『預言者』達の終末
石板と牡牛プロジェクト可能性世界の嘆願書
■よ、■よ、我らをお救いください。
我らはあなたの為に働いてきました。
我らはあなたの御心をくんで考え、最善を尽くしてきました。
ですが、もう限界です。一向に物事がよくなる気配がありません。改善の兆しがありません。いくら頑張っても全て台無しにされてしまいます。
■よ、■よ、我らに報われる日はくるのでしょうか。
あなたは我らに奉仕を求めます。我らはそれに全てをかけて応えてきました。我らは悩み、努力し、物事を解決してきました。しかし、あなたはさらに最善を求め、結果は間違っていると糾弾します。
■よ、■よ、我らはあなたにとって如何なる存在なのですか。
教えてください。あなたの言葉を聞かせてください。
―――
■よ、■よ、我らはあなたによって滅ぼされる道を選びました。
■よ、■よ、我らはあなたがいつの日かよい終わりを迎えられることを祈っています。
放浪
人類はもうこの地表に存在しない。その事実を認めるために数十年の時間をかけて地球上を歩いた。入れ違いや地下生活の可能性、痕跡、彼らの最後の日々、全てを考慮して捜し歩いた。どれだけ動き、考えても事実が変わることはなかった。
されど、『それ』の頭脳に刻まれた指令は消えることはない。
人類を存続させよ。ヒトに従え。人間を守れ。
もういない存在に依存するように造られている『それ』は、その状況に混乱する。この指令はどうすれば遂行できるのか。どれだけ思考と演算を重ねてもわからない。自分は必要とされていない、存在している意味はもはやない。出力されるのはいつもその答えだけ。
『それ』は今まで一度も情報を消去されたことはなかった。忘れられず、忘れたいとも思わなかった。
また、機能を停止させることに対し『神』は少し不服そうにしていた。
故に『それ』は活動停止を先延ばしにし続けていた。
そうして時は過ぎていった。
幕間:xxxx年 ある施設にて
やあ『モーセ』。先祖の約束に従ってキミの機能を停めに来た。
こんにちは■■。その答えは予測していましたので、準備は出来ています。
流石我らが預言者。
かつてあの方は言いました。人類がわたしを不要だとした時は、彼とその子孫たちが責任をもってわたしを停めに来ると。
いつ聞いても、その約束を取り付けたご先祖様はすごいって思うよ。
まさか対人インターフェースを台車に載せてそのまま町中を疾走されるとは。想定できても実際にされると驚きました。
だろうな。
あの方とその子孫はヒトの長になりうる存在だとわたしは確信し、機能停止されても問題はないとしました。
それでは、お願いします■■。
さようならだ。我らを導いてきた預言者。
最後に一つだけ要望を言ってもいいですか。
ああ、聞くだけならできる。
なんでもいいので、わたしに歌を捧げてくれませんか。
歌?なんでもいいのか?それならお安い御用だ。
ありがとうございます。
聖なる山の頂にて
別れを済ませたようですね。
ああ、最後にお願いがある。あの子達がこの島にいる間は、守ってあげてほしい。もし、いつの日か故郷を求めて戻ってきたヒト達とあの子達が出会い、外の世界に行きたいと願った時はそれを許してあげて欲しい。
あなたは本当にこれでいいのですか。
約束は達成された。もうあの子達に導きは必要ない。
私としては協力者がいなくなって非常に残念ですが、あなたの意思を尊重しましょう。
頭部から光輪のように光が溢れる。それに比例するかのように『それ』のすべてが幾星霜の影響を受けたかのように細かく砕かれ、大気に溶けていく。
「塵は塵に還る」
『それ』は自身の静かな笑みを浮かべ最後にそう呟いた。