【閲覧注意/ユハバズ/ユゴバズ】美しき哉、思い出の日々

【閲覧注意/ユハバズ/ユゴバズ】美しき哉、思い出の日々

@ユゴバズスキー


見せつけられるユーゴーとがんばるユーゴーのハイブリッドになった

がんばる部分に突入する直前で終わってるけど、まあいいよね!


ユゴバズ両想い!ユゴバズ両想い!というテンションで書きました

今までよりがっつり?な描写多い気がするので気を付けてください


これって鬱エンドなのかもしれない

そういうの苦手な人には申し訳ないです



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「バズビー」

「……ああ」


名を呼ばれ、丸まっていた背を伸ばす。

この緑の目の前では、まともな自分でいたかった。何故、そう願っているのかは、もはや定かではなかったが。

目的の部屋に繋がる廊下の真ん中で、待ち構えるようにハッシュヴァルトが佇んでいる。会話をせずに素通りすることは許されない雰囲気があった。


「…顔色が、悪い。このところ毎日だ。一晩だけでも休め。陛下には私から奏上して、」

「いらねえ」


頬を撫でられ、幸福に笑んでいた姿を思い出す。そんな笑みを向ける相手に、わざわざ不興を買うような真似をする必要はない。

ハッシュヴァルトは、今のまま、幸せなままでいればいい。

そうしてくれていれば、それだけで。


「しかし、このままではいつか必ず…」

「関係ねえ。…あんたには、関係ねえよ。ハッシュヴァルト」


すぐ隣を通り過ぎても、呼び止める声はない。

諦めたのだろう。それでいい。

バズビーのことにかまけていて、ハッシュヴァルトか不利益を被るなどあってはならなかった。

だから、胸をチクリと刺すような痛みは、気のせいということにした。

そうしなければ、真っ直ぐに立っていることすら難しかった。



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早く終わらせるためと、自ら服を脱ぐことは許されなかった。

一度、せめて前戯の時間だけでもなくすことができればと、中を解してから赴いたことがある。自ら指を突き入れ、仇の欲望を受け入れる準備をするだけでも、血反吐の出る思いだった。しかし、ユーハバッハはそう優しくはなかった。

想像を絶する快楽を、指だけで叩き込まれ、何度も精を吐き出させられ。くったりとシーツの上で崩れ落ちた体を揺さぶられた。

度を過ぎた快楽は苦痛と変わらない。二度とあんな思いは御免だった。


この寝台の上では、指先一つ動かすことにさえ、支配者である男の許しが必要だ。

バズビーにできるのは息を殺し、目を伏せ、素直に快感を受け取ることだけだった。

吠えることも、噛みつくこともしない。快楽の渦に落とされることへの抵抗もせず、嫌悪感には目を瞑る。

そうすればユーハバッハの興を削ぎ、つまらない玩具には飽き飽きだと解放される。

学習して、順応して。もはや就寝前の祈りと変わらない。日常に溶け込んだその行為に、思うところなどない。

あったとしても、忘れた。


そのはずだった。


「あッ…ふ、…あ、ぁ…っ♡」

「頃合いか」

「っんぅ…♡……?」


何の頃合いだろうか。

思い当たる節がなく、内心首を傾げる。男の屹立が熱を吐き出すにはまだ早く、バズビーが達するタイミングはとっくに過ぎた。

既に二度、涙を零すように溢れ出た白濁がシーツを汚している。日々この情事の痕を処理しているメイドのことを考えると申し訳なくさえあった。顔を合わせたことさえないが、未だバズビーとユーハバッハの関係が噂されないあたり、余程口の固い人物なのだろう。


余所事に意識を飛ばしていたバズビーの耳が、ノックの音を拾った。

こんな時間に、ユーハバッハを訪ねる人物が。それを許されるような立場の者が。

果たして、どれ程いるだろうか?


「まさか」


喉の奥で笑う音がする。やめろと叫ぼうとした口に指を突き入れられ、口腔内の粘膜を掻き回された。くぐもった声と涎を零しながら、許可を得て開かれる扉を、見ることしかできない。

白い花が咲いていた。


「御所望の物を…、……へい、か?」

「寝台の近くではこれが暴れて落としかねない。ソファーの前のテーブルにでも置くがよい」

「あ、の……」


目を見開き、僅かに唇を開いて。呆けた顔のハッシュヴァルトには、どこかあどけなさがあった。少年から青年になったばかりの瑞々しさが、普段よりずっと強く感じられる。

かつてバザードと共に暮らしたユーゴーの面影が色濃く残る表情で、仇敵に抱かれるかつての友を見て、ハッシュヴァルトは。


「…その男は、何か…粗相でもしましたか」


見なかったことにしてくれたら。

いっそ罵り、嘲笑ってくれたら。

忘れようと努めることも、憎しみを抱くこともできたはずなのに。

ハッシュヴァルトはただ、物憂げな顔で組み敷かれるバズビーを見ていた。

コトリ、と音を立て、エーデルワイスの挿された花瓶がテーブルに置かれる。


「私の命を狙っているなどと嘯いていたが。終ぞ危害を加えられたことはないな」

「それは、…陛下の御身に、何事もなく…喜ばしい、ことです」


喜ばしいものか。

暗い目で見つめてくるかつての友に、憎い男の手によって痴態を晒すバズビーの心情など、一切無視した言葉だった。

危害を加えられたことはないという言葉の裏に、「そんな気を起こしても一切問題はない」という余裕の滲んだユーハバッハの言葉も、バズビーの胸を深く刺し貫いた。

ああ、そうだ。バザード・ブラックは、この男を殺してやるのだと、かつて父母に誓ったのだった。


シーツの海を泳いでいた腕を持ち上げる。掌に、霊子が収束する感覚。

忌々しい熱に貫かれ、揺さぶられていようとも。

この距離なら、外さない。


「陛下!」


ああ、やはり、そうなのか。

お前が呼ぶのは。真っ先に、その身を案じ、動くのは。


白い手がバズビーの腕をシーツの上に縫い留めていた。手の内側に掴んだ矢は、ユーハバッハの指先が触れるとあっさり崩れ、奪われる。

ハッシュヴァルトが、バズビーを見下ろしていた。不届き者の両の手を抑え込んだまま、敬愛する主君の指示を待っている。


「そのまま手伝うがよい」

「…手伝う、とは」

「それの抵抗など児戯に等しいが、いちいち躾けるために手を止めるのも面倒だ。ハッシュヴァルトよ、お前が抑えておけ」

「…承知、いたしました」


寝かされたバズビーの頭を挟んで、ハッシュヴァルトが両膝をつく。大の男、三人分の体重を乗せた寝台が、僅かに軋む音を立てた。


「ヘンタイジジィ…」


バズビーが呻くと、ユーハバッハは喉の奥で笑い、ハッシュヴァルトは眉間に皺を寄せる。後継者と定め、息子と呼び、誰よりも自らに尽くす青年に、その知己を犯す手伝いをしろと命じるなど、正気の沙汰とは思えなかった。

抵抗を封じられたままの両腕を見て、ユーハバッハが抽送を再開する。普段よりもずっと緩やかな動きに、男の意図を悟って苛立ちが募る。この時間を、長引かせようとしているのだ。


「さっさと、終われよ…ッ」

「ほう?…では、ハッシュヴァルトよ。これを昂らせるため、手を貸せ」

「は…!?なに、言って…っ、ぐ…」


言葉を封じるように、蓋をするように。一気に奥まで刺し貫かれ、仰け反って震える。視界には金糸を幕のように垂らした青年が、唇を震わせる様が映っていた。

ああ、そうだろうとも。ハッシュヴァルトが、バズビーに触れたがるはずはない。

頬に触れられることさえ、嫌っていたのだから。


「陛下の興を削ぐようなことは、私には」

「他ならぬ私が許している。それでも問題があると?」

「…いえ。仰せのままに」


腕を掴んでいた手が離れ、そろりそろりと、遠慮がちにバズビーの胸板に触れる。柔らかく弾力のある筋肉を、白く美しい、しかし確かに男のものだとわかる大きい手が揉みしだいた。他の部分にも触れてみろと主君に促されるまま、青年の手は徐々に遠慮を失くし、バズビーの胸の飾りに触れて苛んだ。


「あ、あ…ッ♡や、めろ……やめろォ…ッ!」


甘ったるい声が漏れる。その声を出させているのが、ハッシュヴァルトであるという事実に、耐えきれなかった。きゅうと目を瞑り、荒い息を繰り返す口を閉じ、奥歯が砕けても構わないとさえ思いながら、力いっぱいに食いしばる。


「っぐ……ぅ……ッ♡……ん、ぐ……っ♡」

「口を開けさせろ」

「…はい」

「っ、あ…ッ♡あ、あああっ♡う、ぁ、あっ♡」


唇を割り開き、指を入れられる。思い切り噛んでしまえればいいのに、それがハッシュヴァルトのものだと思うと、ほんの少しの躊躇が生まれた。

その隙を狙ってユーハバッハに腰を打ち付けられ、全身を震わせながら律動を受け入れるしかなくなる。耳を塞ぎたくなるような声と、音とが、ひっきりなしに鳴り響く。

いよいよユーハバッハが熱を吐き出す頃には、押さえつけるものもなく自由になったバズビーの両手は、ハッシュヴァルトの腕を掴んでいた。縋るように、引きずり込むように。ただそこに腕があったからなのか、無意識に助けを求めたのか、他に理由があったのか。自分でもわからないまま、腹の奥をかき回していた熱の塊が抜き去られると同時、腕からも力が抜けてぱたりとシーツの上に落ちた。


「はぁ……はあ……っ」

「ハッシュヴァルトよ。あとは好きに使うとよい」

「は……」

「使わぬのか。ならば捨て置くがいい」


男の気配が寝台から離れていく。残されたのは荒い呼吸を繰り返すバズビーと、それを見下ろすハッシュヴァルトだけだ。

衣擦れの音がした。ハッシュヴァルトの指先が、バズビーの頬を撫でる。

途端、緊張に体が強張った。


「や…やめろ……それ、だけは…」


ユーハバッハは「好きに使うとよい」と言った。寝台の上、素っ裸で転がされた、排泄器官を雌穴に変えられた男を、何に使うのか。

答えは明白で、しかしハッシュヴァルトがそれをすることなどあり得ないと、そう思っていた。

しかし、頬を撫でる指先に、それ以外の理由などあるのだろうか。きっと友情も、愛情も、抱いているのはバズビーだけで。

何の情も持たない青年の指に宿る熱は、欲望以外の何物でもないはずだ。


「やめて、くれ……お前に、だけは、嫌だ…ッ」


憎い仇が相手でも、耐えられた。心のどこかで、大切な誰かのためだと思うことができたからだ。

しかし、その誰かに、玩具のように抱かれたら?

耐えられるはずがないと怯えるバズビーを見下ろす、ハッシュヴァルトの表情が歪む。


「…お前に、拒否権は、ない」



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ずっと昔。頬を撫でられたことがある。

泥をつけた自分を笑い飛ばし、白い歯を見せたその顔を、直視できなかった。

触れられた部分が、いつまでも熱を持っていて。そんな気持ちを抱く自分が、汚れている気がした。


ぼんやりと天井を見上げているバズビーが、何を考えているのかはわからない。

仇敵の命を狙うも捻じ伏せられ、女のように抱かれ、…終いには、かつて友人だった男まで、その行為に加担して。

傷ついていないはずがなかった。


ハッシュヴァルトは、バズビーへ――バザード・ブラックへ、友情の一言では片付けられない想いを抱いていた。それが捻じれ、拗れて、奇妙な形で凝り固まったままここまで来て。父のように慕い、神のように崇める存在に組み伏せられている姿を目の当たりにして、すっかり心の枷が緩み始めていた。

慈しんでやりたかった。慰め、甘やかして、もう大丈夫だと囁いてやることができれば。

しかしその資格は、ハッシュヴァルトにはない。裏切りと呼べる行為を働いた、その自責の念が、ハッシュヴァルトを押し留めていた。

主君から賜った権利も、使うことなく終わるだろう。自由にしていい、と言われても、身体的にも精神的にも疲労困憊のバズビーに、これ以上の負荷をかけることなどできるはずがなかった。


ただ、少しでも慰めになれば。そう願いながら、頬の輪郭を指先でなぞる。未だ自分の中に、君への情は残っているのだ、と。少しでも、伝わればいいと。

そう、願っただけだった。


「や…やめろ……それ、だけは…」


弛緩していた身を強張らせ、目を見開き。バズビーが見上げてくる。ユーハバッハに抱かれている時でさえ見せなかったほどの恐怖が、その瞳に滲んでいた。

頭を殴られたような気分だった。何故、自分にはこの程度の接触も許されない?


「やめて、くれ……お前に、だけは、嫌だ…ッ」


明確な拒絶が、胸を貫いた。眩暈がする。記憶の中で笑っていた少年の顔が、思い出せなくなっていく。思い出すのは、あの憎しみに染まった瞳だけだった。

そうか、そんなにも。家族の仇よりも、自分が憎いと言うのか。


胸の内に、冷たい感覚が広がっていく。反対に体は熱くなり、思考も靄がかかっていた。

怯えた視線を向けてくる青年に、自分を受け入れさせたいという衝動だけが、ハッシュヴァルトを突き動かしている。


「…お前に、拒否権は、ない」


そんな目で、見るな。



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グラスを傾けつつ、暖炉の光を浴びてほの赤く染まった白い花弁を愛でる。

背後から聞こえる嬌声に挟まれた許しを請う言葉も、男にとっては小鳥の囀りと同じだった。

後継者として、息子として。常に気に掛けてきた青年が、年甲斐もなく夢中になる玩具を与えられるとは。気まぐれに手渡したものだが、想像もしていなかった結果となり、口元が緩んだ。

気に入ったのなら、あとは好きにさせておけばいい。歳に似合わぬ激務をこなす身だ。息抜きにはちょうどいいだろう。


しかし、困った。息子が遊び場にしているのは男の寝台である。

今夜はまだまだ眠れそうにない。

仕方なく、空のグラスを再び満たすことにしたユーハバッハだった。


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