【閲覧注意】褪せた金銀

【閲覧注意】褪せた金銀


閲覧注意!!!!!

・割と何でも許せる人向け

・直接表現有り

・ちょっとメンタルの荒れてる金鹿×いつまで経っても流されっぱなしなツイ廃アイドル(セン)

・妹想い故に言動のやや荒れている鼻穴極小ニキ

・微曇らせ

・現時点ではあんまり救いがない

・不能

・長い(3000文字Over)


*****


 「いま暇?」なんてそっけないLINE一本で呼び出しに応じる僕の価値は果たして重いのか軽いのか、毎回思っていながらも結局今まで聞けずじまいのまま、今日も彼女はオンボロクーペの助手席に収まっている。


「いつもんとこでいーからね」

「分かってる。もう着くよ」


 最低限交わす状況連絡、その合間にちらりと目をやっても目線は交わらない。スマホの灯りに透かされた灰銀の髪は心なしか毛羽立って乾いて見えた……それを口にすることはない。それを僕が聞いたところで──。


「うわ、雨降って来た」


 返事はない。
 もう何回目になるかも分からないのに、慣れない。こんな時間は正直早く終わってしまえばいいと思うのに、その先を思うといっそこのまま時間が止まればいいとも思ってしまう。どっちもかなわないなんて最初から知っているのに。
 軋むワイパーの向こう、水滴で滲んだ【黄金旅亭】の文字に僕が吐いた溜息は、いったい何なのだろうか。もう、それすら分からなくなってしまった。


******


「もう着くよ」

「ん」


 こんな関係は不健全で、倫理に背いていて、早くやめてしまった方が良くて、そして僕は止めるべき立場にいて、それをすべてわかっていながらここまで流されてしまっていて、毎度々々それを反省するふりだけして結局またここに来てしまっていて、それでも結局僕は責任を全てこの娘に押し付けて、甘えて、今日もこうして嫌だ嫌だと思いながらも無責任に彼女を連れてきてしまっている。


「──ゴルハイちゃん、」


 手を差し出せば素直にそれを頼って降りてくる。それが悲しくてしょうがないのも全て僕のエゴだというのに。


「ん。ありがとね──アフおじ」


 ゴールデンハインドの褪せた灰銀の髪越しに今日初めて目が合って、すぐに外される。自動ドアをくぐる背中に投げた僕の「どういたしまして」はそのままなかったことにされて消えた。
 それがどうした?いつものことじゃないか。


「いーや、これはよろしくねぇよ、アフゴ」

「……ファンロン」

「悪ィが親父は休憩中。俺はただのバイトだけどさ、それでも誰を通すか通さねえかの権限くらいはあンだわ……つか正気かよ」


 そんなの、僕自身が一番疑っている。


「ああ、まあよろしくないよ」

「手前ェこの期に及んで開き直りとか、イカれてんのか?まァ随分と年下の姪ッコ連れ込むたァ見損なったぜ」


 イカれてるし、見損なわれて当然だ。いっそそうして身内に裁かれてしまった方が幾らか心が軽くなるのかもしれない、そうであってほしい。そんな風に思い至って乾いた笑いが零れる。


「あのさファニキ、アタシがアフおじのこと呼んだんだけど」

「……は?」

「だからアタシがアフおじにお願いして来てもらってんの。おじーサマにも許可貰ってるし、てかもう何回も来てんだけど」


 予想外の方向から攻撃を受けたファンロンは、それはもう可哀想なくらいに狼狽していた。信じられないものを見る目で彼女を見て、僕を見て、左手で頭を掻きながら手元のタブレットを何やらいじくって、それから彼女の差し出した会員証をしばらく見つめてからひとつ舌打ちをした。


「……癪だな」


 会員証を財布に仕舞った彼女は踵を返してエレベーターへ歩き出していた。都合、ルームキーを受け取るのは僕になる。


「──俺個人としてはクソ程イラつくンだけどな」

「まさかお客さん全員にそんな敵意むき出しなのかい?」

「ンなわけねェだろ、手前ェだけだよインポ野郎」


 ファンロンはバタフライ・ナイフを扱うようにして首元へカギを突き付ける。


「──ユーバーより、……アイツより年下なんだぞ。あの娘は」

「知ってるさ」

「クソが。……どんな心算か知らねェが、一度手ェ出したなら最期まで面倒見やがれよ。適当に流されてンだけなら今すぐ失せな」


ナイフの刃に似たそれを手のひらで包み込んで受け取っても、当然血は流れない。


「ファンロンお前、親父の良くないとこだけ似てきたんじゃないか」

「さっさと行けよ変態」


 どうとでも僕を罵倒して軽蔑してくれ。
 その方が僕は少しだけ救われた気分になる。


******


「……遅い」

「ごめんごめん、3階だって」

 

エレベーターの扉が閉まると同時に彼女の細い腕が左腕に絡みついて、黒いワンピース越しの肢体に宿る熱を伝える。手のひらと手の甲を細く柔らかな10本の指が這いまわる。

 

「くすぐったいよ」

「知ってる」

 

 エレベーターの扉が開く。

 左に曲がって8秒歩く。

 ナイフを突き刺すようにしてカギを回す。

 305号室の扉を押し開ける。

 適当に靴を脱ぎ捨てる。

 

「──叔父さん。」

 

 極めて暴力的かつ突然に唇が押し付けられた。膝を落として高さを合わせて、その背中を支えるように腕を回す。灰銀の向こう、半分閉じられた瞼の奥は読み取れない。

 

「……ッ、何か嫌なことでもあった?」

「別に。なんでもいいでしょ」

 

 首に回された両の腕に無理やり引き寄せられて再び呼吸を封じられて、口内を蹂躙される。柔らかく苛烈なソレにペパーミントの香りを感じながら背筋を撫でる度、甘く息を詰まらせた声が二つの唇の隙間からこぼれる。

 

「ヘンタイ」

「君も大概だろう」

「どっちでもいーし」

 

 ワンピースのジッパーが悲鳴を上げながら下げられて、黒い一枚布が音もなく床に崩れた。磁器のように白く少し丸みを帯びた肢体が薄暗いオレンジの灯りにあらわになる。

 

「どっちでもいーからさ」

 

 手を引かれる。

 

「早くシてよ」

 

 引かれるままに、歩かされる。歩かされるままに、ベッドへ倒れ込む。倒れ込んだままに、唇の雨を落とす。
 か細い声を上げる彼女を、僕はただ見つめ続けることしかできない。心も体も或いは魂すらもがずっと冷めた目で俯瞰し続けている。アフリカンゴールドはどこまでも冷えきったからだで年若い姪に圧し掛かっていた。

 

「はやく」

 

 唇、ミミ、首、鎖骨と唇の触れる場所を変えるのすら、ただ打算的或いはマニュアル的にそうしているだけだった。隙を見て薄桃のブラも外した。あくまで経験と計算に基づいて順番にタスクを──彼女に快楽を与えるタスクをこなしているに過ぎない。


「焦らないで大丈夫だから、ゴルハイちゃ」

「ハインド」

「……時間はまだあるから、焦らないで。ハインド」

 

 彼女は満足気に頷いて、口をふさぎに来る。
 布と肌の間に指を滑り込ませればすぐに口は離れて、悲鳴にも似た息遣いにとってかわられた。

 

「あー……もう脱いだ方がいいと思うよ、これ」

「意地悪」

 

 色白だとやっぱり赤くなりやすいんだな、なんてどうでもいいことを考えているくらいにはやはり僕は冷めている。
 それを見透かしたように彼女の指が僕の懐を撫ぜた。

 

「──やっぱ反応しないんだ」

「こればっかりはね」

「いーんだよ、これで」

 

 ゴールデンハインドはいっそ愛おしげな手つきで、何一つ反応を見せない僕のそれを何度も擦った。

 

「何回シても絶対に何も起きない、ってことでしょ」

「まあ、物理的にな」

「それにさ」

 

 彼女の両足に挟まれていた指が引き抜かれる。自身のそれでてらてらと光を鈍く返す僕の中指に彼女は口づけた。

 

「叔父さんの指、好きだよ。でかいし、でもちゃんと優しいし」

 

 もう一度口づけられてから、再び指は彼女の中にゆっくりと納まる。


「好きだなんて簡単に言うもんじゃないよ」

「好き」


 上体が引き倒されて唇が乱雑にぶつかる。灰銀の向こうに淀んだ光を湛える瞳は僕の方を見ているように思えて、その実僕じゃないどこかに焦点を合わせているようにも見えた。それに気づいて奥歯が軋む音を立てた。君は僕の向こうにだれを見ている?

 

 言葉だけでも好きだというのなら、

 せめて今この瞬間くらいは目を合わせてくれよ。

 

「ぁ──ッ」

 

衝動的に動かした指に呼応した身体が、数度魚のように震えた。

 

「ね、叔父……さん」

「何?」

「すき……って、言ってよ」

 

 ああ。今日も僕は流される。いつから始まったのかすらわからないこんな関係に今日も僕は流されていく。

 

「ハインド……好きだよ」

「あ──はッ」

 

 僕の言葉も偽物に昇華されてしまった。偽物の言葉は心さえも侵食して偽物に変えていく。君が僕の向こうに違う誰かを見ているのだとしたら、今腕の中でふるえているきみはいったい誰なんだ。
 いつまで僕は君を騙し続けなきゃいけないんだ。

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