頂上戦争 ~四皇~
ウタルテットの不当な読者『堕ちた英雄』ルフィの白ひげ陣営への参戦により、海軍の士気は下がった。
ルフィ自身の強さもあった。英雄ガープを堕とすという金星もあった。
ウタの自軍を鼓舞する歌もあった。
その結果として、エースの奪還に成功したのだった。
「所詮、白ひげは時代の敗北者じゃけぇ」
「取り消せよ、今の言葉!」
だというのに、サカズキの挑発にエースは乗ってしまう。
戦いは拮抗しており、天秤は容易く傾く。嫌な予感にウタは焦る。
「待って、エース! 落ち着いてよ!」
マグマの拳が伸びる。頭に血が昇ったエースに、止めようとしたウタに迫る。
白ひげの頭すらを消し飛ばす灼熱。ただではすまない。
ルフィが一切顧みることなく、その身を盾にしようと海軍仕込みの剃で駆けた。
ボロボロながらも間に合う速度。
マグマの熱で揺らぐ蜃気楼の中、ルフィは間に合う、二人の命を救えるという事実だけで笑いながら飛び込んだ。
次の瞬間に現れた結果は、誰も予想しないものだった。
マグマは『剣』で止められていた。
特徴的な緋色の髪が陽光に閃く。
「なぜ、お前がこんなところをウロチョロしちょる! 赤髪ィィイイイイ!」
拮抗による静寂の後に、サカズキは絶叫した。叫ばなければ、やってられなかった。
何もかもが破綻する。海軍の状況は詰みに近い。
「おいおい、娘に手が挙げられようとしてるんだ。そりゃ親としては止めるだろう」
「海賊のくせに一丁前に親みたいなこと言いよる・・・ッ」
溶けた氷山の中から出てきたかのように、赤髪海賊団のレッドホーク号が戦場に横づけられていた。団員も油断なく、海軍側を睨んでいる。
「この戦争を止めに来た。海賊も海兵も争いは無し。悪い話じゃないだろ。
・・・娘に手を出されかけたんだ。これ以上は覚悟しろよ」
「その娘からしゃしゃり出てきたくせに、よう言うのぉ・・・ッ!
赤犬ホオズキはシャンクスに背を向け、海軍に振り返る。
「・・・ったいじゃ」
マグマの拳はシャンクスの怒り混じりの覇気の刃で縦に裂けていた。
ボタボタと血が海に流れていく。
「え?」
ボソボソとした声に、近くの海兵は思わず聞き返した。
「撤退じゃ言うとる! さっさっと負傷者を集めい!」
このまま戦闘が続けば、白ひげ残党と怒気を発する万全の四皇を、ボロボロの海軍がぶつかることになる。
海軍の崩壊がありうる、完全な敗北が見えていた。
これだけの損害を与えられた上で、エースを逃がすという泥を飲むしかなかった。
両軍の撤退が始まった。無益な争いが起きないように、そのまま両軍を睨むシャンクスの横に、殿をシャンクスだけに任せるわけにはいかないと、青い炎の不死鳥、マルコが降り立った。
面子として殿をシャンクスだけに任せるわけにはいかない。
「ありがとよ。助かった。・・・全く。良いところだけ持ってくよい」
「白ひげのことは残念だった。・・・邪魔だったか?」
「いや、助かったよい。貸しにしといてくれ」
「貸しはいらねぇよ。オレ自身の借りを返しにきただけだ」
マルコとシャンクスは長い付き合いだ。気心も知れているし、シャンクスが赤子のころからエースの実父、ロジャーの船で育てられたことも知っている。
どこか遠くを見るシャンクスに、シャンクスが言う借りがロジャーに対してだと察した。
エースはロジャーを嫌っているが、ロジャーを知っている身としては気風のいいやつだった。目の前の男のように慕う男もいる。
シャンクスにとっては、ロジャーは父でもあるのだろう。
そう考えると、シャンクスとエースは兄弟とも言えるのか。
マルコは真面目に考えていたが、馬鹿らしくなってきて笑った。
「エースはオヤジの息子だよい」
「そうなったらしいなァ。弟ができたと思ったんだが、バギーにも振られたしよ、どうやら俺は兄弟に縁がない星の元に生まれたらしい」
風に乗って、バギーが囚人たちと騒ぐ声が聞こえてきて、シャンクスは苦笑した。