陽光を閉じ込めた日
ユハ一(皇帝陛下×一護が人魚)
この国の海には、昔から人魚がいる。とても美しい姿をした人魚は、滅多に人前に姿を現さない。
その人魚が目の前にいる。
用意された巨大な水槽の中でオレンジ色の髪を揺らし、不機嫌な顔した人魚は今にもこちらに噛み付きそうな雰囲気だ。
「ああ、やはりお前は美しいな」
男、ユーハバッハはこの国の皇帝陛下だった。地位も財力も持っているし、望めば全て手に入った。でも、いつも物足りない。そんな時に見つけたのがこの人魚だった。海岸沿いの道を馬車で通りがかった時に、窓から見えたのだ。海を泳ぐ美しいこの人魚を…。水飛沫と共に陽光を浴びて煌めく髪…初めて見た瞬間から心を奪われた。
そして、どんな手段を使ってもこの人魚を手に入れると…。
ユーハバッハが部下に命じて、海に罠を仕掛け引っかかったのが件の人魚…一護だった。
『俺を海に帰せ!!』
一護からしたら、海を泳いでいただけで捕まえて、狭い水槽の中にぶち込まれたのだから…困惑と共に怒りが勝る。
「…それは出来ない相談だな。お前が此処に居る限り、望む物は全て与えよう」
『いらねぇ…俺はただ帰りたいだけなんだ』
一護には同じ海で育った家族や友達がいる。今頃、彼等も一護を心配して探している筈だ。
「強情な奴め…それならお前の仲間を捕まえるとするか。1人は寂しかろう?」
『なっ!や、止めてくれ!!』
一護の脳裏に傷付いた家族や仲間の姿が浮かんだ。止めなくては…この人間は必ず実行すると勘が告げていた。
「お前が大人しくしていれば何もしない。ああ、まだ名を聞いて無かったな」
悪魔の様な赤い目をした人間が問う。
『……一護』
「そうか、一護よ…私の名はユーハバッハだ」
一護にとっては長い悪夢の様な時間が始まった。