっとしてるよりはマシでしょ」
そういうことになった。
3人とも制服なのでこのまま出掛けてもいいのだが、折角なので私服に着替えることにした。
校門前で集合することにして一旦解散、自室に戻って着替える。今日はちょっとパンクな気分。
片膝にスリットが入ったカーゴパンツに、トップスは袖に龍が入ったショート丈トレーナー。
ハゲに買わせたネックレスを着けて、ちょっとゴツめのスニーカーを履いて。
校門でパイセンを待っていると、LANEにメッセージ。
『ワレ忘レ物。先行サレタシ、キツト差ス』
『同室の子がウマホ無くした言うんで、先に行っとって』
『了解、それじゃ駅前で』とだけ返して、先に行くことにした。
……で。
「ようよう、姉ちゃんイイ格好してんね」
「今からウチらとイイことしに行かね?」
「あー、えっと……」
集合場所の駅前で、なんともガラの悪いお姉さんウマ娘たちに捕まってしまった。
「その、あの……連れを待ってて……」
「何? ツレ居んの? ウマ娘?」
「あっ、あっ、その……はい……」
「イイじゃんイイじゃん、この後は? どっか行くの?」
「……えっ、と……特に予定は……その……」
「へー、なら余計イイわ。都合良すぎて怖いわウチ」「それな」
やばい、このままじゃ……さて問題、このピンチをどう切り抜けるか?
三択──ひとつだけ選びなさい
1:イケてるワットハイアは突如完璧な言い訳が閃く
2:パイセンたちがきて助けてくれる
3:逃げられない。現実は非情である
落ち着け私、こういう時はどうすればいいか考えろ!
とりあえずスレ立てて暇人どもに……ダメだ。間違いなく煽られたりするだけだし、そもそもそんな暇ない!
それじゃパイセンたちが来るまで何とか粘る……もっといい手がある筈だけど、今はそれしか浮かばない!
「……あー、その……」
「ま、ここで突っ立ってても通行人のジャマっしょ」
「それ。とりまそこの喫茶店入んべ」
ヤバいやばい連れ込まれる! パイセンたち早く来て……!
……あ、何かビビッと来た!
レースの時以上に冴え渡る第六感を信じ、周囲を探る……と。
「……ぉ」
「「……ぁ」」
物陰からこっちを見てるパイセンたちを見つけた。
「(パイセンたち! 何そんなところで見てんすか、可愛いカワイイ後輩がピンチなんですけど!)」
「(ごめん、いくらアタシでも怖いものは怖い……)」
「(すまぬハイア嬢、この小さな身が恨めしい……)」
「(先輩らしく助けに来てくださいよぉぉぉ)」
「んー? どったの百面相して……あ、もしかしてツレってあの子たち?」
「「「げ」」」
三択の答え──3。
「へー、イイねイイね……うん、バッチリ」
「3人だけ? 他にはいない?」
「……いません……」
「おっけおっけ。んじゃ姐サンに連絡入れんべ、ウマ娘ちゃん3人連れてきます……っと」
「……うぅ……ごめんなさいパイセン、私のせいで……」
「ハイアちゃんは悪くない……大丈夫、こうなったらアタシたちも腹括るから」
「そうじゃな、何とか機を見て……」
「うし、連絡完了。じゃ、行こっか」
「「「……はい……!」」」
「なんか知らんけど気合入った目ぇしてんね、別にイイけど」
大丈夫。大丈夫、私たちは何があってもきっと……!
~ 🕒 ~
「いやあ、助かるよぉ。あたしらだけじゃどうも手が行き届かんで」
「気にすんなって姐サン、ウチらだって好きでやってんだし」
「そーそー。姐サンたちも兄サンたちも若くないんだし、何かあったらすぐ呼んでよー?」
「ははは、そいつは有難いね。しかし婆ちゃん爺ちゃんでいいと言うとろうに、あねさんあにさんはこそばゆい」
「「「……は?」」」
あ……ありのまま今目の前で起きていることを話すぜ!
私たちは怖いお姉さんたちに絡まれたかと思ったら、いつの間にか河川敷のごみ拾いに参加していた……
な……何を言ってるのかわからないと思うが私たちも何でこうなったか分からなかった……
裏取引だとか野良レースだとかそんなもんじゃあ断じてない、もっと善良な何かの片鱗を目の当たりにしたぜ……
「ありゃ、そちらのウマ娘さんたちは……連絡にあった子たちかい?」
「ん、そうだよ……ほら、何してんのさ。こっち来て手伝ってよ」
「あ、その……はぁ……」
そう言われて手招きされても……と困惑しきりの私たち。
それを見、ごみ袋を持ったお婆さんがジトっと怖めのお姉さんウマ娘を見つめる。
「……インちゃん、アンちゃん。もしかして、目的言わずに連れて来たね?」
「……あ、やっべ。少しでも人手を確保しなきゃってことで頭がいっぱいで、まるっと忘れてたわ」
「全く、そそっかしいところはいつまでも変わらんなぁ。すまんねお嬢さん方、お出掛け中だったかい」
「あ、はい……でも、その。暇では……ありましたが」
「そうかい、そんなら……まあ、折角だ。爺婆のつまらん仕事に付き合っちゃくれないか」
「……うむ、承知したのじゃ」
結局その後、私たちは河川敷のごみを拾いまくった。
なんでも私たちを連れて来たウマ娘たちは野良レースを走っているらしく、別エリアの野良の子だと思ったらしい。
曰く『見た目が厳つい子ほど性根は優しいってこと多いから、誘ったら来てくれるかと思った』とのこと。
割と理不尽ではあったが、ご老体たちは喜んでくれたし、達成感はあったし、野良レースの話も色々聞けたし。
何より「無理に付き合わせちゃってゴメンね」の言葉と一緒にスイーツを奢って貰えたので良しとしよう。
でも別れ際に言われた「怖い人にフラフラ着いてっちゃダメだよ?」はどの口が言うのかと思った。
[スタミナが10上がった]
[スキルptが15上がった]
[『シンパシー』のヒントLvが1上がった]