時代の旅人たち

時代の旅人たち


「明けましておめでとうございます!今日からリバティちゃんも、アースと同じ古馬です!と言うことは、本格的にアースや、歳上の先輩達とやり合うことになる訳です!アースの出るレースと、リバティちゃんの出るレースが被らなければ良いなとか言ってられません!と言うかぶっちゃけ被る可能性の方が大いにあります!」

「おめでとうございます…いきなりですね。ただ本当に…去年のジャパンカップでは悔しい思いをしたので頑張りたいです。一つでも多く勝ちを挙げられるように。皆さんに喜んで貰えるレースをしたいです。…先輩にも、負けません」

「ンアーッ!!イク杉くんへのリベンジの機会がないのは残念ですが、おどう君にも今度は負けません!と言うかローズちゃんには早く戻ってきて貰わないと困ります!アースは何としてでもGⅠ三勝目を挙げたいんです!出来ればその時にはしのぎを削り合ったライバルにいて欲しいです!ジャック先輩もです!」

「…多いですね、因縁の相手」


「勝てるのは一人だけ!…勝者として記憶に刻まれ、思い出してもらえるのも…一人だけなんです。成し遂げた者は讃えられる。自然の摂理です」

「摂理…ですか」

「成し遂げられなかった者は…忘れられるんです。語られなく…なるんです。アースがリバティちゃんにやたら絡んでいるのは…」

「…語られていたいから、ですかね」

「……そうですよ。同じドゥラメンテ一族、同じティアラ路線を歩みながら…方や二冠、リバティちゃんは三冠…二歳女王の座に立っていることも含めれば四冠です。成し遂げた者と成し遂げてない者で…ンアッ!?何で頭を叩かれましたか!?」 

「……その態度に納得がいかないので」

「瞬間湯沸かし器…恐ろしい子です…」

「……先輩はいつも、やたらと自分を下げますけど、先輩なら分かりますよね?GⅠに勝つ…出るだけでもどんなに高い壁か」

「…分かってますよ。GⅠで見せ場をつくる…勝ち負け出来る者がどんなに上澄みの存在か」 

「私だって…ただ勝ってきただけじゃないですよ。…無敗のトリプルティアラでもないし…イクイ先輩にはリベンジの機会もないまま…力の差を見せつけられて…今でも、宙ぶらりんです。ユーガにだって…まだお姉さんにはなれていないって言われるくらい課題が多いです」

「…リバティちゃん」

「……怖いですよ。このまま…負け続けたらどうしようって。負けるだけならまだしも…見せ場も何も作れず、ただ消えていくだけになったらと思うと。最弱のトリプルティアラだって言われたら…あ痛っ!?」

「ンアーーッ!知ってます!知って尚、それでもアースは貴方が羨ましいんです!!例えこれからがどうなろうと、貴方の作ってきた功績は消えないじゃないですか!グッズだって…ポスターだって作られる!貴方と居たいからと、大きなレースを蹴ってまで貴方を選んだ人が居る!私はその人に選ばれなかったのに!!貴方が人々に忘れられることなんて、毛頭ないですよ!!」

「……貴方が好き放題語って、勝手に比べてくれますからね」

「そーですよ!リバティちゃんが自分でそうだと言えなくなっても!アースにとってはいつまでも…超えたくても超えられない壁ですからね!!叶うなら、オークスの後怪我をしなかった世界線に………」

「…先輩?」

「秋華賞の後、怪我をしなかった世界線に…大阪杯に勝てた…ヴィクトリアマイルに…秋の天皇賞を頓挫しなかった…後悔なんてキリがないですよ、言ったら…」


「……私だって、後悔は沢山ありますよ。でも。先輩、言ってましたよね。自分の意思とは関係なく、走るのを辞める時は辞めないといけないって。いつか…その日は来るからって。例え、最後に負けて終わったとしても」

「…ええ、いいましたね」

「イクイ先輩みたいに…勝って終われれば。最強だって言って貰えるなら…それに越したことはないと思います。でも…そうならないことの方が、終わりを迎える準備が出来ないまま、終わることの方が、ずっと多い。それに…」

「それに?」

「…イクイ先輩が最強なのは。私たちがこうして語り続けてるからなんだと思います。でも、いつまでもイクイ先輩の話をしても、私たちの進む先には、もう、いないから」

「…モヤモヤしますねえ」

「……だから、忘れる必要があるんだと思います。嫌いだからじゃない。でも…どうにもならないから」

「どうにもならない…ですか」

「忘れるのも、忘れられるのも。…私だって、一緒ですよ。今はこうして…私を選んでくれた人と一緒に歩んで。ファンの皆さんに愛して貰えて。でもいつかは、そんな日々も終わる日が来る。忘れられる日が来る。別れと出会いを繰り返す…それが自然なことなんです」


「ずっと思ってなくても、忘れてくれても良い。第七代目トリプルティアラ…リバティアイランドがいたことを、あんな時代もあったねって…時々、思い返して貰えたら。私は…幸せですから」

「ぐぬぬ…やっぱりその称号は…強いですねえ」

「頑張りましたから」   

「Vサインが眩しいです…でもやーっぱりアースは!出来るだけ多くの人達に覚えててもらいたいです!!」

「それは…私も同じですよ」

「そうでしょう!?だからこそアースは勝ちますよ!善戦ウーマンで終わらず!ダブルティアラでもなく!スターズオンアースと言う輝く一等星になるんですよ!!」

「負けませんよ」

「ええ、こればっかりは譲れません!!今年もよろしくお願いしますね、リバティちゃん!!」


「…走って行っちゃった。脚弱いのに」


「……私がこう思える様になったの、あの人のお陰だって言ったら。どんなに苦しくても、諦めないあの人が居てくれるからだって言ったら。どんな顔、するかな」


「…私のこと、いつも話してくれて。忘れないでいてくれて、ありがとう。いつか、貴方みたいに。"お姉さん"になれる日が来たら良いな」  

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