雪の別れ路
しんしんと雪が降り積もる、どこまでも続く白い森
その中を一人の男が歩いていた
黒い着流しに編笠姿の男は黙々と雪道を歩いていく
男には正しい道がわかっているのか、その歩みに迷いは無い
細い木々を避け、柔らかな雪を踏みしめながら一人歩くその様は、確かな足取りであれどどこか寂しげであった
男はどれほど歩いたのだろうか
いつの間やら森はなく、目の前に大きな鳥居が見えてきた
男は立ち止まって鳥居を見上げると、どこか安心したように白い息を吐く
だがすぐに口を引き結び、鳥居の柱を見つめた
彼の視線の先では、着流し姿の隻眼の男が柱の根元にもたれかかっていた
「リューマ」
男の静かな声と共に白い息がもれる
「本当に行くんだな、秋水?」
リューマと呼ばれた隻眼の男は、笠の男-秋水-へ問いかける
秋水の返事はなく、ただ黙って笠のつばを下げる
それを見たリューマは、襟巻きの奥で穏やかな笑みを浮かべた
「黙して語らず…か。ははっ、お前らしいな。まァ、他の連中には俺から話をつけておいてやるさ」
リューマの言葉に、秋水は頷くように俯いた
秋水は止まらず、真っ直ぐに鳥居に向かう
それをリューマは止めることなく見守る
「秋水」
あと数歩で鳥居をくぐるというその時、リューマの声に秋水の足が止まる
「達者でな」
カラリとした声を背に、秋水は鳥居をくぐった
かつて道半ばにしてその手を離れることになった、もう一人の主の元へ向かうために
世界一の大剣豪の黄泉路に共するために
お互い振り返りはせず、リューマは襟巻きの内で、秋水は笠の奥で笑みを浮かべる
そして完全に鳥居をくぐった瞬間、秋水の姿はかき消えた