開き直り

開き直り

Nera

海賊と海兵、どちらが世界政府を恐れているか。

それは海兵である。

世界政府の強大さを知っているからこそ彼らはその崩壊を死守しようとする。

世界政府が崩壊したら大海賊時代が更に加速するからだ。



「ねえルフィ……本音を話しても良い?」

「いいぞ」



海軍に所属していた男女は理不尽に世界政府に狙われていた。

“海軍の歌姫”として活動していた女は世界政府を設立した王族の子孫に狙われた。

この世の神のように振舞う天竜人に奴隷にされようとした歌姫をルフィが救った。

その結果、彼らは軍歴や名声、部下、全てを失った。



「もうやだ!!なんでこんな目に遭うの!!私、悪い事してないのに!!」

「私はルフィと一緒に居たかっただけなのに!!なんでこうなるの!!」

「私が海賊の娘だから!?天竜人の要求に屈しなかったから!?女だから!?」

「やだよ!!やだやだ!!もう疲れたああああ!!あああああああああ!!」



自暴自棄になったウタは泣き叫んで甘える様にルフィの胸部に顔をうずめた。

それをルフィは、無言で優しく抱きしめて頭を撫でた。

涙と鼻水で濡れていくが、本音を教えてくれてありがたかった。

目を離せばすぐに跡形も無く蒸発しそうな義姉が甘えてくれて嬉しかったのだ。



「ウタ、大丈夫だ。おれがついている!悪い奴はぶっ飛ばすだけだ!!」

「分かってる。分かってるよぉ…私が弱いだけだから……」

「そんな事ねぇぞ。いつもおれを支えたりついて来たウタが弱いわけねぇ!」

「……ありがとう」



逃亡生活で得たものもあった。

男女の仲が更に深まってお互いが伴侶を慰める事ができる。

運命共同体であり肉体、精神、魂が混ざった一心同体の絆は決して離れはしない。

共依存に嵌った男女は底なし沼にズブズブと沈んでいく。



「……決めたよ」

「何を決めたんだ?」

「それはね……」



2時間ほど泣いて涙が枯れた歌姫は、頼もしい夫に耳打ちをした。

それを聴かされたかつての海軍の若き英雄はそれを聴いて笑った。



「そっか!逃げるのは止めるんだなァ!!」



ルフィとウタは、どんどん悪化する逃亡生活に嫌気が差していた。

優しさ故に海軍と交戦せずに逃げ回るが、理不尽さにそろそろ限界が来ていた。

そう、彼らは、今まで無意識に理不尽さに振り回されるのを受け入れていたのだ。



「やるか!!」

「うん、辛い事は全部忘れて思いっきりやっちゃおう!!」



開き直ったウタは、ルフィの同意が得られて笑った。

それは作り笑いではなく久しぶり自然と出た笑みだった。

「ししし!!」と笑う男も彼女の笑顔が見れて計画を実行する事を決意した。

その2週間後、天竜人が護衛を伴ってシャボンディ諸島に訪れていた。



「今度こそ海賊の奴隷は入手できるのかえ?」

「恐れながら海賊が売り出されるのは闇市場でも珍しい事です」

「だったらドフラミンゴのヒューマンショップに行くえ!!」



ハウスブルク聖は、娘のエンザイヌ宮と共に奴隷を買いに来ていた。

娘曰く、シャルリア宮が主催した海賊奴隷博覧会に出す奴隷が欲しいというのだ。

愚息のチャルロスと関わりたくないが娘の頼みを断り切れずここに来ていた。

SPの解説を聞いて生半可なヒューマンショップに海賊が売り出されないと知った。

そこで、かつての幼馴染であり海賊になったドフラミンゴが管理する店に向かった。



「ちゃんと、わちしが向かうと愚民共に連絡したえ?」

「はい、既に手配済みです。ハウスブルク聖のご到着をもって競りが始まります」

「全く愚民共は、こうやって手を打っておかないと会話にならないのが嫌だえ」

「エンザイヌ宮様は既に会場のVIP席でお待ちです」



役人と鎧を纏った騎士たちが世界政府の創設者の子孫を護衛していた。

海賊はおろか海兵ですら恐れ敬うしかできない存在。

海軍の若き英雄と海軍の歌姫の人生を崩壊させたとなれば尚更である。

最近、下々民が自分を恐怖の存在と見られている彼は護衛に愚痴を溢していた。



「よっこらせえ」

「お父様!!遅すぎアマス」

「人類の頂点に立つ者、優雅に我々の偉大さを魅せ付けないといけないのは辛いえ」



ヒューマンショップに到着したハウスブルク聖は娘に叱責されて頭を下げた。

下々民は見下すが娘に対しては親馬鹿であり、愛妻家としても知られていた。

彼は乗って来た奴隷の魚人を蹴っ飛ばして護衛に売り出すように告げて席に着いた。



「ん?」



しかし、席に着いたハウスブルク聖は、やけに競りの会場が静かだと思った。

競りを競う貴族や王族といった下民は自分に配慮するがここまで静かなのは珍しい。

何事かと立ち上がってド派手な格好をした下級貴族を見下ろした。



「ふええ!?」



名も知らぬ下民は、涎を出して気絶しておりそれを見た彼は飛び上がった。

「おいどういう事だえ!?」と叫んで後ろを振り返ると護衛たちが倒れていた。

いや、立っている男女がこちらを見て笑っていた。



「あははははっは!!引っ掛かったわね!!」



ツートンカラーの紅白髪の女は高笑いして銃口をエンザイヌ宮に突き付けていた。

「無礼者!!」と叫ぶ人質は、手持ちにあった電伝虫を使って外部に連絡をした。

知らせを受けた海軍がヒューマンショップに踏み込むと衝撃的な光景を目にした。



「ウタ准将!?それにルフィ大佐!?」



海軍本部の少将とその配下が目撃したのは、堕ちた英雄たちだった。

天竜人の逆鱗に触れて全てを失った2人は天竜人に手を出すのに躊躇いは無かった。

愛妻家で3人の娘が居る少将は、予測できなかった光景に言葉を失った。



「はーい!海兵のみんな!こんにちは!ウタだよ!!」

「おっと動くなよ!!おっさんたちを傷付けたくなかったらな!!」



開き直った2人は、天竜人に手を出すのに躊躇いは無かった。

伴侶以外全てを失っているのだからこれ以上、失う物はなかった。

しかし、海兵たちは違った。



「ゴムゴムのおおお~~“味方ロボ”!!」



ゴム人間のルフィは、ハウスブルク聖に抱き着いて手足で四肢を拘束した。

これで彼は、操り人形として動く事となった。



「ウタ准将!ルフィ大佐!!お気を確かに!!!」

「はああ?犯罪者に階級で呼ばないでよ!!私たちは極悪人なんだからさァ!!」

「お前ら、動くなよ!!おれたちみたいになりたくなかったらな!!」



天竜人に手を出せばどうなるか目の前に居る男女が語っていた。

混乱してしまった海兵たちよりもルフィが先に動いた。



「“味方ロボパンチ”!!」

「ぐわぁああああ!?」

「ぎゃああああああああ!!」



天竜人を操って左ストレートで殴らせたルフィは笑った。

音速で殴らせたせいで左腕が複雑骨折したハウスブルク聖は絶叫。

殴打された軍曹は同僚を巻き込んで吹っ飛んで2度と動かなくなった。



「何をしてる!!撃て!!」

「「「ハッ!!」」」



正気に戻った少将は、部下に大罪人を射殺するように命じた。

命令を受けた海兵たちは、マスケットで次々に堕ちた英雄たちに発砲した。



「あああああああっ!!」

「お父様!?いやああああああああああああああ!!」



元からゴム人間のルフィにただの射撃は通用しない。

しかし、彼はあえて弾丸を正面から受けた。

人質である天竜人に20発の弾丸が命中し、彼の娘であるエンザイヌ宮は泣き叫んだ!



「よくもお父様を撃ったアマス!!海兵共!!一族郎党処刑してやるアマス!!」



父親を射殺された彼女は、狂乱状態に陥って護衛であるはずの海兵に罵倒した。

天竜人の逆鱗に触れれば全てを失う。

それが嘘では無いのは、落ちぶれたルフィとウタの現状が物語っていた。

怯える海兵たちに対して計画を実行した男女は嬉しそうに笑った。



「いーけないんだ♪いけないんだ♪」

「やっちゃったなお前ら!!これでおれたちの苦痛を味わえるぞ!!やったな!!」



天竜人に危害を与えれば、海軍大将が招集されて犯罪者を抹消する。

例え海兵であっても例外ではない。



「「「うわああああああああああ!!」」」



銃や剣を放り投げて海兵たちが逃走を試みたが既に時遅し。

ルフィの放った覇王色の覇気で1人残らず意識を失って倒れ込んだ。



「はぁ、本当に撃つとは思わなかったなー」



ウタは少将の顔を一瞥し、蹴っ飛ばして気絶してるのを確認して溜息を吐いた。

優しさ故にどんな理不尽でも受け入れようとしたが、そのせいで精神崩壊した。

抗うのではなく逃亡を選んだのは、誰も傷付けたくなかったから。

でも、それは今日で終わった。



「無礼者!!お前たちは海軍大将に処刑されればいいアマス!!」

「あははははっははっは!!誰が来るか賭けをしない?」

「おれはピカピカのおっさんが来ると思うな!!」

「よーし私もそれに乗った!」



海賊はおろか海軍ですら恐怖の対象である武力が来ると聞いても2人は気にしない。

むしろ、実力を知っているからこそ対策をしているし、計画を実行した。

「抗っていいよね?天竜人を利用して事件を起こそうよ」の一言で全てが始まった。



「む!!増援が来た!!逃げるよ!!」

「おう!!」



近くの支部から増援の海軍が駆けつけたのを感知したウタは逃亡を促した。

目的を達成したルフィは、彼女の手を取って一緒に走り出した。

呆然と座り込んだエンザイヌ宮を残して。



「この無能共!!お父様を殺した挙句犯人を逃したアマスか!?」

「申し訳ありません。すぐに討ち取ってきますのでもう暫く辛抱を…」



後日、海軍から大罪人を逃したと聞いたエンザイヌ宮は、海兵を罵倒した。

申し訳なさそうに頭を下げるTボーン大佐が無能と感じ取った彼女は容赦なかった。



「決めたアマス!!こいつも処刑するアマス!!」

「「「ハッ!!」」」



天竜人の命令は護衛ですら抗えない。

それは、世界政府に所属する海軍でも同様である。

しかし、天竜人も自分を守る存在をわざわざ殺そうとは思わなかった。

チャルロス聖が“海軍の歌姫”であるウタに手を出すまでは…。



「くっ……せめて戦場で死なせてくれないものか」

「こやつの家族も殺処分するアマス!!」

「「「ハッ!!」」」



無念に打ちひしがれるTボーン大佐に悪魔が追撃をかけた。

もはや海軍がサンドバックになっている彼女は、いたずらに海兵を死なせていた。



「あーー!!無能を相手にするのは疲れるアマス」



処刑台に連行される大佐を見届けた彼女は日課のティータイムをする。

最高級の紅茶の隣には、今朝の新聞が置かれている。

一面には、幼い娘たちと妻を射殺された少将が弁明している記事だった。

最後に天竜人を死なせた無能として銃殺刑に処されたと書かれていた。



「来週は、あの大佐の記事ができるアマスね。それだけを愉しみにするアマス」



薄い皮を纏った骸骨のような大佐の処刑記事を期待しながら彼女は紅茶を啜る。

傍に仕える騎士と役人は、自分たちが破滅する未来を思い浮かべていた。

シャボンディ諸島に駐在していた海兵が1人残らず処刑された。

次は我が身だと思っても仕方ない事だった。



『おいおい、これじゃあ俺たちもヤバくないか!?』

『辞職届を出したい…ヒステリックになった彼女の相手などゴメンだ』



実際、2週間以内に彼らも彼女の逆鱗に触れて処刑される事となる。

自分から天竜人の評判を落としていく女だがすぐに気にされなくなった。

同じくルフィとウタに傷付けられた天竜人たちが海軍に八つ当たりするからだ。



「なんと嘆かわしい事だ…」

「規則を設けても守らなければ意味は無い」

「全くチャルロス聖を生かしたせいでとんでもない事になったのう…」

「やはり、早めに片付けなければいけなかった」

「ウタはフィガーランド家の血筋だぞ?すぐに対処できるものではなかった」



同じ天竜人であり世界政府の最高権力者である【五老星】は頭を抱えていた。

5人の老人たちは、天竜人が好き勝手に役人や海兵を処刑しているのを問題視。

なんとかして騒動を収めようとするが、問題が膨れ上がった。



「海兵の辞職や脱走が多すぎる。このままでは持たんぞ」



現在、海軍は分裂したNEO海軍と内戦を行なっている。

しかし、天竜人によって将官クラスが次々と処刑されて海兵の士気が激減していた。

ただでさえ公式カップルだったルウタの追討命令に嫌気を指す時にこれである。

頼みの綱である海軍大将は3人中2人が辞職している有様。

その皺寄せが来るのは、いつだって現場である。



「これじゃあブラック企業だよ~~!!わっしも転職先探そうかね~!」



唯一海軍に残った“黄猿”は、世界政府に振り回されて休息が取れなかった。

またしてもノコノコと動く天竜人がルフィとウタに襲撃されて招集された。

今回で7回目、付き添う部下はそのせいで何人か亡くなっていた。



「大将殿!!ボンボン聖が至急救助を求むとの事です!!」

「まずなんでこのご時世にマリージョアから出たんだい?」

「親戚の仇を討とうと私兵を率いていたら護衛が全滅したそうです」

「いや~~軽率な行動に腹が立つね!!」



ルフィとウタは、絶対的権力者で好き勝手に動く天竜人を襲撃していた。

厄介な事に世界政府加盟国を視察する天竜人には手を出さなかった。

つまり、襲撃される天竜人は何かしらの問題を抱えていたのである。



「今回の件もなんかあるよね~?どんな人物なんだい?」

「“児童収集家”のボンボン聖は加盟国の王族すら手を出す悪評があります」

「……むしろ何で今まで問題にならなかったんだ」



完全な被害者ならともかく人格面で問題がある奴に限って無傷で解放される。

その度に全ての責任を海軍に転嫁するせいで無駄に死人が出ていた。

大将であるボルサリーノはともかく部下が犠牲になるのは嫌だった。

光の速度で動けると評判のせいで弁明が全く考慮されなかった。



「ボルサリーノ大将!!ボンボン聖からお電話です!!」

「逆探知は?」

「しております!!」

「よっし!出ようか!!」



部下から電伝虫を受け取った黄猿は、気だるそうに受話器を上げる。

内容は予想したように自分に対する罵倒ばかりだった。

「わちしが傷ついたら無能な貴様も処刑する」と言われた瞬間、彼は電話を切った。



「通話中に切ったらまずいのでは?」

「アホらしい。感謝されないどころか命を落とすくらいなら見捨てても良いよね」

「しかし、大将が招集されるのは義務です!!」

「今の内容を聴く限り、わっしたち全員処刑されるけど行きたい人、手を挙げて」



上官の衝撃的な発言を聞いた海兵たちは手を挙げる事はしなかった。

何が楽しくて自分の処刑命令書にサインしなければならないのか。

全員の心は1つとなり、ボンボン聖を見捨てる事にした。



「よし、誤報だったね~!海軍本部に帰投するよ~!」

「いくら何でも無理があるのでは?」

「さすがにわっしまで脱走すれば海軍が崩壊するからね。仕方ないよ」



いつも貧乏くじを引かれていた男は、気を取り直して自室に戻っていく。

再び電伝虫が「プルプル!!」と鳴き出すが部下が受信機を外して静かになった。



「偶然にも電伝虫の受信機が壊れてしまったなー」

「盗聴に使う黒電伝虫も不調でしたが、使わないと知って安堵しましたよー」

「立て続けに襲撃事件があるせいで疑心暗鬼になってますなー」



棒読みで会話をした海兵たちの顔は明るい。

久しぶりに休息を取れると分かって嬉しかったのだ。

たった1人の天竜人が不幸な海難事故に巻き込まれて死んだ。

それが襲撃事件と勘違いされたと言い訳するつもりだ。



「何故だ!!何故通話が繋がらないえ!?」



ボンボン聖は、必死に通話を試みるが2度と繋がることは無かった。

さきほどの発言のせいで見捨てられたと気付かない彼は救いが無かった。



「あーあ、見捨てられちゃったね」

「貴様ら!!分かってるのかえ!!すぐに黄猿が来て…」

「自分の発言を振り返ってみなよ。来るわけないでしょ」



天竜人を襲撃したウタが残酷な事実を人質に告げていた。

わざわざ連絡させたのは、海軍の士気を挫く狙いがあったが予想以上だった。

ボルサリーノ大将に救われたとしても無理難題で吹っ掛けるのは目に見えている。

ウタは黄猿が来ない事を確信して笑みを浮かべた。



「おのれ!!わちしをどうするつもりだ!!」

「どうもこうも人質の価値が無くなった以上、あんたに用は無いよ」

「ほえ!?」

「…よし、勝手に帰っていいよ。船首の方に海軍基地があるからそこに行ってね」



未だに自分に価値があると思っているボンボン聖は呆気にとられた。

てっきり身代金を要求し、五老星と交渉すると思っていたからだ。

すぐにその意味が分かって憤慨した。



「お前ら!!すぐに処刑してやるからなァ!!覚悟するえ!!」

「はーい!!やれるもんならやってみてよ!!」

「下々民風情がああ!!覚えろえええ!!」



価値が無いと解放された天竜人はルウタを罵倒しながら海軍基地に向かった。

すぐに海兵をこき使って2人を殺そうとほくそ笑んで必死に走る。

役立たずの私兵は全員、処分するつもりであり、最後まで自分勝手だった。

しかし、彼は2度と聖地マリージョアに戻ることは無かった。



「おい知ってるか?天竜人が海難事故だってよ」

「ふーん」

「うちの基地近くに死体が流されていたそうだ」

「うわっ!最悪じゃねェか」



ボンボン聖が助けを求めた海軍基地では、天竜人の海難事故が話題になっていた。

検死した海兵曰く、海水を吸って風船のように膨れていたと発言。

これはさすがに海軍に罪は問われないものの基地付近に流れ着いたのは問題だ。

自分たちが裁かれないか心配する海兵に同僚は告げる。



「人智が及ばない自然の猛威では、天竜人であってもどうしようもないって事だ」

「大丈夫なのか?」

「なーに、正直に報告しなきゃ良いんだ。行方不明なら大丈夫だろう」

「捜索依頼が出されるだろう?」

「ここは“偉大なる航路”だぞ。すぐに打ち切られるさ」



会話している海兵たちですらこれは海難事故ではないと気付いている。

上官が海難事故と判定して検死担当の海兵がそう告げたから言っているだけだ。

誰も異論は出さないし、事故死扱いのお役所仕事で終わった。



「ついに天竜人が見捨てられたね」

「ししし、これで少しは気が楽になるな」



ウタから新聞の内容を聞かされたルフィは笑った。

さすがに海兵が1万人も処刑されるのは想定外だったが、ようやく効果が出た。

自分たちへの同情の声はなくなったが彼らは気にしてない。

元から2人で地獄に堕ちる予定だったのだから。



「これで気が済んだか?」

「うん、手伝ってくれてありがとう!」



彼らは優しかった故に逃亡の道を選んだ。

抗えば未来は帰られたかもしれないが既に過去の話。

座右の銘、楽しんだもの勝ちを掲げる彼女は今を見ていた。



「よし、襲撃はこれで終わりにして私たちは次の事をやろう!」

「次は何をするんだ?」



ルフィの疑問に対して彼女は笑って返答をした。



「もちろん海賊よ!!犯罪者の私たちは海賊にしかなれないしね!!」

「よーし!!やるか!!」



かつては海賊を夢見ていた2人は、その夢に向かって行くつもりだ。

最後まで2人を付き添っていた『正義のコート』は役目を終える。



「でもその前に……」

「一緒に寝るぞ!!」



ルフィのコートは敷布団にウタのコートは掛け布団として活用された。

これから同衾する2人が何をするのか。

その答えは、本人たちと正義のコートだけが知っている。

分かるのは開き直った2人は、ようやく前に向かって歩き出した事くらいだ。

END

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