領主様と領民の交流①(ゴーレム戦)
スレ主◆MwEI06QrZW2kいつも通りのある日の出来事。
ズドゴーン!と遠くで地面揺らし響かせる爆音と木々より高く土煙が空を舞う。
「やってますねぇココ様」
「やってるなぁ」
地面に突き立てた大盾へ腕を乗せ体重をかけてゆったり休む俺たち。
いつになく豪快に相手をぶん投げて地面に叩きつける我らが領主様の暴れっぷりに防衛線の守備という仕事も一休みだ。
完全に気を抜いている訳では無いが人間相手の奇襲や遠距離狙撃がない相手なので探知魔法と警戒するメンバーにまかせているというのは有る。
「今回のヤツはゴーレムですよね、一応俺たちも前に出たほうがいいのでは?」
新入りと言うには時間が経ち、慣れてきたといえばまぁそんな感じの男が聞いてくる。
まぁそう思うのは無理もない訳で……普段なら俺たちが後方に控えて被害を抑えるのと拘束魔法で動きを止めてお嬢が一撃というのがパターンだ。
どこからかやってきやがるモンスター共。実は悪いことばかりではなく資源になるのだ。食えるやつは食料、獣なら毛皮や革、スライムとかならそのまま俺たちにゃわからん魔法の素材。
ゴーレムは家の数倍デカいのが大半な金属の塊で、胸の中に埋まってる宝石っぽい物をぶっ壊せば全身が金属素材って代物だ。今回は鉄っぽい金属。
見た目は模様の入った円柱の胴体に子供の落書きのように円柱の手足と頭を生やしたような感じだ。なんで動けているのか俺にはよくわからん、関節はどうした?と言いたい。
「感、だとさ」
「感?……ココ様のですか?」
『あぁ、ホセとキアス……今回のアレは私がぶん殴っておくから防衛線の少し前にいてくれないか?』
『楽出来るんでいいですが、なにか気になることが?』
『そういうことなら町民達の避難も一応しておきますが?』
『他の街……ナオの所でいつもと違う出現の仕方をしたって情報があってな』
「だからどんなに気を緩めても3秒で戦闘開始できるようにしておけよ?」
「……自分よりゆるくなってそうな隊長こそ大丈夫なのですか?」
本気で心配そうな言葉を投げてくる生意気君だ。まぁ見てなって……。
少し離れて居るキアスの隊を横目に見る。筋骨隆々、寡黙とは言わないが口数少なめなナイスガイ。
あいつも今回なんか変だと感じている様で見事に臨戦態勢だ。あそこまで締めなくてもいい気がするがねぇ。
「きゅう♪」
ちび毛玉達が俺たちに飲み物と柔らかいサンドイッチを持ってきてくれる。ありがとよ、と受け取ると機嫌良さそうにしっぽを振りながら帰っていく。
そしてお嬢の必殺電気が走るほっそい火炎ブレスが空に線を作って、あぁ終わったなぁと思った瞬間……盾を構えた。
「来るぞっ!」
10メートル程度上空の景色の一部が歪み、そこから無機物の何かが見えてくる。
俺の声を聞いて急いで盾を構えた兵士達の目の前に、お嬢がぶちのめしたゴーレムよりは小さいがそれでも驚異になる大きさが3体間隔をあけて落ちてきた。
他の2体は別の隊の目の前に行きやがった。
ズドンと土煙を舞わせながら着地したそいつは落ちてきた勢いそのままにデカい拳をぶん回して俺たちをぶん殴ろうとしてくる。
全く警戒していなかったらまずかったが、初撃を盾で受け止めることが出来た。
「ぐおぉっ!!」
「……っ、良し!キア・シルト!」
俺の2つ隣にで構えていた生意気君が数メートルふっとばされて転がったが直ぐ様戻ってきた。よし合格。
腕を振り抜いた勢いそのままに胴体を回転させて裏拳を叩き込もうとしてくる。俺だけが前に出て前方に光る盾を出す魔法を唱え、最大威力になる前で勢いを殺す。
「お嬢は!」
「……同型を5、いえ4相手です!」
「良し、お前らお嬢が来る前に仕留めるぞ!」
一気に雄叫びを上げ全員気合を入れる。腕をそれぞれ二人体制で抑え、数歩下がった奴らが拘束魔法を唱える。輝く鎖が地面から数本生えてきてゴーレムの腕に絡みつく。
動きが一瞬止まれば上々、二人残して全員が鎖でがんじがらめに拘束だ。
正直、お嬢が居ない状況だとココからが本番だ。考えてみろ?動かしてるコアは軽く10cm以上の分厚い金属の下だぞ?人間にどーすれって話だ。
「みきゅきゅっ!」
「頼むぞ!」
そこでコイツらの出番だ。毛玉どもだけが使える魔法の棒……松明だったか?ソレの出力を上げれば至近距離限定だがお嬢の喧しい音がなる細い炎に匹敵する威力が出る。
それでコアまで貫通させるかコア周りを焼き切って金属を引っ剥がし、コアを抜く……となるわけだ。
ココからはひたすら拘束魔法を維持するのと破られた場合の対処を行う時間だ。
ゴーレムの腹の上に乗った毛玉がゴーグルで目が痛くなる光から目を守りながら装甲を溶かす事、数分。
「おっ、こっちの方はもうすぐかい?」
毛玉たちに毛玉達と同じくらいの大きさのコアを運ばせながら我らが領主様が到着した。
他のには警戒させたまま周りを見るとこの隊が最後のようだ。集まってくる。
「なんでぇ、一番最後ですかい。領主様は薄情ですな」
「一番安定していたから最後に回したのさ、ホセ」
見た目は若いのに俺の数倍生きてる人にそう言われるとなんともむず痒くなり、眉間にシワが寄る。
そんな俺を見てクスクスと男だったら見惚れてしまうだろう笑顔をみせる。ちくしょう。
「お疲れ様、後は私がやるよ」
「みーきゅ」
俺たちだったらひぃこら言いながらよじ登る高さを軽いジャンプで登ってしまう。そのまま作業していた毛玉と交代してコキコキと首を鳴らすと熱く溶けているだろう金属に両腕を突っ込んだ。
「よし離れるぞ、お嬢の熱が来るぞー」
「全員下がりましたー」
ゴウッとお嬢から熱々のパン窯を覗いたかのような熱波が広がる。そのまま、むんっと軽い調子で両腕を広げるともう一度両腕を突っ込んだ。
それとほぼ同時に鉄の塊から力が抜けてズシンと四肢が土に軽く沈む。コアを抜き取ったようだ。
「皆お疲れ様。念のため半数は警戒、大体は運搬の手配と皆に終了の知らせをお願い。でいいかな?」
「了解しました、お嬢」
細く赤いドレスのような戦うための服からいつもの領主としての服装に戻し、ゆっくりと背伸びをした後皆に労いの言葉をかけていく半竜の人。
この人がいればきっと皆無事に日々を過ごせるだろうという気持ちとこの人だけに任せる訳にはいかないという想いが湧いてくる。
もしくは、この人の隣に立てる人が現れて欲しい……そんな夢幻を考えながら空を見上げるのだった。
「……所でお嬢、なんでこの前漬物なんて持ってきたので?」
「嫌いだった?ナラ漬け?となり町の人から樽でもらったのさ」
「作用で」
おわり