雁は飛びゆく 微笑んで
23:19 渋谷駅・道玄坂改札
特級呪霊「無明」と虎杖悠仁の交戦が激化。
時刻不明 渋谷駅構内
一級術師禪院真人・東堂葵の両名が虎杖悠仁と合流。
両名、無明と交戦開始。
23:36 渋谷警察署宇田川交番跡
夏油、敗走する無明の前に表れ、無明を取り込み、禪院真人を殺害。虎杖、夏油が五条を封印した人物であることに気づき、五条奪還を試みる。
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−禪院真希と禪院真依は、静かな海岸で微睡んでいた。
真希が呪霊につけられた傷は、すっかり見えなくなっている。
「お姉ちゃん〜!起きて〜!」
さざ波に似合わない、元気そうな大声が響く。
真希と真依が体を起こすと、青白い髪の見慣れたヒトが海に浸かっていた。
「真人…なんでここに」
「貴方は…どうして…」
ここがどこかは分からない、けれど、ここは真人がいていい場所ではない。
それだけは朧気な意識でもはっきり分かった。
「なんでもいいよ。それより二人とも、私のお守り持ってくれててありがとう。
−もう私も死んだから、父さんとの"許可なく身内に術式を使わない"縛りも切れた。
だから最後に二人の魂の繋がりを切ってくよ。
魂が繋がってたら、真希姉ちゃんの天与呪縛は不完全なままだからね」
真人は二人の座る間に、パシャパシャと海水をかける。すると不思議なことに、真希の周りの砂が真依のところへ流れ込み、出来た凹みに水が入ってくる。やがて真希の座る場所は海に浮かぶ小島のようになり始めた。
「駄目だ!真人!」
という真希の叫びは、真人には届かなかった。
「私さ、姉ちゃん達がいてくれて嬉しかった。多分姉ちゃん達がいなかったら、俺は自分(たましい)がわからなくなって。この世を呪って、きっと人を殺し続けてたんじゃないかな。
だからさ、元気でいてよ。真希姉ちゃん、真依姉ちゃん。
二人が元気なら、きっと私も笑えるから」
そう言って、真の人間(じゅじゅつし)であれと祈られ、名付けられたヒトは。
呪術師でも呪いでもなく、一人の弟/妹として笑顔で沈んだのだった。
−意識が明転。
真人に渡されたお守りから手が生えてきたことを悟る。
恐らくは彼の死を引き金に生えたそれを大事にポケットにしまうと、桃の居場所を確認。即座に狙撃の構えに入る。
−身体にこれまでにないほど呪力が満ちているのを感じる。
−全力の銃撃をぶつけて、真人の亡骸を持ったあいつを撃ち抜く!
パァン、と禪院真依の放った弾丸を、頭に縫い目がある男は呪霊を盾として受けた。
そして。
真依の一撃は呪霊を吹き飛ばし、弾丸は男の頬を掠めた。
「狙撃銃か、いいね。呪力強化も淀みない。」
「真人を返せ!夏油傑!」
−ここに、今夜最後の戦いの幕が上がった。