闇夜の夢
ある男は暗闇に居た。
何も見えない、聞こえない静寂が支配する暗黒の空間。
分かることといえばここにいるのは一人であるという事と何かの力でうつ伏せの状態で立ち上がる事ができない2つだった。
(兎に角ここから出なければ……)
幸い立ち上がれないだけで体は動かせる。男はは這いずる様にその手で地面を握りしめながら暗闇の中を進み始めた。
進む度に何かが口の中に入る。感覚からして何かのかけらだろうか。ぷはっと口から出す様にして進み続ける。
「ン———」
ある程度進み始めた辺りから何か女性らしき声が聞こえてきた。進めば進むたびその声は大きくなっていく。この状況、おそらく霊的な何かだろう。
「カフェ…」
こんな時頼りになる最愛の人の名を呟き続けながら進み続ける。
「ン———」
しかしそれが悪手となったのだろうか。声がだんだん大きくなる。心なしかその声は激しさを増していた。
(マズイ!このままでは!)
そう思いながら恐怖心を押し殺し、より大地を握りしめて一心不乱に進み続ける。
その手が手が熱くなろうが構わず動かし続けた。
手のひらに別の感覚を感じたがそれどころではない
するとどうだろう、今度は自分の足元に何か生々しい感覚がした。何も見えなく腕しか動かせないので確認は出来ない。
恐る恐るその足の辺りを触れてみると液体の感触。
おそらく血だろう。
あれほどの勢いで這いずっていたのだから摩擦で足が削れるのも納得がいく。痛みの感覚はない。どうやらそれ程までに致命傷なのかもしれない。
恐る恐る触れながら状態を暗闇の中で確かめる。
見えない為入念に確かめていたがそれがいけなかった。先ほどより多くの血が溢れ出す。
「あ"———」
その血を嗅ぎつけた様に女性の声が一際大きく響き渡った。
ここまでの出血で痛みを感じないのだからもう手遅れかもしれない。だがそれでも体が動く限り諦めてはいけない。せめて最期は愛する人の前で———
「カフェ…カフェ!」
愛する者の名を叫びながらひたすら進む。
「あ"———」
「しまっ…」
両肩にかかる指のような感触。とうとう追いつかれた。
そして首元に吸い付かれるような生暖かい感触。このまま血を吸い尽くされるのだろうか。
そして首元を舐められ、吸われる感覚と共にそのまま意識を失っていった………
意識を取り戻して目を覚ますと普段見る寝室。薄暗いが朝日が差し込んでいる。どうやら夢だったようだ。
「なんだったんだアレは…」
「はぁ…はぁ…あ、なたぁ…♡」
そして聞こえる最愛の人の声。本来は安堵のため息をつくところなのだがどこか様子がおかしい。
「どうしたんだカフェ。そんなに息を荒げ……!?」
目が覚め、差し込む光で自らの状況を理解する。
密着した状態。しかも彼女の寝巻のローブがはだけて…ローブの胸元の辺りの…柔肌の部分に自分の手が無造作に侵入し……がっしりと握っていたのだ。
それでトレーナーはあの夢の感覚全てに合点がいった。足元に今も感じるその感覚もおそらく……
慌てて謝ろうとしたが言葉を発する前に押さえつけられる様に組み倒される。
当時は慎ましかったそれ。だが今この瞬間、結婚してから大人の艶を出す様に実ったそれが誘惑する様にはだけたローブから覗かせている。
「夢での寝相とはいえ…こんな変態さんはお仕置きしないといけませんね……♡」
カフェの目が狩りをする獣の様に光る。
「耳元で私の耳に囁くだけじゃなくて…食べようとするなんて…♡」
だんだん顔同士の距離が縮まる。
「毎日のように私の身体を作り変えて…♡それに飽き足らず寝相でも私をモノにしようとして…♡こんな身体になった責任……取ってくださいね♡」
耳元で囁いたと思った瞬間、目の前の獲物に襲いかかった。
彼が襲われ吸い尽くされる夢———
それはどうやら予知夢だったようだ