願い星はきらきらと

願い星はきらきらと

愛し合う者達の、ある夏の七夕のお話。いつもの通り妄想捏造満載のイマジナリーシリーズ三次創作SSです。※現代の時期は優桜達と『訪問者』が再会してから最初に過ごした七夕だと思ってください。


☆作中の時期は上記の説明通りですが、イマジナリースレ主様のSSとは時系列がズレている可能性があります。その場合はパラレルとして広い心で見てください。

☆本作は2023年の伝統的七夕の時期(8月22日。Wikipediaの項目「七夕(日本)」→「日付」参照)に合わせて書きましたが、作中の時期は恒例の七夕に合わせた7月上旬(明治時代は新暦で言う8月下旬)頃です。…SSを思いついた時が8月7日すら過ぎていた為の苦肉の策です。

☆ぷらいべったーにも同一内容のSSを掲載しています。パスワードは「imaginary_gazer」(「」内の英単語)です。読みやすい方をどうぞ。


(2023.9.9 本文一部修正)


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“ささのはさらさら

のきばにゆれる

おほしさまきらきら

きんぎんすなご……”



時は明治、ある夏の夜。夕餉を食べた百之助は縁側に座り歌っている『兄』の優桜を見つけた。優桜は歌うことが好きだったが、それは百之助も初めて聞く歌だった。


「優桜。それ、何の歌?」

『“たなばたさま”って言うんだって。一年に一度、七月始め頃の時期に夜空にいる『おりひめ様』と『ひこぼし様』がたくさんの星の集まった「天の川」を渡って出会える日があって、その日にお願い事をすれば願いが叶う……っていうお話の歌』


「ふーん……。ねえ、そのおりひめ様とひこぼし様はどうして一年に一度しか会えないの?」

百之助は優桜の隣にしゃがんで再び問いかける。

『えーと……確か、二人が仲良しすぎてお仕事をしなくなっちゃったから、天の神様が怒って天の川の両岸に別れさせたんだ。でも二人があんまり悲しむもんだから、年に一度だけならって神様が鳥に乗って会うのを許してくれたんだってさ』

「そうなんだ……」

優桜は時折こんな風に、どこから知ったのか分からない色々な話を百之助に教えてくれる。いつもは興味津々に耳を傾ける百之助だったが、今回の七夕の話を聞くと一つ返事をしたきり悲しげに目を伏せた。

『どうした、百之助?』

「ううん……。仲良しすぎて離ればなれにされて、でも一年に一度だけなら会える……おっ母とお父っつぁまもそうだったらよかったのにな、って……」

『…………』

(嫌なことを思い出させてしまった)と胸中で反省しながら、優桜は百之助の考えを「両親」から逸らそうとわざと明るい口調で別の話を振った。


『なあ、百之助。その“七夕”は紙を細長く切った短冊っていうのに願いを書いて、笹の枝に下げる行事なんだ。百之助も何かお星様に将来の「お願い」してみろよ。ちょうど短冊も部屋にあるんだ』

そう言いながら立ち上がった優桜はそのまま自分達の部屋へ戻っていく。百之助も慌てて後を追いながら話した。

「え? ……筆とか墨は家にもあるけど、そんな短冊なんてどこから持ってきたの?」

『秘密』

「それに、もう七月も終わりそうだよ。おりひめ様もひこぼし様もとっくに離れちゃってるんじゃ……」

『大丈夫さ。お星様でも神様でも、日がちょっと違うくらいで願い事も聞かない心の狭いヤツはオレが叱ってやるよ』

「星とか神様って叱れるの?」

『……冗談だよ』


自分の部屋の前まで戻ってきた百之助がふと上を見ると、言われなければ気付かないような軒下の隙間から自分の背丈半分ほどありそうな笹が一本、ちょんと突き出していた。

「……もしかして、あの笹も優桜が挿したの?」

『うん。ジイチャンとバアチャンにバレないようにこっそりな』

「もう……。でも、お願い事かぁ……うーん、そうだなぁ……」

部屋に入ると壁際の小さな机の上にいつの間にやら筆とすられた墨、白い長方形の短冊が綺麗に揃えて置かれている。それらを前にして座った百之助は少しばかり悩む様子を見せたが、やがて姿勢を正し一文字ずつ願い事を書き始めていった。


“ゆうさくとずっといっしょにいられますように”


それは拙いながらも一生懸命に書かれた、一目で本心だと分かる百之助の「願い」だった。

「どうかな……? やっぱり今のおれには、これが一番叶ってほしいこと」

『……うん。百之助らしいお願いだな。字はちょっと下手くそだけど』

「何だよ。それなら優桜だっておれの前で字書いたことないじゃん。下手くそだからじゃないの?」

急に願い事を書かされた上に字が下手と言われたのが癪に障ったのか、百之助が珍しくムッとした態度で反論する。しかし優桜も痛い「事情」を突かれた為か、これまた珍しく慌てて誤魔化すように話を締めた。

『そ、それとこれとは関係ないだろ! さあ、今日はもう遅いし早く寝よう。短冊は後でオレが下げてやるから』

「えー、せっかく書いたんだから自分で下げたいよ」

『ダメだ。落ちて怪我でもしたらどうするんだよ。それに、オレの言うことは必ず聞くって約束だろ?』

“目上の人間の言うことは絶対”──それは百之助の兄である優桜も例外ではない。日頃から言い聞かせられている教えが染み付いた百之助は、渋々ながら今回もきちんとそれに従った。

「…………うん。わかった」

『よし、百之助はいい子だな』

優桜は満足気に笑いながら百之助の頭を優しく撫でると、不機嫌だった百之助の表情もすぐはにかんだ微笑みへ変わった。こうして兄が自分を見て、話して、頭を撫でてくれるのはやはり百之助にとってたまらなく嬉しい事なのだ。


『じゃあ、おやすみ。百之助』

「うん、おやすみなさい。優桜」

灯りの消えた部屋の中、布団の上でいつもと同じ挨拶を交わし、百之助は優桜の横で眠りについた。




──尾形家の人間が全員寝静まった深夜。一人「起きた」優桜が行灯の光を頼りにもう一枚の短冊に字を書いていると、後ろからひそひそとした声が聞こえてきた。


『こんばんは、優桜。今書いてるのは七夕のお願い事かい?』

「覗き屋さん……。うん、オレが文字を書けるのは百之助が寝てるうちだけだから」

空間に開いた「切れ目」から時々優桜へ会いに来る、不思議な瞳と大きな翼を持った者。いつかの夜に初めて出会い、何度かの交流を経てから優桜は彼のことを『覗き屋さん』と呼び、こうして二人きりの時だけ話をする友人のような関係になっていた。


「そうだ、覗き屋さん。この短冊ってやつ、くれてありがとう。七夕の話を聞いたのはいいけど、家に丁度いい紙がなくて困ってたんだ」

首だけ振り返り、優桜は後方に半身だけ出して浮かぶ『覗き屋さん』に礼を言う。

『構わないよ。ボクの日記帳の切れ端で作ったから、ちゃんとした物じゃなくて申し訳ないけど』

「全然。こういうのは物じゃなくてやる事が大事なんだから」

机に向き直り、小声で会話しながらも優桜は筆を動かし続ける。そんな背中を『覗き屋さん』は(器用なもんだな)と半ば感心しながら眺めていた。



「よし、書けた」

数分後、短冊に願い事を書き終えたらしい優桜が筆を置いて背伸びをしていると、後ろから声が聞こえた。

『……ねえ、優桜。よかったら何て書いたか教えてくれない?』

「え? ……んー、いいよ。でも他の人には内緒だからね」

『覗き屋さん』からの突然の申し出に優桜は少し逡巡したものの、二つ返事で承諾した。

『ありがとう。どれどれ……』


“大好きな弟を一生守ってあげられますように”


百之助よりも少し達筆で、それでもまだ幼さが残る字で書かれた願い事を読んで『覗き屋さん』は柔らかく笑みを浮かべた。

『……なるほどなぁ、優桜らしいお願いだ』

「当たり前だよ。オレは百之助をちゃんと見て、ずっと守ってやらなきゃいけないんだから」

『“百之助”を……。うん、そうだね。君ならきっとその願いも叶えられるよ』

励ますようにそっと優桜の頭を撫でた彼の表情が、笑っているはずなのに今にも泣き出しそうに見えたのが妙に気になって。優桜は思わず一つの質問をした。


「ねえ。覗き屋さんは、何か七夕にお願いしたい事はないの?」

『…………』

ほんの一瞬『覗き屋さん』の瞳の光が海に沈んだように揺らいだが、優桜がそれに気付くことはなかった。


『いいんだよ。オレのお願いは、もうどんな“神様”にも叶えられないから』

そう言いながら『覗き屋さん』は目を閉じて、消え入りそうな声でただ静かに笑った。

「そうなんだ。……」

『……気になるかい?』

「……少しだけ。でも大丈夫だよ」

『そうか……。……ありがとう』

何も知らない優桜にはそれらの言葉の意味も表情も理解できる訳がなく。ただ、『覗き屋さん』がとても辛そうだったのは分かったので、それ以上は何も聞かなかった。



その後、優桜は軒下にあった笹を下ろして自分と百之助の書いた短冊を紐で括り付け、再び同じ場所に挿し上げた。……笹の上げ下ろしを『覗き屋さん』が強引に手伝った結果だったが。

「これくらいの笹ならオレだけでも十分だったのに」

『願い事を見せてくれたお礼だよ』

他愛もない言葉を交わして、二人は笹の枝を見上げる。満天の星空に、二枚の白い短冊が風に靡いてひらりと揺れた。


『じゃあ、ボクはそろそろ帰るね。おやすみ、優桜』

「うん。覗き屋さんもおやすみなさい」

空中に開いていた切れ目が閉じられ、『百之助』の部屋に静寂が戻る。そして優桜は元通りに部屋を暗くし、布団に戻って再び眠りについた。明日、今度は弟と一緒に少し遅い七夕の夜を過ごす楽しみを想像しながら。




『兄弟』の部屋から元いた宇宙に帰ってきた『覗き屋さん』──正しくは『傍観者』の肩書きを持つ者は、その中心に白い光の灯る瞳を細めてどこまでも続く星の海を見つめていた。

(……きっとあの世界の百之助と優桜も、いずれは軍人になって勇作と出会って、戦争へ行って……そしてまた誰かが欠けて『終わる』んだろう。そんな事、とっくに解ってるはずなのにな……)

他の世界と関わることなく、ただ見守り観測する『傍観者』の役割を破ってから生まれた友人の姿を、声を思い出す。人間(ひと)であってヒトでない、中途半端な存在の自分と対等に接してくれる初めての『尾形優桜』。

一つの世界に、個人に思い入れなど持ってはいけないのに、あの優桜にはいなくなってほしくない。戻れない過去といつかの未来を考えれば考えるほど、どうしようもない虚しさと寂しさが『傍観者』の空っぽの心を支配していく。


(だからオレの願いは叶わない。願ったって意味がない。誰にも、自分自身にも叶えられないから。……そう思うしかないんだ)

とうの昔に枯れた涙を流す代わりに、『傍観者』は眼前に広がる星々を手で覆い隠し大きく息を吐いた。





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とある夏の昼下がり。優桜と『訪問者』は近所のショッピングモールへ買い出しに来ていた。ふと優桜が入口横に目を向けると、そこそこ大きな笹の木に様々な飾りや色とりどりの短冊がぶら下がった光景が見えた。近くには『七夕の願い事を書いてみよう!』という見出し看板と共に色々な道具が長テーブルに置いてある。

「七夕……そういえばもうそんな季節か」

「たなばた? 何か聞いたことあるような、ないような……」

──元々は“前世”の明治時代、まだ百之助にしか姿が見えなかった幼い優桜が『覗き屋さん』から教わった事だった。優桜にとっても僅かな記憶だったが、(やっぱりそれも忘れてしまったんだろうか)という一抹の寂しさをそっと心にしまいこみ、優桜は『訪問者』に説明する。

「簡単に言えば今の時期、基本的には七月七日に短冊に願い事を書いて笹に飾る行事……というか、風習か。大抵は将来の夢とか、何かを祈願したりする事が多いかな」

「へぇ、願い事をね……」

興味があるのかないのか何とも微妙な態度の『訪問者』に、優桜は何故だか胸の奥が重苦しくなった気がして……ダメ元で「提案」をしてみることにした。


「なあ、訪問者さん。折角だからオレ達も短冊に何か書いていかないか? 今叶えたい事じゃなくても、将来の健康だったり安全だったりを願ってもいいものだから」

「え? うーん……でも、お願い……願い事かぁ……」

未だに何かを迷っている様子の『訪問者』に、優桜がこれ以上勧めることもないかと諦めかけた時──『たなばたさま』の曲が耳に入ってきた。どうやら近くに置いてあるスピーカーでBGMとして流していたらしい。


「……そうだね。オレも今、お願いしたい事ができたから」

その曲が聞こえた瞬間……『訪問者』は何かに気付いた、あるいは思い出したかのように目を見開いて宙を見つめた後、軽く笑いながらそう言った。

「……?」

突然心変わりでもしたかのような『訪問者』に少々疑問を感じつつも、元は自分からした提案なのだ。優桜は素直に従うことにした。



今は誰もいない七夕のコーナーへ、優桜と『訪問者』は改めて歩を進める。笹の木に下がった短冊や飾りには老若男女、様々な願い事の垣間見える字が思い思いに書かれ、テーブルには赤、青、白、黄、紫の五色の短冊と星やハート型に切られた紙、カラフルなペンが沢山置かれていた。そんな風景を『訪問者』は興味深そうに眺める。

「すごいなぁ、短冊ってこんなにいっぱい色があるんだね」

「前にネットで少し見かけたが、色によって少しずつ意味が違うらしいぞ。例えば赤は親や先祖への感謝、白は決まりや義務を守る気持ち、黄色は人間関係に関すること……まあ、大体はそんなの気にせずみんな好きな色や紙を選んで書いてるけどな」

短冊以外の飾りにも短い願いがちらほら書かれた笹を見ながら優桜は言う。


「なるほどなぁ……それならオレは黄色の短冊に書こうっと」

「奇遇だな、オレもそう思ってたところだ」

黄色の短冊は人間関係──誰かを信じ、大切に思う気持ちを意味する色。同じ色の短冊を一枚ずつ取って優桜は空いたテーブルの前に立ち、『訪問者』はテーブルに合わせてしゃがみ込んだ。

「……黄色は星みたいな色だね。ピッタリだ」

「? 何の話だ、訪問者さん?」

「オレの話だよ」



テーブルの横に置いてあったスピーカーからは『たなばたさま』のメロディーがエンドレスで流れ続けている。現代ではすっかり耳に馴染んだその曲を聴きながら優桜がペンを片手に願い事を考えていると、傍らから微かな歌声が聞こえてきた。



“五しきのたんざく

わたしがかいた

お星さまきらきら

空からみてる……”



流れる音楽に合わせて紡がれていく言葉は、まるで無意識に『訪問者』の口から零れ落ちるように歌われていた。優桜にしか届いていない小さな小さな歌と一緒に、『訪問者』の短冊にも字が綴られていく。


「訪……」

驚きながらも優桜が声をかけようとした瞬間。ささやかな歌とペンを動かしていた手が止まると同時に『訪問者』は常とはうって変わった雰囲気で冷静に、しかし優しく優桜に話しかけた。視線は短冊に向いたままだったが、まるで優桜がいつか見た夢のように──まだ彼が『傍観者』であった頃のように、どことなく寂しげな空気と僅かな羨望を纏いながら。



「良かったな、優桜」

「『あの時』の優桜と百之助の願い事……全部、叶ったんだから。本当に」



“ゆうさくとずっといっしょにいられますように”


かつての百之助の願いは『優桜』と『勇作』、二人の兄弟と戦争を乗り越えてから故郷で最期まで共に過ごし、生まれ変わっても結ばれた縁で今も叶い続けている。



“大好きな弟を一生守ってあげられますように”


かつての優桜の願いは運命を乗り越え、人として愛し愛されることができた「二人の弟」と共に生涯を終え、今もまた兄弟として繋がれた愛によって続いている。




ああ、そうだ。そうだった。

『訪問者』の言葉を聞いて、優桜は「初めて」百之助と七夕の短冊を書いた時をおぼろ気ながら思い出していた。当初願っただろう形とは違えども、結果的には確かに「全部叶った」のだ。

そんな遠い昔とここにある現在に思いを巡らせ、優桜は複雑そうに笑って答える。

「願い事はあくまで願うだけだ。今のオレや兄弟の幸せが叶ってるのは……あの時の百之助や勇作、それに色々話しかけてきた逢坂のような『物好きさん達』のお陰だよ」


「そうだね……分かってる。でも、それでもさ……」

再びペンを動かしながら『訪問者』は優桜の隣で、しかし誰に聞かせるでもないようにポツポツと語り続ける。


「あの頃のオレは人間にも化け物にもなりきれなかった独りぼっちの『傍観者』。実の弟達を殺してそうなってしまったオレがそらにある星に、“神様”に何かを願う……ましてや叶えてもらう為に、なんて烏滸がましいこと、できる訳ないと思ってた」

「けれど、今のオレには新しい弟達ができて……大好きな優桜ともこうして一緒に過ごせてる。絶対無理だと思ってた願いが、そのままじゃなくても叶ってくれた」

「だから、オレが信じる“お星様”──“神様”にじゃなくても、せめて短冊にお願いするくらいは許してもらえるかな……って。そう思ったんだ」


込み上げてくるものを押し殺すように、溢れ出す何かを堪えるかのように、弱々しく吐き出された『訪問者』の言葉。

優桜はそんな彼の姿に、今にもどこかへ消え去ってしまいそうな錯覚を覚えた。それはいつかどこかで感じたことのある切望と諦観の空気──そんな永遠にも思える孤独さから引き離すように、優桜はペンを握る手に力を込めながら『訪問者』に語りかける。


「願いが叶うかどうかは本人の行動や運次第だろうが、何かを『願う』ことは誰にでも許された権利だ。訪問者さんだけが無理だなんて言わせやしないさ。……もしそんな心の狭いヤツがいたら、それが星だろうと“神様”だろうとオレがぶん殴ってやる」



『大丈夫さ。お星様でも神様でも、日がちょっと違うくらいで願い事も聞かない心の狭いヤツはオレが叱ってやるよ』



昔々、まだ何も知らなかった優桜が百之助に言っていた言葉を『訪問者』は思い出した。大切な人を愛する、無理を通してでも守ろうとする本質は文字通り死んでも変わっていない。その事実を改めて理解した『訪問者』は目の奥に滲んできた熱さが零れるのを懸命に堪える。


(オレの為にそう言ってくれる優桜の方こそ、今だけ……たった今だけは、オレにとっての“願い星(かみさま)”だよ)

冷えかけていた自身の心に、煌めく星の如き光が再び灯っていくのを『訪問者』は感じていた。


「……ありがとう、優桜。オレ、やっぱり優桜のそういうところが大好きだ」

サングラス越しでも分かる喜びと愛しさに満ちた笑顔で『訪問者』は優桜を見上げた。そんな彼の頭を、優桜は慈しむように左手でそっと撫でる。

「……あー、まあさっきの話は半分冗談だったんだが……そう思ってくれるのはありがたいな」

「半分冗談なら、もう半分は本気でしょ? いいんだよ、オレにはそれでも」

「……訪問者さんのそういうところもオレは好きだぜ。ありがとな」

溜め息を吐きながらふわりと笑い、優桜が『訪問者』から手を離す。それから短冊にまた視線を下ろしたのを見て、『訪問者』は少しだけ優桜の反対側に向いて短冊に続きの文を書き始めた。……自分でも分かる程に紅潮した顔をなるべく見せない為に。



──それから数分して優桜が短冊を書き終わり、少し遅れて『訪問者』もペンを置く。二枚の黄色い短冊はそれぞれの願い事で綺麗に埋まっていた。

「ねえねえ、優桜はどんなお願いにしたの?」

「そうだな……どうせ笹に飾るんだ。一緒に見せ合うか」

「あ、じゃあさ。『せーの』で同時に見せるのはどう?」

「……何だか急に恥ずかしくなってきたな」

「言い出しっぺは優桜だろ! はい、せーの!」


“大切な兄弟がこれからも平和に過ごせますように”


“大好きな弟たちと人の子たち、様々な世界の子がずっと穏やかに暮らせますように”


「フフ。優桜らしい、良いお願いだね」

「そっちこそ……訪問者さんらしい、優しい願いだな」

それぞれの願い事を見て和やかに笑い合った後、二人はしっかりと解けないよう笹の隣同士に短冊を結び付けた。


「さて、短冊も書いたしここからは本命の買い物だ。まずは……」

「あ、優桜! オレさ、前に食べたアイスクリームまた食べたい! 今度はチョコクッキーが入ってるのがいいな!」

「分かった分かった、後で一緒に選ぼうな」

「やったぁ!」

いつもの調子を取り戻し軽い足取りで食料品コーナーへ歩いていく『訪問者』の後を追い、優桜も笹の木から離れていく。その直後、二人の書いた短冊が風にひらめき、その“裏面”に書かれていた「もう一つ」の願い事が露わになった。



“これから先、何があろうと訪問者さんとまた一緒にいられますように”


“愛する優桜とずっとずっと笑って過ごしていけますように”



そこにあったのはお互い知ってか知らずか、けれども確かに繋がっている一つの想い。二人の手できっと叶えられていくだろう『願い』の証だった。





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「天の川」の一等近くにある星の海原。

そこに暮らす一人の『傍観者』は地上の彼らの様子をいつも通り無愛想に見守っていた。もう一人の『導き手』は聴き慣れた三つの星が降る音にひっそりと心地良さを感じていた。



これはほんの些細な、だけど愛おしい、ある夏の日の出来事である。






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【ここからはSSのちょっとした補足、解説のようなページに飛びます。お暇な方は是非とも。】



作者名・Sakuya

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