離れ離れ

離れ離れ


「わるいねェ〜ルフィ大佐。どうしてもという願いでね〜。」

「いや、良いよ。こんぐらいなら。」

 海を行く船の上で海軍大将黄猿とルフィ大佐は話をする。今回の任務は護衛だ。しかも驚く事にルフィ大佐を名指しで、である。別に用心の護衛にルフィ大佐が選ばれる事は珍しくない。アラバスタの一件以降その依頼数は増加したぐらいだ。ではなぜ名指しの護衛任務が少ないかと言えば一重にルフィ大佐の性格の問題である。自由奔放でその場の勢いで動く彼は致命的に相性が悪かった。それこそ彼に任せられる護衛任務は歌姫の護衛程度の物でその事をわかっている海軍の上層部はルフィ大佐に来る護衛依頼を全て突っぱねていた。では、何故今彼がその護衛任務をしているかというと。

「ルフィ大佐!はやく来るアマス!」

「じゃあおっちゃん。行ってくる。」

「気を付けるんだよォ〜。」

 呼ばれルフィ大佐は急いでその部屋の前まで行くと丁寧に扉をノックする。

「入るアマス。」

 許可を得て失礼しますと声をかけ部屋に入る。まるで噴火した火山のような髪型に特徴的な語尾。それだけでルフィ大佐が護衛任務を受けざる得なかったのが理解出来るだろう。何故なら今回の依頼は世界貴族"天竜人"からの依頼なのだから。

「こっちに来て足を揉むアマス。」

 ルフィ大佐を呼び出した天竜人は珍しくラフな格好をしており特徴的な水瓶のような被り物をしていなかった。本来、彼らが来ているそれらは下賎な民と同じ空気を吸わない為のものであり触れない為のものだ。それを脱ぎ捨て、あまつさえ触って奉仕をしろとその天竜人は言う。その意図はルフィ大佐には測れる物では無い。後で黄猿のおっちゃんに聞こうと考えながらルフィ大佐は丁寧に奉仕をする。彼らには海軍の最高戦力を顎で使えるだけの権力が有り、近場に黄猿大将もいる。この依頼を受けた時点で…いや、天竜人に目をつけられた時点でルフィ大佐に拒否権など無かった。

 結局この任務の間ルフィ大佐は一度も天竜人の部屋から出る事は許されず護衛の任務なんて始めから偽りだったかのように奉仕する日々を迫られた。そんな自由などかけらもない生活をルフィ大佐は耐えた。辛い時に考えるのは大切な幼馴染の顔。今反抗するのは簡単だ。けれどもそれで奴隷堕ちや死亡などすればあの幼馴染は絶対に悲しむだろう。そんな事はあってはならない。その一心で静かに奉仕を続けた。


「ルーフィーー!!お帰りなさい!何もされてない?傷は?汚されたりなんかしてないよね?お腹は減った?どうせ満足に食べれなかったでしょ?」

 10日間の任務を終え海軍本部に帰って来たルフィを1番最初に迎えたのは大切な幼馴染であるウタ准将だった。ウタ准将は天竜人の護衛に駆り出された幼馴染を迎えるとひとしきり熱い抱擁を交わしたのちルフィ大佐の体中をペタペタと触り出す。ルフィ大佐も心配をかけた自覚があるので抵抗はしない。因みにここは海軍本部があるマリンフォードの軍港である。周りの海兵達の目もある中で2人はこんな事をやっている。

「わりィわりィ。心配かけたな。おれはなんともねェよ。ほらこの通り。」

 抱き合ったままルフィ大佐は自分が無事だと話す。

「あの〜公衆の面前ですよ?ここ。」

 ある海兵のその一言で2人は我に帰る。周りの海兵は余計な事を言い出したその海兵を睨み、肝心のルフィ大佐とウタ准将は抱き合ったまま顔を真っ赤に染める。そして、

「よしウタ!行くぞ!」

「えっ!?ちょっとまっ!?キャッ!?」

 恥ずかしさがオーバーヒートしたルフィ大佐はそれでもウタ准将と離れたくなかったのかお姫様抱っこで持ち上げると海軍本部の方は走っていく。対するウタ准将は幼馴染が突然こんな事するのか予想外だったのかお姫様抱っこをされても腕はルフィ大佐の背中に回したままだった。

 その日1日目撃された2人はピッタリとくっついていて1度たりとも離れなかったと言う。

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