非日常の中の日常
一宮悠&一宮瀬那1、2、3…映らない、4、5…も映らない、6、…
アナウンサーの平坦な声、何かのキャラクターの歌声、タレントの盛んな会話、ボケとツッコミの痛快な応酬。
手元のリモコンを操作するごとに、目線の先の画面から様々な映像と音が聞こえてくる。
テレビは自分たちにとって、情報収集の手段であり数少ない娯楽だ。
そうは言っても、ずっとこうして時間を潰す訳にもいかない。しかし、今現在それはできない。何故なら……
「あ〜…瀬那、さん…?動けない…」
頭を撫でる手を止め、そう言う。
「えー?でも、お兄ちゃんの膝の上っていい感じにあったかいしな〜…」
「僕が困るんだけど……」
…そう、僕の妹、瀬那。彼女が今自分が動けない原因。
先程からずっと編み物をしているこの妹が座っているのは、あろうことか僕の膝の上。
かれこれ一時間弱ほど占領され、その間身動きできていない。
今までは適当なタイミングで頭を撫でながらテレビを眺めていたが、流石にそろそろ足が痺れてきた。
「だいぶ集中してるみたいだけど、何を編んでるのさ…」
「ふふ〜ん、わたしが編んでるのはねー…これ!」
いかにも自信満々な様子で完成品を見せてくる。これは…
「……お守り?」
「うん!」
毛糸でできた、小さな可愛らしいお守り。
「わたしたち皆大変だから、いつバラバラになるか分からないし…そんな時せめて、皆の繋がりになるものがあったら嬉しいな…って思って………」
…やっぱり、瀬那は優しい子だ。よく見ると、籠の中にもうすでにたくさんのお守りが入っている。この量は、数時間でできるものじゃない。
「夜なべして、頑張って作ったの……って、わあっ!?」
瀬那を持ち上げて立ち上がり、隣の椅子にすとんと置く。
生憎と僕は、妹がこうして頑張っているのを黙って眺めていられるような性分じゃない。
「お、お兄ちゃん…?」
「瀬那って時々すごい事してくれるよな………待ってな、飲み物とお菓子持ってくる。それでちょっと休憩したら、僕もそれ手伝うから。」
「……!うん、ありがとう、お兄ちゃん。」
いつもと同じ紅茶と、山盛りのクッキー。色とりどりのお守りを眺めながら、二人はいつも通り笑いあう。
今は苦しい時でも、その先に未来があると信じて。その日まで走り続けるために。