雌兎“サキ”

雌兎“サキ”


あの日、調教の隙を見て逃げ出し、しかし全てが掌の上でしかなかった脱出劇からしばらくが経った

サキはあれからも、心だけは抗い続けた

何度も何度も、隙を見つけては逃走を図り、そしてその全てが


彼らの計画通りだった


何度も、何度も、用意された隙をついて、用意された関門を超え、そして

用意された観客たちの前へ差し出され、欲望に呑み込まれる


何度繰り返しただろうか

何十回繰り返しただろうか

もう数えるのも億劫になったその日


サキは、調教部屋の隅で膝を抱えていた

身にまとう衣服は無く

ただただ縮こまる


扉の鍵は、開いている

部屋に監視は、いない

あの優男が部屋を出るその時、わざとらしく鍵をかけ忘れたのだ


逃げるチャンスであることは間違いない

けれどこれもきっと、やつらの罠だ

サキが部屋を出てくるその瞬間を今か今かと待ち構えているのだ


それでも、正面から打ち破ってやると、今度こそ突破してやると、最初は思っていた

全てやつらの思い通りだった


どんなに上手く隠れても、どれだけ全力で走り抜けても、どれだけ相手の裏をかこうとしても、その全てが尽くあの舞台へと上らされる

そうして、どす黒い欲望にまみれたあの獣どもに蹂躙されるのだ


勿論サキは抗った、抗い続けた

だが迫りくる手が、サキを欲望のままに壊さんとする手が近づく事に恐怖し、何もできないうちに、呑み込まれた

悪趣味な首輪は、いつからか無くなっていた



―怖い


外に出れば、やつらは嬉々としてサキを見世物にするだろう


―怖い


そしてまた、地獄のような狂乱に落とされる


―怖い


サキは、動けなかった


扉の、開く音


「困りますね、こんなところで止まっていては」

あの男だ

サキにとって、すべての元凶である、あの男がやってきた


これは、本当の意味で、チャンスだ


あいつは油断している


恐怖に震える心を抑えつけ、サキは再び拳を握る

今なら、油断している今なら、例え武器が無くとも大人一人を抑えつけるくらい簡単にできる!


一歩、二歩、三歩

奴が近づく

四歩、五歩、六歩

―今!


勢いよく立ち上がり、男の腕を掴み


「ぎゅっ!?」


それは、ほんの軽い衝撃

立ち上がったその瞬間、男はサキの下腹部を軽く小突いた

ただ、それだけ

それだけ、だというのに


「ぅうぅぐうぅぅぅ!?」


立っていられない

膝をつき、蹲る


サキの下腹部に加わった衝撃

攻撃ですらない軽い衝撃だったそれはしかし、サキにとって致命的だった

子宮まで揺らされたかと錯覚するそれは暴力的なまでの快楽を呼び起こし、サキの股からは勢いよく液体が噴出していた


「一体どうされました?皆様がお待ちですよ」


それは、調教の成果


ただ身体の表面から衝撃を加えられただけでも、サキの身体は否応なく快楽を受け入れてしまう


「ぅ…ぁ…や、め…ろ…」


男は慣れた手つきでサキの二の腕を掴むと無理矢理に立ち上がらせる

先ほどの絶頂でがくがくと震える脚を無視して、男はサキを歩かせる

向かう場所は、いつもと同じ

あの舞台


欲望に塗れた、あの場所


「ぃ…ゃ…」


また、壊される

私の、全部を

意識が、ばらばらに、なって

ヘイローが、砕けるような、快楽が


こわい


気付いた時にはもう、舞台の真ん中だった

ねばつくような汚らわしい視線が向けられ、大歓声が鳴り響く


拷問ならば耐えられた

痛みなら耐えられた

けれど快楽は

全身を性感帯に改造され、際限なく襲い来る快楽は

サキの心を蝕み続けていた


「ようこそお越しくださいました皆々様!そして申し訳ございません、脱出ショーはまたの機会となってしまいました」


相変わらず男は大げさな身振り手振りで観客にアピールしている


「まずは当人より、反省の姿を見せて頂くとしましょう!」


反省?反省とはなんだ?私が、何をしたと

理不尽だ、とサキは思った

だから反論をしようとして


「さあ、こういう時は、どうするんですか?」


男の、底冷えするような声で告げられた


愛銃を汚させ、そして失わせた、あの声で


「あ…ぅ…」


こわい、こわい、こわい!

私はまた、何をさせられるんだ!?


サキはもう、どうすれば良いかもわからなくなっていた


調教部屋から連れ出された時から、いや、鍵が開けられたその時から

どうにもならないかもしれない、また捕まって、また地獄を見て、最悪な想像が頭を離れないその時から

サキはとうに正常な思考などできなくなっていた

私はSRTの、RABBIT小隊の、必死に言い聞かせたところで現実は変わらない

心は動いてはくれない

私は、私は、私は、私は


「簡単な事ですよ」


男の言葉が、静かに入り込む


 調教

「訓練の通りに、すればいい」


聞きたくないのに、入り込んでくる

 教育

「教範の通りに、実践しなさい」


そう、そうだ、教範なら、その通りにすれば


頭の回らないサキは、教範の通りに、度重なる調教によって教え込まれ『教範と同じところに記憶させられた知識』を、その中身を理解する余裕も無く


「わ、わた…わたし、は…」


知識を頭の中で反復する

教え込まれた

何度も何度も頭に叩き込んだ知識を


こんな時、粗相をして大人に謝罪をするときは



まずは、床に腰を下ろし


膝を曲げ


開脚して




「私は!子供の分際で!大人に逆らいました!絶対に勝てない大人に!逆らいました!」




自らの秘所を指で広げ、隠されるべき穴を白日に晒す




「私の全ては!大人の所有物です!私は!弱い子供です!」




大人の目を見て、叫ぶ




「だから!私をお使いください!雌という価値しかない私を!この雌兎で欲を満たしてください!」




自分が何を言ったかも、理解しないまま



歓声、歓声、歓声



目を見開く


「え…あれ…?わ、私は…今…なにを…」


ただ教範の通りに、この状況の、対処を


「素晴らしい宣言でした!皆様、お聞きの通り!雌兎は全てを我々にゆだねられました!」


契約は、成った


「ち、違う!違う!私は…私は!」

「何が違うのでしょうか」

思考が追い付く

してはならない過ちを犯してしまったと、鼓動が早くなる


「私は、屈してなんかいない!」

わけもわからないまま、立ち上がろうとし


「面白みのない返答でございますね」


サキの乳房の片方、その先端を

ただの力任せに掴んだ


「ぎゅ゛ぅ゛っ!?」


男はそのまま無理矢理に掴み上げ

腰を下ろしていたサキは、中腰になるほどに持ち上がってしまう

そんなサキの顔は


「いぃぃいあああああ!?」


快楽に、飲まれていた


常人であれば激痛に悶えるべき仕打ちを受けてなお、サキは絶頂の中にいた

股からは勢いよく蜜が噴き出し続け、足元には水たまりができようとしている


やがて男は突然その手を離し

サキはべちゃりと腰を下ろし、その上半身は力なく前に倒れ伏す


「御覧の通り、どれほどの力を加えても、ただそれだけで快楽を貪る様はまさしく雌兎!もはや人ではないでしょう」


くるくると、まるで踊るように男は語る


「ち、ちが…う…わた、し…は…」


必死に、身体を起こそうと、腕に力を籠める


「私は、お前たちのような、汚い大人を、必ず」

「あなたの負けですよ」


男の指が

ほんの、僅かに

サキの股の、その割れ目を、撫でた

肉芽にも触れず、ただただ割れ目を一度、撫でた

それだけで


「あ゛っっっっ!!!??」


いきなりサキの上半身が弓なりに起き上がり叫び声が飛び出す

苦痛の叫びではない

絶頂の、雌の叫び



「な、なん…で…」


やがてまた力が抜けたように、背中から倒れ伏す

自らの股から溢れ出た水たまりが身体を濡らす


「もはや『これ』は戦う事などできません!」


男は上機嫌に、言い放つ


「『これ』は我々の為の存在です!」


くるり、くるりと


「子供が大人に勝てるはずなど、ないのですから」


サキを、見下ろす


「そ゛んな゛…こ゛と゛、は…」


目線だけでも男を睨みつけようとすれば


男の、後ろ、には



目、目、目、目、目


薄汚い、底無し沼のような、ドロドロとした欲望が


幾多もの醜い大人が、サキを、見下ろしていた


「―ひっ」


気付いてしまった


自覚してしまった


『勝てない』


今までだってそうだった


あの男達が次々とサキの身体を貪る中で

殴った、蹴った、けれどどれほども力を出せず

なすがまま


SRTで学んだ事を

教範で学んだ事を

今まで積み上げてきたもの全てを持ってしても

目の前の大人たった一人相手でも、抵抗すらできなかった


心が、認めて、しまった


「ごめんなさい…」


大人には、勝てない



「それでは皆様、お楽しみください」


手が伸びる

欲望にまみれた手が


サキの、短く切りそろえながらも手入れを怠らなかった髪の毛を

よく鍛え数多の戦場を走り抜けた脹脛を

立体的な走りを実現するための太腿を

重い銃火器でも持ち上げる二の腕を

大きすぎては邪魔になると思っていた乳房を

引き金を引く為の手の指を

大地を踏みしめる足を

ただの排泄器官でしかなかった尻を

鍛え続けてきたその腹部を

遠くの異常も聞き逃すまいと神経を研ぎ澄ませてきた耳を


SRTとして戦い続けた、空井サキという少女の、全てを


欲望が、包み込む

身体の外も、内側も

欲望を塗りたくられ、注ぎ込まれ


「あっ!うぅっ!?んぐうあ!!」


まとまらない思考で、あの言葉がこだまする


 教育

『教範の通りに』


そうです

ことばづかいには きをつけて

おとなには ていねいな きれいな ことばを


「おねっ…おねがい…しま、す…やさ、やさし、く…して、くだ…アっ!?」


ぜっちょうしたら

ほうこくしましょう

いきました


「イっ…イき、ましたア!?イってます!イってますからあ゛!!」


もう、自分が何を言っているのかも、わからない

サキは、自分の心がバラバラになったように思えた


わからない、わからない、なにも


そうして、サキは




暗転


……

………




それは、この長い調教生活で見慣れた、調教部屋の天井

サキにあてがわれたベットの上だった


身体は綺麗なままで、しかし衣服は無い


ゆっくりと、身体を起こす


「私、は…確か…そう…」

直前の記憶を、呼び起こす

「う゛っ!?」


吐き気


「おえェ…ぅうぅぅ…う゛え゛っ」


びちゃり、と口から液体が吐き出される

胃液、と


白く濁った、ドロドロとした


「おえぇぇぇぇ…」


吐き出す

全部、全部を


「おや、もう起きていましたか」


気付けば、あの男がいた


「一体なんの」

用だ、と睨みながら続けようとして


身体が、こわばる


もしも、もしも

この男の機嫌を損ねでもしたら

またあの地獄を、味わうとしたら


「なん、の、ご用事…で…しょう、か…」


知識を総動員して、丁寧な言葉を作りあげる

ダメだ、逆らっては、いけない


「ふむ、及第点ですね」


何を見ているのか、サキにはわからなかった

そんなサキの姿には目もくれず、男はどこからかカップを取り出す


「まずはこれを飲んで頂けますか」

提案ではない、強制

言外にそう告げている

拒否権は存在しない


「は、い…」


サキは震える手でカップを受け取る

中身は透明で、水のように見えるが、サキの震えを受けたその液体は、いくらかねばついているように見えた


それでも、飲まなければならない

不審に思われて、機嫌を損なえば、終わりだ

迷ったのも一瞬、サキは両目を硬く閉じて一気に飲み下す


「んぐっ!?」


予想通り液体は粘着質で、喉に絡みつく感覚はとてもつらい

それでも、吐き出すわけにはいかない


硬く口を閉じ、必死に喉から胃へと液体を送り込む

ごくり、ごくり、ごくり


口の中の全てを飲み込み口を開ければ、身体は一刻も早く空気を取り込もうと荒い呼吸を繰り返す


「良い傾向です、その調子ですよ」


そんな誉め言葉など、嬉しくも無い

反射的に睨みそうになるのを抑え、男の次の行動を待つ


きっとこれも、悪趣味な何かの一環なのだろうから


力んだ両手で抱えていたカップをゆっくりと下ろし、男と向かい合う

それはほんの一瞬だったか、それとも数分だったか

緊張したサキにはわからなかったが、その効果は表れた


「んぅ!?」


身体が、熱い


腹の底、子供を宿すべきその場所が、熱い


刺激を欲している


もし今、目の前に男がいないのであれば、その穴を指でほじくり返し、その胸の先端を乱雑に押しつぶしていたことだろう


「効果が表れたようですね、それではついてきてください」


男は再び歩き出し、サキもまたその後を続く


飲まされた水は、おそらくは媚薬

身体を強制的に発情させて、やらせる事は1つだろう


サキは、熱に浮かされた身体とは対照的に、心が冷え切っていくのを感じた


「これはいわば研修のようなものでしてね」


男の言葉が、響く


「雌兎の初仕事、ということです」


……

………


それは、悪趣味な部屋だった


四隅には不快な香りの香が焚かれ、床も壁も妖しげな雰囲気を漂わせている

そんな部屋の中央には、おおよそ5,6人は入れるのではないかと思える大きなベットが一つ


そこに、サキはいた

ベットに腰掛け、瞳を閉じて

その服はSRTではお目にかかる事が無いような、それどころか普通の生徒であれば袖を通す事など無いような

身体を覆う大半の布が透け、サキの大きな乳房を、鍛えられたことで適度に筋肉質でありそれでいて柔らかさを持ったしなやかな四肢を、女性らしい丸みの帯びた腰を

サキという『雌』を妖艶に見せつける、特別な衣装

男を誘う、下品な姿

戦う事など、できない姿


そして、扉が、開いた


サキは跳ねるように立ち上がり、そして


「いらっしゃいませ、雌兎“サキ”と申します」

深々と礼をしたその顔は、笑顔を作れていたかわからない



空井サキという少女は、死んだ

そして今日、雌兎“サキ”が生まれた


happy birthday サキ








<補足>

優男は調教中のサキを観察する事で教範を重視する人間性を把握、それを元に調教メニューをくみ上げ

調教によって学習した娼婦の知識を、脳内の教範と同じジャンルの場所に記憶するよう暗示させる→繰り返し教え込んで身体にも心にも染み込ませる→思考を混濁させた状態で教範を反復させる(内容を理解させないまま調教の成果を反復させる)→奴隷宣言で正式に娼館の雌兎として契約成立

という流れになっています

サキはもう大人には逆らえません、輪姦地獄が怖いので

性行為には今も嫌悪感を抱いていますが、それでも恐怖が勝っているので命令すれば引き攣った笑みを浮かべて騎乗位をしてくれますし簡単にイっちゃいますよ

Report Page