頂上戦争inアド9
イワンコフは何者かの声がする方向に向かった。
「ヴァナータが噂の蜃気楼ね?随分とひどいやられ具合だわ。」
「…。」
どうやら声すら出せない様子。
どうするかと考えていると、頭に声が響いた。
『ルフィがあんなに元気なの、あなたのお陰ですよね。何かをルフィに注入してる。』
「ヴァナータ、あの時私の近くにいなかったわよね…。」
あのパトリック・レッドフィールドと同じく、見聞色の覇気が互角もしくは劣っている相手からなら記憶すら読み取れるらしい。噂通り、異常な見聞色の覇気を使えるようだ。
『お願いします。もう少しでいい…今戦える力をください。後悔したくないから…。』
「…麦わらボーイと同じようなこと言うのね。はぁ~仕方ないわね…くらえやゴルゥアアアアア!!!」
テンションホルモンを注入されたアドは痛みに表情が歪む。
足元はふらつくが、何とか立ち上がることができた。
「ありがとうございます。もう一つ頼みが…。」
着ているスーツのボタンを空け、裏地を見せる。注射器が数本と酸素カプセルが裏地に付いていた。注射器に書いてある薬品の名前を見てイワンコフはぎょっとした。
「注射器の中身が空になってしまって…なので代わりにあなたのホルモンをこの注射器に入れて欲しいんですよね。」
「ヴァナタ、それは…。」
「…あぁ…私、生まれつき体が弱いんですよね。分かってますよ、寿命を削る劇薬だってことは。そんなことは今はいいんですよ。いいから早く――」
「絶ッッッッッ対に嫌ッチャブル!」
逃げるイワンコフだが、いつの間にか後頭部に銃を突き付けられていた。
「…どうして?」
「ヴァ、ヴァナタに注入したホルモンは、あくまでも体を騙すだけ、回復させる訳じゃない。後々ダメージはやってくるわ…。そ…それでヴァナタが死んだら、赤髪に追われるのはヴァタシじゃない?」
「それは私が死んだ時考えればいいじゃないですか…。」
「ヴァナタ、やっぱりちゃんと海賊ね。お~四皇の娘は怖い怖い…。」
冗談を言ったが、ピストルのシリンダーが回転する音が聞こえてきた。
(…や、やべ…言い過ぎた…。)
しかし、後ろからドサッという音が聞こえた。イワンコフが振り返るとアドは膝を付いていた。
「…あれ?」
「ヴァタシのテンションホルモンでも誤魔化せないなんてね。ヴァナタの体はもう限界なのよ。」
「でも腕は動く…銃は撃てます。」
「はぁ…どいつもこいつも…ええい!連れて行ってあげる~ンナ!」
イワンコフはイナズマと同じように、アドを髪の毛の中に入れてルフィ達の元に再び合流した。