闇堕ちウタハ概念(未完)

闇堕ちウタハ概念(未完)

妄想概念不法投棄の人(概念不法投棄の人)(砂糖堕ちハナエちゃんの人)

 その日、キヴォトスの地上に太陽が出現した。それは爆心地から1000km以上離れたミレニアムサイエンススクール校舎からもハッキリと肉眼で確認できるほどの巨大な火球だった。


 その太陽は、砂に埋もれた自治区を砂漠ごと跡形もなく消し飛ばし、隣接する自治区の土地を10%ほど抉り取った。

 衝撃はキヴォトスを四周半し、遠く離れたレッドウィンター学園校内に設置された地震計の針を激しく揺さぶった。

 太陽のような火球が消えた後にはサンクトゥムタワーを超える高さまで成長し聳え立つ巨大なキノコ雲が現れ、眼下の幾多の命を育むはずだった大地に死の灰と黒い雨を降り注ぎ、数百年生物はおろか植物すら生えず不用意に立ち入った人間の命を容赦なく奪い去る死地へと変えた。



 これでやっと、私の復讐は終わった。



 ノアに感謝している。私にこの機会をくれた事を。

 あの砂漠の砂糖を私の手で消し去る機会を。

 私の仲間からすべてを奪ったあの悪魔の白い結晶を、作った者とばら撒いた者と愛用した者を道連れにして纏めて葬り去る事が出来た。

 ノアが用意してくれた外の世界の技術と潤沢な資材と資金と設備、そしてミレニアムサイエンススクールセミナー副会長と言う権力とともに、思う存分力を揮う事が出来た。



ヒビキ……コトリ……敵はとったよ。



 あの砂漠の砂糖は私の大切な仲間から、最悪の形で大切な物を奪っていた。

 砂漠の砂糖に犯された二人は重度の脳障害を負っていた。あの砂糖が一時の僅かな快楽を齎す際に二人の脳神経と細胞をズタズタに引き裂いたそうだ。

 二人は二度と喋る事も身体を満足に動かす事も出来ず生涯寝たきり生活を送ることになる。



もうヒビキの斬新な発明品を見る事は出来ない。


もうコトリの頼もしい状況解説(トラブルシューティング)を聞く事は出来ない。



 今の二人はベッドに拘束具で縛り付けられ、生命維持装置の電動ポンプで強制的に心臓と肺を動かし、切り開かれた喉に差し込まれたチューブによって胃に直接流し込まれる流動食と点滴で辛うじて生かされている抜け殻だ。

 二人の痩せ細り枯れ木のような身体に縛りつく黒い革ベルトの拘束具は自分の生命維持装置を止めチューブを外そうとするのを抑えるために付けている。

 二人は自死を願っているそうだ。

 私はそれが嫌で二人を無理矢理縛り付け生き長らえさせている。今死ねば天国には行けず地獄で一生苦しみ続けるよ、絶対に後悔するよ。と言い聞かせながら。




ヒビキ…コトリ…見て……綺麗な太陽だね。



 眩い閃光が窓から部屋に差し込み、時間差でやってきた衝撃波が病室を揺らす。二人は身体を震わせ遮光ゴーグルの下からは涙の筋がいくつも出来ていて、それは歓喜の震えと嬉し涙であり私が起こした行動について喜んでくれているんだなと受け取ることにした。



 一度目の巡航ミサイル、超広域型指向性ヘイロー破壊爆弾がアビドス高校へ命中し砂糖狂いの廃人どもを一人残らず血祭りにあげた後、生き残った反アビドス連合軍の戦友達が全員無事に安全圏まで脱出したのを確認し二発目の巡航ミサイルを撃ち込んだ。

 あの砂漠を残してはいけない。例えアビドスを滅ぼしても、あの砂漠が存在する限り必ず悪用する奴が出て来る。だから消す、小さな砂粒一つ残さず跡形も無く一瞬で消し去らないといけない。

 二発目の大型巡航ミサイルには強大なな破壊力が必要だった。あの熱すると砂糖に変わる悪魔の砂を砂糖に変化させる隙すら与えず一瞬ですべて消し去るための超高温超高圧のエネルギーを発生させなければならない。

 

それを可能にしたのが外の世界からもたらされた熱核兵器「水素爆弾」だった。


 核融合……それも私達が使っている技術よりも何世代も前の旧式のシステムにさらに原始的な「核分裂反応」を併用した熱核反応兵器で、どうやらシャーレの先生の居た世界の技術だそうだ。

 私達の技術を使えば、態々原始的な核分裂反応弾…原子爆弾を起爆装置として使わない純粋な核融合爆弾を作ることが出来たが、私は敢えて外の世界の旧式設計を踏襲した。

 「核分裂反応」によってできる大量の放射性物質による放射能汚染に私は着目したからだ。

 強力な爆弾でアビドスを更地にしても、砂漠をすべて砂粒単位で消し去ってもアビドスと言う土地がこの世界に存在する限り意味が無い。キヴォトス中に散らばり潜伏し続けるアビドス狂信者や隠れ砂糖中毒者たちが生き残った彼の地を聖域として崇め信仰し、集まり再び力を持つことを防ぐ事が必要だった。

 この水素爆弾……通称"水爆"に搭載された原子爆弾……通称"原爆"には爆発と同時に大量の放射性物質をばら撒き、爆心地を数世紀にわたって汚染し、人も植物も住めないどころか近づいただけでも容赦なく命を奪う不毛の地獄の大地へと帰る力を持っていた。

 放射能汚染の人体に与える影響は凄まじく、捕虜のアビドス生を使った被爆実験では被験者の人体を遺伝子レベルで文字通り破壊し尽くし惨たらしい姿と最期を晒した。一度被爆すればミレニアムの最新医学をもってしても治療する事は困難であり、今のキヴォトスの医学では防ぐ事も治す事も出来ない。


 まさに二度と完全にアビドスが復活できないように完膚までに叩き潰し消し去る事が究極の最終兵器の完成だ。


巨大なキノコ雲を見上げた私の頬は終始緩みっぱなしだった。




 戦勝パレードで浮かれてるスタディエリアの賑やかな喧騒が聞こえるエンジニア部の部室で私は卒業論文を書き上げると部室内に合った私物をすべて処分してエンジニア部を退部してミレニアムサイエンススクールを去った。

 あの想い出の詰まった部室に居ると激しく感情が乱れてこれ以上エンジニア部には居たくなかった。否応なしにエンジニア部の存在と香りがする学校も同じだった。

 幸い授業単位もレポートも必要分は既にこなしていてあとは卒業式に出れば良いだけにしておいた。


 ヒビキとコトリは書類上在籍したままにして3年後には無事卒業出来るようにノアが便宜を図ってくれた。


 ミレニアムサイエンススクールに1年足らずしか過ごせなかった二人。通常なら除籍退学になるのだけど、こんな素晴らしい生徒が居た事が消されるという事が私には耐えられなかった。

 エンジニア部の部室で二人の私物を整理して居た時、アイデアノートを見つけた。そこには私すら知らなかった未発表の発明品や発明品のアイデアが無数に描かれていた。

 これらを提出したところ、二人は十分学校を卒業できるだけの単位を取得する事が出来たのだった。


 私がいくらか手を加えて完成させたアイデアノートに踊る二人の優しい手書きの文字から溢れ出る夢や希望をハッキリと感じ取れた私は感情を抑えきれなくなって激しく慟哭した。



もし、砂漠の砂糖が広まらなければ


もし、小鳥遊ホシノが生まれなければ


もし、アビドスがさっさと廃校になってれば、いやアビドスと言う土地がそもそも存在しなければ


 ミレニアムはどれだけ発展していただろうか。エンジニア部はどれだけ活躍していただろうか。二人はきっと、私なんか軽々と飛び越えて世界へ羽ばたいていっただろう。


 砂漠の砂糖さえなければ……二人が得られた輝かしい未来を……ノアや私がこんな苦しい思いをせずずにすんだのに。



返してよっ!!二人の夢をっ!!返してよっ!!二人の輝かしい人生をっ!!返してよっ!!二人のアイデアがミレニアムを照らしキヴォトスを発展させるはずだった素晴らしい世界をッ!!返せっ!!返せっ!!かえしてよっっっ!!!!



 騒ぎを聞いてノア達がエンジニア部の部室に来るまで二人の温もりの残ったノートを抱きしめて私は半狂乱的に泣き叫けびつづけた。



 卒業式の日、学校を出た私はヒビキとコトリを連れて静かな山奥の湖畔へ引っ越した。

 ヴェリタスのメンバーがキャンプ合宿をしたと言うこの穏やか別荘地はミレニアムの喧騒から完全に隔離されていて二人の療養生活にピッタリだと思ったからだ。

 二人の身の回りの世話、特に入浴とトイレの介護は大変だった。こんなことなら医療介護学も学ぶべきだったかなと後悔もした。

 エンジニア部時代の知識を使えば介護ロボットを使う事も出来たが私は敢えてそれらには頼らず自分の力と身体で二人の世話をしたかった。

 入浴の為に二人を抱きかかえた時、腕に感じる二人の身体の重みや熱、心臓の鼓動がとても心地よかったからだ。


二人は生きてる。私の為に生き続けてくれる。


 それが嬉しかった。二人の温もりを感じられる事とボロボロの枯れ木のような身体に徐々に色と肉付きが戻ってくるのが嬉しかった。

 いつしか二人も笑顔を浮かべるようになり、最初はトラウマ症状を発症させていた部屋の掃除ロボットにも興味を見せるようになって近づいたり触りたがるような素振りも見せてくれるようになった。

 このまま3人でずっと静かに平和に暮らしていきたい、やがて訪れる穏やかな死が私達を別つ日まで……。




私達の住むログハウスにノアがやって来たのは卒業から暫くして3人暮らしが軌道に乗った頃だった。


随分窶れていたノアに驚いた私は彼女を招き入れて事情を聴いた。



私がミレニアムを去った後、私達が砂糖事変の間に行った行為が問題視され、槍玉にあげられていたそうだ。

ミレニアムサイエンススクールに対するバッシングや批判が相次ぎ反ミレニアム派と呼ばれる集団まで生まれたそうだ。

ノア達は火消しに努め、自分達の行為は正しかった事、アビドス側の方がさらに

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