隠し味に想いをひとつまみ

隠し味に想いをひとつまみ

📞JC前の🦐 中の人はまったくの無知なのでレシピをガン見しました

「……よし」


目の前には素材、身につけるはエプロン。そして、心に少しの覚悟を。


ボウルに卵を割り入れる。泡立て器である程度溶きほぐしたら牛乳と溶かしバター。そうしてもう一度しっかり混ぜ合わせる。

納得出来るまで混ぜたらホットケーキミックスを入れて、ダマにならないよう混ぜる。そうしたらこれらを二つに分けて、片方にドライフルーツ、もう片方に刻んだチョコレートを入れる。


「……うん」


ここまでは順調だ、本格的に走るようになってからはこうやってお菓子を作ることもなくなっていたが、まだ腕は衰えていない。今度機会があったら他にも作ろうかな、いやでも、僕のお菓子を受け取ってくれる相手なんて、今想いながら作ってるあの子しかいないかな。なんて考えながら型に流し込む。


あらかじめ予熱していたオーブンに入れて、15分。待っている間に思考を巡らす。


なんでまあ数年振りにお菓子を作ることになったかって、同室のコンちゃん……コントレイルのためだ。

彼は引退レースであるジャパンカップを明日に控えている。今は最後の調整をしているはずだ。

……無敗の三冠馬としてクラシック路線を駆け抜けた彼は、古馬と戦うようになってから心無い言葉に耐え続けていた。一見何でも無いように笑って、次こそは、と意気込みを語っているけれど、その裏側には無数の傷がある。

同室だから知っている。一着を逃す度に枕を殴りつけていること。たまに限界を迎えて向こうから布団に潜り込んでくること。

だから、応援するんだ。僕は人と話すのが上手くないから、下手なことを言うと余計に刺激してしまうかもしれない。それなら、と、モノで伝えることにした。


チン、と音が響く。開けて、そっと竹串を刺す。うん、くっついていない。完成だ。一つ味見がてら口に含む。うん、人に食べさせられるクオリティだ。


昨日材料のついでに買い込んだ袋に詰めてリボンをぐるりと巻く。作りすぎた分はどうしようか。誰か食べてくれることを願って同じようにラッピングしようかな。そうやって考えながら出来たマフィンは中々の出来だった。

どうやって渡そうか考える。顔を合わせたら余計なことを口走りそうだ、どうにか……と考え、一つ思いつく。


「もしもし、タクト?……その、お願いがあって」


どうかどうか、僕の想いが、届きますように。


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