頼れる奴らは大体倫理感が死んでる②
稲生紅衣メメ虎屋ダルヴァの主授業が終わり教員から言われていた約束の時間が来た
「今日は稲生五席がこちらに来て特別授業をしてくれます 主に暗殺対策ですね」
「わかりました!」
教員がそう梨子に伝えているとそこに声をかける者がいた海燕である
「それは俺も参加していいのか?」
「特に問題は無いと思います 多少教わる人数が増えても問題の無い内容ですからね」
その後朽木蒼純も参加しようとしたが体調不良で断念した
結果としては現在教室は教卓にぐでっとしている稲生と律儀に指定された席に座る梨子と海燕がいる 教員は見当たらない
放課後の少し夕暮れ時ようやく稲生が動き出した
「これからやっていくが...確か梨子の横におるのは浮竹が言っておった海燕って子じゃったかな?よろしくじゃ~」
「あぁ...よろしくお願いします」
そういった後に稲生は「ああそうじゃ」と思い出したように起立の号令を出した
一応授業の開始なので礼をするのだろうかと二人が起立したところ
「あだっ!?」「へうぅっ!?」
頭上から金ダライが降って来た 少なくとも入った時にそんなものは無かったはずだが
「縛道の二十六 『曲光』じゃ 吾がずっと動かんかったのは繋がっておる縄を保持するためじゃ なんじゃったら教員はそれを使ってずっと教室の端の方で待機しておるぞ」
「警護と実演の為にスタンバってました」
梨子は目に渦を巻きながらふらふらし海燕は頭をさすりつつも直ぐに復帰し何のつもりだと啖呵を切った
「暗殺というのは土壇場でするもんじゃないからのう 基本は罠やら準備やらがなされた場を用意するもんじゃ
まあ分かりやすく今回は金ダライじゃが 罠にかけるという点では縛道はよく用いられるし知っておく必要はあるぞ」
梨子が復帰するのを待って授業を再開する と言ってもすぐさままた激しく何かする訳はなかった
「"罠"を用意して相手を騙し相手を殺すのが『暗殺』と考えるなら"トリック"を用意して相手を騙し相手を喜ばせるのが『手品』じゃ」
「金ダライの次は手品かよ...」
「みゃあそんなことをいうでにゃいわ」
既に口からトランプを出す芸をしながら稲生は答える 梨子はもうトリックとか頭から吹き飛んでぱちぱちと拍手をしている
「すごいね海燕!口からトランプ吐き戻してる!」
「実際に口から出してるわけじゃねえからな!?」
種を隠し現象を押し通すという点では先ほどの金ダライもトランプも大差はない
「まあ実際先ほどの金ダライがギロチンなら もしくは教員が暗殺者なら はたまた先ほどのトランプが暗器なら...暗殺となると警戒すべきことは多い
じゃからこそ!それを隠す罠の種として良く用いられる"縛道"を良く知ってほしいという事じゃな」
「はーい!」
「お返事が元気で良いですね」
一通りの授業の目的を話したところで教員も参加する ついでに頭に出来たタンコブも最光で治してくれた
「まあとはいえ隠すとなると物理的に隠す以外にもある 特に戦闘においてはのう」
「物理的に隠すだけなら赤煙遁や曲光でしょうが縛道は防御や妨害など様々な用途で使われてるのは良く授業で言われていますね?」
海燕も梨子も対人での活用法などは軽くは知っているがもちろんまだ演習の内である
「んじゃあ吾は適当にお主らに縛道をぶつけようかのう お主らも抵抗してよいぞ~」
「教室内でするのかよ」「えー!?」
「縛道ですし怪我をすることは無いですし好きに動いてよいですよー」
稲生も教員も間が抜けた声で話してはいるが動きは俊敏 既にもう用意が済んでいる
稲生は詠唱を始める 教員は詠唱を破棄しすぐに発動した
「雷鳴の馬車 糸車の...面倒だから飛ばすかのう 縛道の六十一『六杖光牢』」
「完全詠唱じゃないー!?」
「縛道の四 『這縄』 は適当にしておいて 瞬歩で後ろに回りますね」
「縛道が主軸じゃないのかよ...!」
海燕は縛道を避けようと大きく動いたところで最初から縛道を当てる気が無く瞬歩で直接捕まえに来た教員に捕まった 梨子に関しては完全詠唱ならいっそ妨害に回るべきかと考えている最中に捕まってしまった
「今回の場合は"ブラフ"という物ですね 私の場合は先ほどまでの話もひっくるめて全部そのための材料にしました
稲生さんは単純に完全詠唱と詠唱破棄を駆使したブラフですね 焦ったりしていると案外引っかかったりします」
「海燕ー!抜け出せない―!」
梨子は足をパタパタと動かしながら抜け出そうとしている
「せっかくですし縛道の抜け方も授業をしてお終いにしましょうか」
「ちょっと弱めてから実際に自力で抜け出してもらうのがやはり良く覚えるじゃろう ちょっとおとなしくするんじゃぞ~」
海燕がこんな状況で今後大丈夫かなと思っていると
「縛道の六十一 『六杖光牢』 海燕さんもやってみましょう!」
「最初っから六十番台はきつくないですか...先生?」
縛道の抜け方をレクチャーするため教員と稲生が互いにかけて破り合ったり色々やりつつその日の授業は終わった
海燕曰く当分縛道を使いたくも使われたくないとのこと