頂上戦争inアド4
(何で…何で来たの!?私とエース君に何が起きても気にするなって、関わるなって言ったのに…!)
ギリリと歯軋りするアドとは対照的に、先ほど助けた若い海兵は目を輝かせていた。その様子を見てもしやと思ったアドは、疑問をぶつける。
「あなたがコビーさん?」
「え…どうして僕の名前を?」
「ジャヤでルフィ達に会った時に聞いたの、あなたのことを。海兵に友達がいるなんて、ルフィらしいと思ったからよく覚えてます。」
「そ…そうですか!いやぁ、僕のことを友達と…嬉しいなぁ…。」
「ごめんなさい、もう行かないと。」
赤犬の気配が遠くなりつつあることを感じたアドは、コビーとヘルメッポに"タッチ"した。
「これであなた達からは音が出ない。私が解除するか、死ぬかしない限り、ですけどね。ルフィの友達には、死んで欲しくないから。」
『ま、待ってくださ――』
そして一瞬で二人の目の前から姿を消したアドは、再び赤犬の尾行を始めた。
■
ルフィのことが気になるが、今は赤犬を尾行する事が優先だ。
赤犬は街を抜けると、ある海賊の元に近づく。
(…あれは、スクアードさん?)
白ひげ海賊団傘下の海賊、大渦蜘蛛スクアードは最初こそ赤犬に食ってかかっていたが、徐々に口車に乗せられている様子。
会話を聞くために物陰に隠れながらギリギリまで二人に近づく。
「オヤッさんが、そんなことする訳ねぇ!そんなこと…!」
「じゃが貴様は知らなかったのだろう。かつて貴様の仲間を全滅させたロジャー、その息子がエースだと。」
かつてスクアードはロジャー達に、長年苦楽を共にした仲間を全滅させられた過去があることを、アドはこの時初めて知った。
赤犬はそれの事実を利用して復讐心を煽り、海軍に協力し白ひげを討てば、仲間を助けてやるとスクアードを唆しているようだ。
「白ひげとセンゴク元帥の間で話しはついちょるけえのう。まあ見ておれ、これから始まる総攻撃、貴様ら白ひげ傘下の海賊しか攻撃されん。」
「…どうすれば俺の仲間は助かる?」
(…まずいな。おじさんは仲間を絶対に疑わない。きっとこれを伝えても信じてくれない。ここはマルコさんに連絡しないと―――)
白ひげは仲間を絶対に見捨てない。そして絶対に疑わない。
直接連絡しても突っぱねられるだけだと思ったアドは、その場を離れ電電虫を取り出してマルコに連絡を入れようとした、その時。
「あぁ…そう言えば、お前の父親である赤髪はロジャー海賊団の見習いじゃったのう、"蜃気楼"。」
(…!?)
凄まじい轟音と共にマリンフォードの一部がマグマで消し飛んだ。
■
「わしの攻撃を避けるとは、なかなかやりよるのう小娘。」
「ハァッ、ハァッ…ゲホゲホ…!」
パラパラと建物の破片や灰が落下し煙が舞い上がる中、何とか赤犬の攻撃を避けたアド。マグマが掠めた左の腿から煙が上がる。
「蜃気楼、何故この戦場にいるんじゃ?貴様は赤髪海賊団、白ひげ海賊団とは関係ないはずじゃが?」
「エース君は友達だから…!」
赤犬の口角が上がる。
「ほ~う、
"ロジャーの息子"
であるエースと、
"ロジャーに育てられた赤髪"
その娘である貴様、
随分と仲がいいんじゃのう…。」
それを聞いていたスクアードは、その場から背を向け、去っていく。
「スクアードさん!!」
立ち止まったスクアードは、振り向かずに話し始めた。
「俺がロジャーをどれだけ恨んでいるか分かっただろう!?お前の父親のことも死ぬほど憎い!お前に俺を止める権利は無いはずだ!」
ロジャー海賊団がスクアードの仲間を全滅させた戦い。そこに見習い時代のシャンクスもいたことをアドは悟る。
だがアドは引き下がらない。
「エース君はエース君ですよ…ロジャーじゃない!私だってお父さんとは違う人間だ!どうして分からないんですか!?」
それを聞いたスクアードの感情が一瞬だが揺らいだ。
「待ってスクアードさん!!白ひげのおじさんは仲間を売るわけ―――」
「小娘の相手はわしがする。行け!」
だが、再び歩き出したスクアードは、モビー・ディック号の方向へ立ち去ってしまった。
「赤犬…!!!」
「お前は赤髪の娘じゃ…。危険因子は排除せんとなぁ…"冥狗"!」
地面を蹴って左に避けると覇気を纏わせた弾丸を赤犬の心臓と頭目掛けて撃つが…。
「貴様の覇気がわしの覇気を上回っていれば、致命傷だったのう。」
(…強い…!)
見聞色の覇気に関しては天賦の才を持つアド。赤犬の猛攻をギリギリで避け続けるが、相手は海軍大将。
今のアドよりも全てが上だ。
「逃がさんぞ赤髪の娘ぇ!」
「くっ…!」
(くそ…このままじゃ…。)
何とか誰かに伝えないと、そう考えていたアドは集中力が一瞬途切れた。
その隙を赤犬は見逃さない。
ジュワッという音とともに左肩が焼けた。あまりの痛みにアドは肩を抑える。
「うぅ…!」
「これで終わりじゃあ!"大噴火"!」
避けようと足に力を込めるが、ガクッと膝を付いてしまった。劇薬で誤魔化してきたが、肉体の疲労は限界に近い。
(あれ…力が入らない?)
絶対絶命の状況だがしかし、青い炎に包まれたアドに、赤犬の攻撃は届かなかった。
「赤犬…こんなところで女の子をいじめるとは、お前も悪趣味だなぁ。」
「貴様…逃すかァ!」
青い炎に絡めとられて、いつの間にか何者かの背中の上に乗せられたアドはそのまま上空へ飛んだ。
「全くお前も無茶するよい。大丈夫か、アド。」
「マルコ…さん…。」
間一髪アドを助けたのは、白ひげ海賊団一番隊隊長、不死鳥マルコだった。