【閲覧注意/ユゴバズ】millennium

【閲覧注意/ユゴバズ】millennium

@🎲

とても難産だった

そのわりに大して中身が詰まってないっていうのは禁句でしゅ


ショタユーゴー×大人バズ、大人ユーゴー×大人バズ、どっちもある

あるけど大した描写はない


えっちな文章書けないンゴ



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確かに死んだ。そのはずだった。

失ったはずの右腕の感覚がある。幻肢覚というものだろうか。あるいは走馬灯の中、在りし日の肉体を想像しているのか。

走馬灯と考えたのにも理由がある。頭上から降り注ぐ木漏れ日、頬を撫でる風、漂う草の匂い。それらに覚えがあった。

極めつけに。


「それでさ、値段を吊り上げてやがったんだよ。ま、俺はバッチリ見抜いて逆に値引きさせてやったけど!」

「騙されてるんじゃないの?」

「どーゆー意味だよ」

「最初からそれが適正価格で…」


まだ幼さを残した少年二人分の声。片や少年時代の自分自身であり、片や走馬灯を見ている原因。要は、自らの命を奪った男が少年だった頃だ。

懐かしい。苦い喜びと甘い痛みが胸を刺す。たまらず胸をかきむしるように服を掴んで、やはり右腕が残っていると確信した。

記憶の再現と呼ぶには不出来な声のやり取りだけのものだったが、それでもよかった。意識が終わる瞬間まで、ここでこうして、二人の声を聞いていたかった。


「はあ?なわけねーだろ!…ねえよな?」

「知らない。ぼくだって実際には見てないし」

「…ちょっと確認してくる!」

「あ、バズ!昼からの鍛錬はどうする、の…って、もうあんなところまで」


寝転がっていた茂みの側で、青草を踏んで駆けて行く音がした。続く足音はすぐにペースを落とし、すぐ近くで立ち止まる。遠ざかる足音の持ち主の背中を見つめているのだろう。

二人揃ってここに居ればよかったのに。残された少年が延々と独り言に耽るはずもなし、このままでは側にいるのに声も聞けない。


「あの…大丈夫ですか?」


木漏れ日と同じ柔らかさで降ってきた声に、閉じていた目を開ける。

翠の目が仰向けに倒れた己を映していた。金の髪は風に揺れ、まだ丸みのある幼い輪郭を見え隠れさせる。下がった眉には少年の気弱さが滲んでいた。

そういえば彼は、よくこうして困った顔をしていたのだった。

何の感情も映さない鉄面皮を長く見続けて、懐かしいはずのそれが新鮮にさえ思える。


「ユーゴー…」

「…どこかで会ったこと、ありますか?」


記憶の中の存在に見つかるとは予想外だった。声を聞くだけでなく、目を合わせ、言葉を交わすことができる。

千年間の孤独を埋めるには、充分過ぎる。己の脳内で起きているにしては上出来だと言うべきか、あるいは己の願望が反映されているからこそか。

理由はどうでも良かった。ただ、この時間をできる限り長く、深く、受け止めていたい。


「さっきまで一緒に居ただろ」

「…まさか」


後に続いた言葉に頷く。少年だった頃のユーグラム・ハッシュヴァルトが記憶の中のものと寸分違わぬ驚き顔を見せて、バザードはたまらず声を上げて笑った。



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遠い記憶の中ではぴったり体に馴染んでいた家具を、少し小さく感じる。走馬灯というものは、意外に細かな部分まで作り込まれているのだなと感心した。

バズを呼びに行こうか、と尋ねられ、バザードは首を横に振った。自分を呼ぼうか聞かれるというのも妙な話である。ふわふわとした夢心地の中、気の緩みが口元に表れるのを止められない。


「自分に出会うのってまずい気がするだろ」

「未来が変わるから?」

「たぶんな」

「ぼくに会うのはいいの?」

「さあ。でも見つかった以上は仕方ねえよ」


実際のところ、未来が変わるはずもない。これはバザードの脳内で起きている記憶の再現と空想の合わさった何かだ。

若い自分を見て懐かしさに浸るより、二度と相容れることのなかった友人との穏やかな時間を追体験したい。その思いを優先したまでだった。


「…未来のこと、聞いてもいい?」

「いいぜ。答えるとは限らねえけど」


遠慮がちに問いかけられ、にこやかに返す。自分でも驚くほどに気分が良かった。今ならどんな質問にも、笑顔でいられると思う。


「ぼくは、強くなれた?それとも、まだ…」

「強い」


以前のバザードであれば苦い顔をしていたであろう質問にも、優しく目を細めて返すことが出来る。

死は終わりだ。千年の長きに渡って続いた鬱屈も、憎悪も、焦燥も、郷愁も、生命と共に終わった。あらゆる感情を脱ぎ捨てて、奥底にしまっていたやわらかい親愛の情だけを持って接することができる。


「お前は、強いよ」

「…そう、なんだ。ふふ、そっか…!」


目を丸くしているユーグラムへ、肯定の言葉を重ねる。丸まっていた目の形がすっと細められて、口角が上がる。窓から差し込む光に照らされて、その姿はキラキラと輝いて見えた。

こんなに嬉しそうな顔を見せるのなら、あの時も素直に認めてやれば良かった。ツキンと胸を刺す後悔には目を瞑る。悔いたところで、過去は変わらないのだから。

この時間を楽しく過ごす方が、ずっといい。


「バズは?」


きっと自分よりずっと強いのだろうと、そう尋ねた言葉だとは理解できた。

素直に答えてやれば、何か変わるだろうか。俺の強さはお前のおかげで、足元にも及ばず斬り伏せられる未来があると伝えれば、あの別れもやって来ないのか。

死の間際の空想に、何を真面目に考えているのだろう。バザードは小さく笑い、答えの代わりにつまらない冗談を口にした。


「恋人って言ったら信じるか?」


あまりに現実感のない冗談だった。すぐに嘘だと気付き、そんなことを聞いているんじゃないと、膨れ面でも見せるのだろう。

しかし、バザードの目論見は外れた。


ぽかんと口を開けたユーグラムの顔はなかなかに間が抜けている。頬には朱が差し、眦までもが色づいていた。

僅かに潤んだ瞳を向けられて、心臓が跳ねる。

何か、とんでもないことを口にしてしまった気がした。


「本当に…?」


何かを期待している。何を?

答えは明白だった。


この時間は一体何なのか。間違いなく、バザードの走馬灯、夢のようなもののはずだ。

その中に現れたユーグラム・ハッシュヴァルトが、冗談のつもりで口にした「恋人」という言葉に、色よい反応を見せた。

彼はあくまでバザードの記憶と願望が産み落とした存在のはずである。


つまり、本当にそれを望んでいるのは。


「…ああ、本当だぜ」


きっと、バザード自身なのだ。



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幼い丸みを残した頬を撫でると、ユーグラムは目を伏せた。睫毛の影が落ちた目元をなぞり、耳の後ろへ指を滑らせる。


「だ…駄目だよ、こんなこと…」

「嫌ならやめる。お前に嫌われちゃ、この時代の俺に悪いしな」

「嫌じゃない、けど…」


胸が苦しくなる。

嫌ではないと口にさせているのは、バザードの身勝手な願望に他ならない。現実のユーグラム・ハッシュヴァルトは、こんなことを望むはずもなかった。

こうして言葉を交わせる時間があるだけでも、過ぎた幸福だと言うのに。一人遊びで人形を動かすように、思うままの反応をさせている自分は、きっとどうしようもなく汚らしい。

しかし、開き直るだけの材料もあった。現実に命を奪われたのだから、妄想の中でくらい、甘い夢を見てもいいじゃないか。


「キスは」

「…それくらい、なら」


末尾の音が空気に溶けるより早く、小さな唇に自らのそれを押し当てる。柔らかくて、温かい。うまく焦点の合わない視界の中、金色の睫毛が震えているのが見える。

ちゅ、と軽いリップ音を立てながら唇を離す。ついでに軽く下唇を食んでやると、ユーグラムが目をきゅうっと瞑ったまま、顔を真っ赤にして身を震わせていた。今までしてきた、どんなキスとも違う感触だった。

興奮している。目の前の少年だけでなく、自分自身も。

立ち上がってユーグラムの隣に位置を変えれば、服の上からでもわかる昂りが手の届くところにあった。


「こんなになってる」

「み…見ないで…恥ずかしいから…!」

「抜いてやるよ」


掌に唾液を垂らしてから下衣の中に突っ込み、少し乱暴な手つきで上下に扱く。若さ故か、すぐに鈴口から溢れた液と唾液とが混ざって、粘着質な水音が響き始めた。

か細い声で「だめ」と繰り返しながらも、ユーグラムは息を荒げ、バザードの手から逃れようとしない。どころか、甘えるように身を寄せてくる。


「駄目じゃないだろ?」

「…っ」


耳元で優しく囁けば、息を飲む音が聞こえた。不安と期待の混ざった瞳で一瞥され、微笑みを返した。

服を脱がせていないせいで、下着はすっかり濡れ、太腿に張り付いている。このまま出させようと惨状は変わらないが、少しもったいない気がした。

どうせなら、もっと強く、深く、繋がりたい。


「これ、俺の中で出したいって思わねえ?」


今や耳まで赤くしたユーグラムが暫し固まった後、ぶんぶんと首を横に振った。しかし少しの間を置いて、おずおずと口を開き。


「…僕としたの?」


可愛い反応だと思った。緑色の瞳には未来への期待と羨望がある。そんな顔をさせているのはバザードの願望に違いなく、見たこともないような顔を、よくもまあ自然に作り出せるものだと、自らの想像力に感心した。


「なあ…今しないと、長いことお預け食らうんだぜ?」

「長いことって…どれくらい…?」


揺れている。

実際には何年経とうが肌を重ねることなど一度もなく、笑顔を交わすことさえなく。

ただ、殺し合いとさえ呼べない戦いを経て、別れるだけだ。


だが、そんな現実、この夢の中に持ち込む必要はない。


「千年」


そんなの嘘だ、と笑い飛ばされてもおかしくはなかった。しかしユーグラムはそうせず、遠慮がちな動きではあったが、バザードの上に伸し掛かってきた。

受け入れる側になることへの抵抗はなく、そう焦るなとユーグラムをベッドに誘い込むと、膝裏を抱えて男に媚びる雌のような姿勢をとっていた。

夢と言うのは便利なもので、一度も弄ったことのないはずのそこが、すでにぬかるんでいる。まるで、つい今しがた誰かに解されたようだった。


自分の上に乗って必死に腰を振る少年の、真っ直ぐな愛情に貫かれる。


「すき、すき…っ」

「…俺も、好きだ…」


好きだった。好きだったんだ。

今更気付いたって遅かった。けれど、それでも。

どうしようもなく、お前が欲しかった。


そう、言えたらよかったのに。



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確かに死んだ。そのはずだった。

妙にぐらぐらと揺れる視界の中、石造りの天井が見える。失くしたはずの右腕の感覚も、存在している。

これはあの走馬灯の続きだろうか?


「あ…?…ぅああッ!?」


脊髄を駆け抜ける暴力的な感覚の束。神経一本一本を刺し貫くようなそれに、背を仰け反らせる。

浮いた腰を沈めるように、何かが伸し掛かって来る。と同時に、下腹部から脳に上がって来る感覚が強まった。


「ひッ……ぃ、…な、に…?」

「目が覚めたのか」


緑色の瞳に、覗き込まれる。

瞬間、体験した覚えのない過去が蘇った。


挑んだ瞬間の、傷ついたような表情。少しの抵抗も許さず捻じ伏せる腕。混乱のまま城内の奥まった区画にある部屋に連れ込まれ、そこで。

そこで、どうなった?何故自分は死んでいない?殺されもせずに、何故、こんなことになっている?


「お前は言ったな。『千年』と」


鼓膜を震わす重低音が体中に響き、不随意に身を跳ねさせてしまう。そうして身動ぎすると、嫌でも接合部の感覚が強まった。そうして余計に身を震わせることになる、悪循環だ。

「千年」と告げたのは現実のユーグラムにではなく、夢の中の少年相手だ。では何故、目の前にいる星十字騎士団最高位の男が、それを知っている?必死に考えるも、体中を満たしていく快感が邪魔をする。


「待った先にあるものが、裏切りと離別なのか」


空気が震えている。漠然と後ろめたい思いの生じつつあるバザードの抱いた錯覚は、あるいは男の怒りがそうさせているのかもしれなかった。

あの走馬灯が、走馬灯でなかったら。それなら、どうだろう。千年前に愛し合ったはずの相手が、約束の千年を経て、殺し合いのために現れたら…?


「許さない。決して、この腕の中から、逃しはしない」


緑色の瞳は昏く、しかし同時に爛々と輝いても見えた。

自分はどうなってしまうのだろう。そもそも今、どうなっている?


「償ってくれ。君のすべてで」


ただ一つだけ分かるのは、欲しいと願った男が、バザードが相手に願う以上に、バザードを欲していたということだけだった。


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