静かな丘
静かな丘。満天の星空が私を見下ろしている。寒風が吹く。
「寒いな」
「ん」
そう言ったボタンの肩をそっと抱き寄せた。ベスト越しに彼女の体温が伝わった気がした。
「ねえ、あれがカシオペア座」
「ペルセウス座の向こうだな」
そう指さすボタンはまるで子供のように無邪気で、その横顔にオレは見とれていた。
「ん…」
「あ?」
「流れ星が見えるまでずっと話さん?」
「いいけどよ なんでオレなんかに優しくなったんだ?」
訊いたオレに君は何事もないような口調で答えた。
「優しくないよ。うち、そんな人間じゃないし。ただの弱い子」
「でも、それならオレも同じように弱い子だぜ」
ボタンの細い指がそっとオレの手を握った。
「知ってるし…だから…す…」
それだけの言葉なのに、手を重ねただけなのに、なぜこんなに胸が熱くなるのだろう。どうしてこんなにも涙がこぼれそうになるのだろう。
結局だめだった。
何か言おうとしたけど。
あの夜からオマエのことを思わない日はない。今もこうして星の降る丘に立っている。
ボタン……
オレは今でもあのときのまま何も変わっていない気がする。いや、むしろどんどんダメな方へ転げ落ちているかもしれない。
ボタン……
もしももう一度会えるなら、今度はオレの方から君に会いに行く。この手でオマエを抱き締めるために。たとえどんな運命が待っていたとしても、必ず会いに行きたい。
「未練たらたらだけどさ…待っててくれるんだよな?」
夜空にはこぼれ落ちたように無数に輝く星々が煌めいていた。今夜は流星群が見られるという。
この静かな丘で、「きっとまたね」と言ったボタンを待ちながら、オレはひとりそこに佇んでいた。
「ん…」
「あ?」
振り返った。冬の風の匂いがした。