15歳の絶望、閑話 エニエス・ロビー編 《蒼翼》のルフィ vs 《天才》ロブ・ルッチ 前編
ヱ四閲覧注意!
駄文です。キャラの崩壊があります。オリジナル設定、技等をふんだんに盛り込んでいます。何よりも作者初の戦闘描写です。
恐れるものがなければ先に進んでください。
連れ去られたロビンを追うウタとルフィは、海底を通る地下通路を走っていた。
「この扉の奥ね…!」
「おおー、スゲえ隠蔽だな」
チムニーたちがいなきゃマジで気づかなかったかもしれん。と独りごちながら、ルフィはウタを先導して長い廊下を駆け、…ようとして、立ち止まった。
「ウタ」
「何、ルフィ」
声を掛けられたウタが振り返る。ルフィの声には常の余裕が漂っていたが、その中に隠しきれない『固さ』があるのを、長年の付き合いから感じ取ったのだ。
「この先で待ってるやつ、たぶんあの鳩のヤツだ。強いからおれが抑える。お前先にいけ」
「え、二人で戦ったほうが…」
「ダメだ。お前の”行進曲〈マーチ〉”があっても時間食うかもしれねえレベルだ。別格の気配がプンプンする」
警告に息を呑む。ルフィがここまで言うのは相当のレベルだ。よっぽどのことがない限り自分を尊重して、挑戦の機会をくれる彼らしくない強引さに、敵手の強大さを感じる。
「勝てるよね…?」
「勝てる。流石に大将クラスじゃねえ。一人でも相手できる」
でも、と一呼吸置いてルフィが続ける。
「予想外の仕掛けぐらいはあるかもしれねえ。正義の門までロビンを連れて行かれたら負けなんだ。時間を稼がれたくねえ。だから先にいけ」
「…分かった」
かくして、ルフィたちはためらいの橋内部にたどり着いた。待ち構えていたのはCP9最後にして最強の刺客、ロブ・ルッチ。まだ拙い見聞色でもって彼を『見た』ウタは、その凶悪な気配に戦慄した。
(なんて強大な…!司法の等にいた時は距離が離れていたからわからなかったけど、この人ホントに、格が違う!)
「きたか、海賊」
ルッチの一挙一動から目を離せない。常日頃から格上の気配に触れているのに、それでもなお怯みかねない圧倒的な存在感。それはまるで、こどもが大型の肉食獣をまえにしているかのような…
「落ち着け、ウタ」
ルフィがウタの背を叩いた。それだけでウタは落ち着きを取り戻す。そうだ、自分には世界で一番頼りになる副船長がいる。何も怯えることはない。
「ごめん、呑まれてた」
「大丈夫だ、おれが抑える」
二人は短く言葉を交わすと、駆け出すために身をかがめた。だが相対していたルッチは二人を制止するようにスッと片手を上げると、
「まず、歌姫。貴様はここを通っていい」
平然とウタに道を開けた。
「…は?」
「…へぇ、そうきたか」
ルフィは意外そうに、しかし得心がいったと頷いた。敵も考えることは同じらしい。
「おれ一人で貴様らを倒すことは不可能だ。だから貴様は通っていい。この先で長官の護衛たちが相手をしよう。その代わり、貴方はこの場に足止めさせてもらう、ルフィ元少佐」
「…だとよ。おれたちからすりゃ願ったりだ。いけよ、ウタ」
「分かった。任せるからね、ルフィ」
「おう、任せろ、船長」
うなずきを交わして、ウタは駆け出した。ルッチの横を通り過ぎる際に一応警戒をしたが、当のルッチはそちらに目もくれない。そのままウタはロビンを追っていった。
「…通したのはわたしですが、構わないのですか?一人で行かせて」
ウタの姿が見えなくあると同時に、居住まいを正したルッチが口を開いた。
「構わねえよ、おれの船長舐めんな」
「驚異は正しく認識しているつもりです。ウタウタの実の能力者、なんの対策もしていないとお思いで?」
「それを想定してねえと思ってんのか?」
「…でしょうね。護衛についているフーは、アレでも天才と呼ばれた男ですが…監獄で腑抜けたヤツでは彼女の相手には足りませんか」
敵を通したというのに一向に笑顔を崩さないルッチを見て、ルフィは怪訝そうに眉をひそめた。
「つーかお前、なんだその喋り方。おれの一個上だろ、確か」
「上司ではなくとも、強者には一定の敬意を払うものです。ましてやそれが、わたし以上の実力者ならなおさらです」
「…わかんねえな。不利を知っててわざわざおれを真っ向から足止めする意味あんのか? おれたちから時間をかせぎたいなら、他のクルーの襲撃をほのめかしながら逃げ回ってりゃよかっただろうが」
ルフィが引っかかっていたのはそこだった。海兵としての経験が、『相手にやられたら最も嫌なこと』を導き出していたのだ。自分以外のクルーなら容易く殺せる存在をチラつかせながら妨害に徹する。これが最も対処に苦慮するだろう手法だった。それがわからないCP9ではないだろうに、何故…?
「それでは最初の速攻をしのげなければ丸裸でしょう。貴方が相手の任務で分の悪い賭けをしたくはありませんでした。それに何より……」
《フッ…》
一拍を置いて音もなく姿を消したルッチ。視界に映らないほどの高速移動を可能にする体技、”剃”を用いて、背後からルフィの頭蓋を砕きにかかる。
《ガッキィィィン‼‼》
「……かの《蒼翼》の力、ぜひ確かめさせていただきたい」
「……いいぞ、手早く済ませてやる」
ルッチは高揚していた。久方ぶりの骨のある相手、それも『殺して構わない格上の六式使い』という極上の獲物を相手に、彼の生来の血を求める獣性が顔を出していた。
(まさかあの二代目英雄を相手にできる機会が、こうも早く回ってくるとはな…)
ルッチはルフィを知っていた。海軍の英雄ガープの孫にして、二代目英雄と目されていた天才、モンキー・D・ルフィ。入隊より二年で莫大な功績と多大な違反を上げ、階級を乱高下すること20回強。従軍当時の最高階級は大佐だったが、功績からして降格を受けなければ中将の地位も硬かっただろうと噂されていた。12年前、詳細の明かされない罰則で少佐に階級を落とされ、その後突如として海軍を去ったと聞いていたが、まさか海賊になっていたとは。
(様子見などできない格上なのは、先程の一合で分かった)「”生命帰還・紙絵武身”」
能力に依る変身形態を、高速戦闘に特化したものに切り替える。おそらく六式の練度ではかなわない。ならば速度域だけでも同じ領域に登らなければ、足止めにもならないだろう。
「へぇ、紙絵を常態化して体を『引き絞ってる』のか。器用だな」
「”嵐脚・乱”」
会話には取り合わずに攻撃を加える。とにかく先手を取って、対応を限定しなければならない。斬撃の乱れ打ちの陰に隠れて接近、背後から尾を交えた組付を…!? いない、どk「でもその詰め方は甘ぇ」
《ドスッ!》
「ガァッ!?」
引き絞られ、密度を増したはずの筋肉の鎧が容易く貫かれた。信じがたい練度の指銃。技の入も、肉薄も見きれなかったことに、想像以上の実力差があったことを確信する。
慌てて距離を開ける。ルフィは追ってこない。余裕だろうか、などと考える暇もなく次の手を撃つ。
「”嵐脚・凱鳥”!」
「”嵐脚・凱鳥”」
放つのは鉄すら立つ大斬撃。嵐脚の中でも高級技に数えられる大技だ。回避されたところの間隙を狙って攻撃を繋ぐ算段だったが、あろうことか『後出しで出されたより巨大な』同じ技に相殺される。
「技比べじゃおれには勝てねえぞ」
「…そのようだ…!」
戦略を変える。手札の大部分が同じならば撹乱は無意味。正面から破るには練度が不足。ならば相手にはない、かつ尖った手札で得意を押し付けるしか無い。
「ゾオン系こそ迫撃戦最強種…! 貴方はパワーで圧殺させてもらう!」
「六式と能力の融合…。つくづく天才だな、ロブ・ルッチ」
ルッチの考えを察したのか、ルフィが感心したとばかりに称賛の言葉を投げてくる。(嫌味か!)と苦々しく思いながらも、口を開く余裕がない。
「”生命帰還解除”、”豹形六式・黒爪”…!」
人獣形態をもとに戻したルッチが、両手の爪を掲げる。黒く染まる凶爪は、ルッチが武装色の覇気の境地の一つ、”武装硬化”に至っている証明だ。
「……CPが覇気を習得するのはイージスに上がってからって話じゃなかったか?」
「貴方が海軍を抜けて以来、海賊共が調子づいたからな。我々も戦力を強化せざるを得なかった」
「ああ、なるほど。つまるところおれのせいか」
因果は巡るな。とつぶやくルフィ。その言葉は決して大げさではない。現役時代のルフィは様々な功績を上げ、血筋、功績、実力、若さなど、様々な要因から海軍の『次代』の顔とも呼べる存在だった。そのルフィが海軍を抜けたことで、かれの影響で抑えられていた海賊は少なからず勢いづいたのだ。特に偉大なる航路前半の海ではその傾向が高く、にわかに勢いづいた海賊の対処のため政府は戦力の強化に舵を寄せた。その際の方策の一つがルッチたちを始めとするCP9上級エージェントたちへの『覇気』の伝授だった。
「この’”黒豹六式”であなたを八に裂く」
「やってみろ」
「「……」」
一瞬の静寂。
「ゴォアアアアア!!!」
猛獣の咆哮を上げて袈裟斬りに黒爪を振るう。嵐脚の要領で振るわれた腕は、ためらいの橋の支柱に深い爪痕を残しながらルフィを両断せんと迫る。だがまだまだルフィからすれば対応できる速度、容易く避けられるだろう。『普通なら』。
「!」
なにかに気づいたルフィが避けようとする脚を自ら止めた。直撃する斬撃。当然のように武装色で無傷に終わるも、ガードの硬直を見逃すルッチではない。
「”指銃・黄蓮”!」
片手での指銃の連撃で更にガードを強いる。その場にルフィを釘付けにしたまま、空いたもう片方の手に覇気が集約していく。
「”五指銃・激”!」
「…ッ”鉄塊・g《ゴキィッ!》……ッグゥゥゥ!」
直撃、その戦いで初めてルフィにまともに攻撃が通った。鉄塊が固まり切る前に脇腹に炸裂したルッチの左手は、辛くも内蔵を残して彼の筋肉をこそげ取っていた。
「グッ…くそ、壁を狙っておれに『庇わせる』か。なかなか策士だな、お前」
「褒め言葉として受け取ろう。貴方を相手に手段を選んでいられないのでね」
そう、他のクルーでは荷が重い相手であるルッチを倒すために残ったルフィは、同時にクルーたちの退路を確保する必要があった。そこに先程の、鉄材を容易く切り裂くルッチの攻撃をみて、壁の外が海水であるこの部屋をこれ以上壊させるわけには行かなくなった。実質ルフィはこの部屋での戦闘における『回避』という択を縛られたのである。
「その傷でどこまで戦える。いかに貴方といえど、この部屋をかばいながらわたしを相手に無傷とは行くまい」
形勢の逆転を確信する。右の脇腹からの大出血は、死にはしないだろうが確実にルフィの体力を削り続けるだろう。これならば格上のルフィが相手でも喰える、とルッチは唇の端を吊り上げた。
それがいけなかった。ルッチはこの時点で間髪をいれずに攻勢を維持するべきだった。彼という天才が確かに与えた痛打は、ルフィを本気にさせるのに十分な引き金となってしまった。
「……しょうがねえ、ホントは温存しときたかったんだけどな」
いつ大将が動員されるとも限らねえんだ、とつぶやきながら、ルフィはおもむろに右手を心臓に打ち付けた。
《ドックン……ドックン……》
一拍を置いて、ルフィから鼓動の音が響く。同時に開放される莫大な覇気。ルッチは顔色を変えて飛び退り、大きく距離を取った。
取ってしまった。
「……いいのか、来なくて…」
「……?………!? クッ! しまった! (何を呆けてみていたんだおれは!)」
いつの間にか、ルフィの出血が完全に止まっていた。水袋に切り傷を着けたように溢れていた血はこの数瞬で固まりきり、信じがたいことに肉眼でわかるほどに高速で治癒を開始していた。
「(バカな! なにかの能力か!?)」
報告にあったゴムゴムの実の能力に再生能力はなかったはずだと、瞠目したルッチは見聞色を集中させた。最低でもどのような原理で傷が回復するのか看破しなければ勝ち目がない。
そして傷の回復を忸怩たる思い出観察すること数秒、ルッチはルフィの体に起こっている異変の招待を看破し、今度こそ完全に言葉を失った。
「”生命帰還・完全掌握”」
「…バカな……生命帰還!? 生命帰還だというのか!? それが!?」
”生命帰還”。ジオマンス、或いはバイオフィードバックとも呼ばれるその技術は、多細胞生物の発達神経の限界を超えさせる事ができる頂上技術。ルッチ自身も多用するその技は、ある意味で六式の根底とも言える技術であり、政府諜報機関の超人たちであれば、大なり小なり扱える基礎の技法だ。
だから分かる。《天才》ロブ・ルッチには解ってしまう。目の前で行われるそれが、『全身の細胞全てを完全に掌握し、同時にコントロールする』という現象が、どれほど桁外れの技術に支えられているのかが。あまつさえその神域の技術を、僅か27の若さで体得している男がいるという、怖気の走る事実と、その驚異を。
ルッチの目の前で、先刻着けたはずの傷がみるみる修復されていく。早送りのように、細胞が繋がり、血が増産し、肉が膨れ、皮が被さる。
そしてついには…
「…完治」
「バ、化け物め…! 貴方は、お前は本当に人間か…!?」
たまらず叫ぶ。冷徹な執行官であるロブ・ルッチをして、畏怖を隠せない。
スパンダムの言の通り、六式使いは超人だ。超人だからこそ分かる。今披露されたあ絶技は確実に人間の範疇を超えていた。であれば目の前の男は、悪魔か、或いは神か…
ルッチの絶叫めいた問にルフィは目を見開くと、自分を嘲笑うように口を開いた。
「……人間だよ。正義も、矜持も拾いきれなかった、半端者の人間だ」