雪割の花

雪割の花


革命軍には顔に大きく『白』の文字を刻んだ女がいて、

そいつがある国の王族だったなんていう噂話を聞いたのは

一体どこの酒場だっただろうか。

トラファルガー・ローは噂話の張本人を前にそんなことを考えた。

「あら、わたくしの顔になにかついているかしら?」

「……いや」

灰色の髪を後ろで一つ括りにした女を何故か見ていられず、ローは視線を逸らす。

ドレスローザの一件が決着し、後始末で騒がしい街にいられず

喧騒を避けるようにして出向いた廃墟。そこにその女は居た。

「見えないだけで、小さな傷はいくつものついていましてよ。

でも……このような、隠せる傷などどうってことありませんわ」

かつん、と靴のかかとを高く鳴らして女はローへと近付く。

そうしてその両頬に手を宛がい、ぐいと自分の方へ向かせた。

「何しやが……」

「あなたの顔にも、何もついておりませんわね」

ぺたぺたと、何かを確かめるように、必死に手をうごめかせる。

「どこも、どこも、白くない、白くない、白くない……ッ!」

その目を見る間に潤ませたかと思うと、慌てて自身の目をこすって跳び退く。

「……Mr.トラファルガー。わたくし、幼い頃に炎を見ましたの」

くるり、と背を向けて女はぽつぽつと語り出した。

「わたくしが愛する何もかも、美しき白を飲み込んでいく炎。

その白こそがわたくしの愛するものを蝕む毒であったこと、

わたくしの親は知っていてそれを黙っていたことと知ると同時に、

あの炎はわたくしの心臓に燃え移り、ずっとこの身を苛んでおります」

白、毒、炎。そう聞かされてローの脳裏に浮かぶのは、たった一つだけだ。

「おまえっ、フレバンスのっ!」

咄嗟に鬼哭の柄に手をかける。フレバンスの王族。全てを知っていながら

国民に真実を告げることなく、国民を見捨てて逃げた、

いわば、ドフラミンゴ以前の彼の怨敵である。

女は殺気を感じているだろうに、まるで歌劇のように身を翻す。

「わたくしは、この命を革命軍に捧げることとしました。

死した国は戻りません。死した命は戻りません。失ったものは戻りません。

――ですが、医者が命を救いあげるように、生きている民を救いあげることなら

わたくしなんかでもできるのではないかと……そう考えたのです」

「ハッ、おれの前で医者をかた……待て、おまえ」

怒りと共に嘲笑をしようとして、はた、とローは動きを止める。

「おまえ、どうしておれがフレバンスの出身だと……」

「……わたくしがあの美しき白の中でいっとう好きだったものは、

わたくしが王女であることを知らずに仲良くなった女の子と、

そのお兄さまでしてよ、Mr.トラファルガー」

しゅるり、と女は自分の髪を留めていたリボンを解く。

そうして動けずにいるローの手に、そっと乗せた。

「これはあの日、美しき白と共に燃え落ちた、小さなティカの心の名残。

これをお返しして、わたくしは革命軍の【珀炎】として、生きるのみですわ」

ではごきげんようと踵を返した女の背を、ローは愕然と見やる。

ティカ。小さなティカ。妹(ラミ)の友達だった女の子。

どこかの名家のお嬢様だったのに、ラミと贈った真っ白なリボンを

とっても喜んでくれた銀の髪の女の子。

『わたくし、これをいっとう大事にします!』

そう言って笑ってた女の子。

――もう一つ甦る記憶。あの時、彼女と同じ年頃だった王女の名前は――

「ティカ……っ、王女エパティカぁ!」

白雪を割いて咲く花の名を叫ぶローの声は、

視界から消えた彼女に、届いただろうか。




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ここまで考えてROOMからのシャンブルズで追いつけるやつだな…

と思ってしまったのでここで終わる


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