銀河に馳せる幸(さいわい)を

銀河に馳せる幸(さいわい)を

昭和時代の『夢』と現代で、『訪問者』と『人の子』の優桜が「銀河鉄道の夜」(作・宮沢賢治)について色々喋ったり歌ったりする三次創作SSです。


・このSSはイマジナリーシリーズ『今日も階下を目指し行く 番外編』レス番71、73にて書かれた楽曲とやり取りを下地としています。

ぷらいべったーにも同様のSSを掲載しています。パスワードは「imaginary_gazer」(「」内の英単語)です。読みやすい方をどうぞ。


【参考文献】

◯『銀河鉄道の夜』Wikipedia

◯青空文庫・底本:「銀河鉄道の夜」角川文庫、角川書店(1969(昭和44)年7月20日改版初版発行・1987(昭和62)年3月30日改版50版)

◯青空文庫・底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社(1989(平成元)年6月15日発行・1994(平成6)年6月5日13刷)


(2023.5.14 表現微修正)


──────────




──これは暖かくて美しい夢の話。

同じ容姿と同じ名前の二人がどこかの宇宙で語らう、いつかの夢のお話。




「ねえ優桜。『銀河鉄道の夜』って童話を知ってるかい?」


「童話?……いや、聞いたことないな。訪問者さんは知ってるのか?」


「それもそうか。だってこれが世に出たのは一九三四年……つまり今年の、ついこの間だからね」


「……ズルしやがって」

「ごめんごめん。それでこの童話、簡単に言うと親友同士である二人の少年……ジョバンニとカムパネルラが宇宙を走る不思議な汽車──銀河鉄道に乗って色んな銀河や星々を巡ったりお話しをする物語、なんだけど……。うーん……」

『訪問者』は難しい顔をして考え込む。


「どうした?」

「ここまで言ったはいいものの、さすがに落ちまでバラすのはどうかなと思っちゃって……」


そんな事かと思いながら軽く溜め息をついて、優桜は笑いながら言った。

「気付くのが遅いな……。構わないぜ。これから読む機会が来るかも分からんし、もし来たならそれはそれで思い出として振り返りながら読んでやるよ」


「ハハ、それは嬉しいね。じゃあ……」

『訪問者』は一呼吸置いて、童話の結末を語り始める。

「二人が乗っていた銀河鉄道は、実は死者が自分達の行くべき『天上』へ向かう為のもので、他の乗客も各々が降りるべき駅へ行く……つまり、死に向かう為に使う鉄道だった」

「ジョバンニは現実では生きていて、銀河鉄道の『夢』を見ていただけだから途中で目覚められた。けれどカムパネルラは銀河鉄道で行くべき場所まで辿り着いた……つまり、現実では死んでしまっていたんだよ。級友を助ける為に川へ飛び込んで」


「…………」


「彼らは銀河鉄道の中で沢山お話しをして、他の乗客とも色んな話をして、「二人で『ほんとうのさいわい』を探そう」と誓ったんだ。でもその直後、二人は離ればなれになってしまった……生と死で永遠に」



「何とも……切ない物語だな」

優桜は目を閉じ、殆ど名前しか知らない二人の登場人物に思いを馳せる。……もしかしたら、自分も弟達とそんな風に別れてしまっていたかもしれない可能性も想像しながら。


中心に星明かりが灯るような目を細めて『訪問者』は語る。

「実はこの童話、作者が十年程前からずっと推敲し続けて完成させる前にこの世を去ったから、完全な作品として残ってないらしいんだ。さっきの話も発表された草稿を元にしたオレなりの解釈ってだけだから、作者の意図通りかは分からないけどね」


「……まあ、その『作者が遺した大量の原稿』をちょっと覗き見はしたけど」

『訪問者』は一瞬目を逸らし、悪事を誤魔化す子供めいて小さく呟いた。

「? 何か言ったか?」

「いーや、何でも」


「そもそも、いきなりどうして……そんな童話の事なんか俺に話したんだ?」

少しして、優桜は当然の疑問を『訪問者』に投げかけた。


「うーん……何となく共感したから、かな。この物語のあらすじに」

「あらすじに?……どういう意味だ?」

「そうだね……」


何かを考える素振りをした後、『訪問者』は改めて優桜に向き直り姿勢を正す。……まるで汽車の座席に座っているかのように。

「例えば、さっき話した童話の内容。死者……いわば『この世ならざる者』が『生者を同じ夢に誘って、宇宙の中で言葉を交わす』……なんて考えてみたら。ほら、似てると思わない?」


「……何にだよ」

「もう分かってるくせに。今だってそうじゃないか、『ジョバンニ』」

「……それだと訪問者さんが『カムパネルラ』になっちまうぞ」

「フフフ」

「…………(全く、お前ときたら……)」

悪戯っぽく笑う『訪問者』に、優桜は呆れと少しばかりの苦しさを感じた。



「優桜。彼らが言ってた『ほんとうのさいわい』って何だと思う?」

先程と反対に、今度は『訪問者』が優桜に問いかける。


「『ほんとうのさいわい』……“本当の幸”か? きっとその二人なりの希望があった『幸福』な何かだったんだろうが……。……生憎、読んだ事もない俺には難しい問題だな」


「話の中でも明確にはされてないんだ。勿論作者なりの考えはあるんだろうけど……きっとそれぞれの読者が思う『幸福』が答えなんじゃないかって、そう思うよ」

「……オレもちょっと頑張って、オレなりの答えを考えてみたし。それもさっき言った『共感』の一つなんだけどさ」

「……訪問者さんはどう思ったんだ?」

「それは…………優桜には秘密。ごめんね」

「何だよ……」



少しの沈黙が辺りに瞬いた後、『訪問者』はゆっくり寝転がりながらまた話し始める。

「そうそう。これはさっきまでの話とは関係ない、個人的な独り言だけど」

「?」


「あの物語を読んでてふと思ったんだ。もしこの世界にも銀河鉄道が存在していて、ジョバンニが持ってたようなどこまででも行ける切符があったら……オレも『神様』に会いに行けたのかな、って」

「それに、目的の星まで優桜とずっと一緒にいられるなら何も怖くないし、風景が見慣れた銀河でも誰かと話ができるから退屈しないしさ」


「……………………」

星を眺めてどことなく楽しげに語る訪問者をよそに、優桜の表情はみるみる辛さを帯びていく。


「ああ、でもアルデバランはかなり遠い星だからなぁ。そんな切符でもさすがに行けるかどうか……そもそも銀河鉄道に乗車して目的地に向かうこと自体が死ぬのと同じだし……いや、話に沿うなら生きてる優桜はその前に目覚められるからいいとしても──」

「万一にでもそんな事があったら、俺がその切符で途中下車して現実に戻ってやる。……お前を引きずってでも一緒にな」


『訪問者』の独り言を強引に遮るように、優桜は強い語気で言い放った。その顔は俯いて軍帽の影になり、よく見えないが……それ以上「自分がいなくなる」話をさせたくなかった事は『訪問者』にも理解できた。


「冗談だよ。……でも、ありがとう」

いつも通り、しかし少しだけ寂しそうな顔で『訪問者』は微笑んだ。

「この夢の記憶は残しておくよ。夢だから起きたら忘れちゃうかもしれないけど、オレと一緒に話した思い出をちょっとでも多く覚えていてほしいから。……なんて、我儘だけどね」



「そうそう、今の優桜が昔の姿なのは……察してたかもしれないけど、同級生のジョバンニとカムパネルラを真似てみたかったんだ。お陰で少し童話と同じ気分を味わえて楽しかったよ」


「……オレも、楽しかった。ありがとう」

優桜は一言、そう呟くのが精一杯だった。


「それじゃ、また……元気でね。優桜」

「ああ……訪問者さんも元気でな」


別れの挨拶を交わし、二人が見た一夜の夢は終わりを告げた。



………………………………




見慣れた天井、嗅ぎ慣れた木の匂い、年期の入った布団……現実と同じ、少し皺の増えた手と白髪が混じってきた髪。

不意に聞こえたスズメの鳴き声と高くなりかけている朝日で、優桜は「夢」から覚めたという事にようやく気付いた。


(アイツと一緒に話す夢なんて、久し振りに見た気がするな)


まだ眠気が残る頭を日の光で刺激して、優桜は寝室から出る。先に起きていた瓜二つの弟と挨拶を交わし、もう一人の闊達な弟が作る朝食を一緒に食べながら、彼は二人に話した。


「今日は書店に行ってくる。……探してみたい本があるんだ」





──────────





「ねえ、優桜。この『銀河鉄道の夜』って本、かなり古いみたいだけど……いつからあるの?」

オレの部屋でうつ伏せになって本を読んでいた訪問者さんが尋ねてきた。随分と懐かしい題名だ。


「ああ。十四、五年くらい前だったかな……百之助と見たプラネタリウムが凄く綺麗でな。それの元になった話だっていうんでその時買ったんだ。……まあ、当時は百之助もオレも内容はあまり分かってなくて、星や銀河が出てくる場面ばかり想像しながら読んでたけどな」

「一応子供向けの童話なんだが……正直、大人になってからの方がいくらか理解が進む部分もあった。だから今も何となく捨てられなくて、オレの本棚に残してるんだ」

小学生向けに現代語訳や注釈がされた本ではあったが、今読んでも内容が幾分難解な事には変わりない。

それでも物語全体に漂う美しさと儚さ、穏やかな寂しさや物悲しさには子供の頃から胸が詰まりながらも惹かれるものがあった。それをまともに言語化できるようになったのは成人も近くなってやっとだったけども……。



「ふーん……でもこれ、オレが知ってる本とちょっと内容が違う気がするなぁ」

「え? ……訪問者さん、読んだ事あるのか?」

「ん、あれ? えーと……いや、多分ない……と思うんだけど……。そういえば何で知ってるんだ、オレ……?」


(……もしかして『忘れてる』のか? オレが訪問者さんに再会するまで前の人生を忘れていたように……ずっと、眠っていたから……)

「忘れる」という事は、いわば「思い出せない」だけとも言える。永遠に失われてさえいないなら、きっかけがあれば紐付いた記憶が呼び起こされる程度はあり得るのかもしれない。……今回は偶然だし、他の記憶について試すつもりもないが。


「けど、とにかく何か違うんだよ。いた筈の登場人物がいなくなってたり、知らない話も沢山ある気がする。終わり方もこんなじゃなかったような……」


「うーん……」

オレは目の前のパソコンで軽く調べてみる。こんな時ほど文明の発達は助かるものだ。


「どうやら『銀河鉄道の夜』は作者の手で何度も推敲が重ねられて、一番最初の初稿から三度も大きな改稿がされてるらしい。オレが持ってるのは第四稿、最終形を元にした本だろうから……訪問者さんは昔、それより前の話を読んだんじゃないか?」


「昔……昔かぁ……。うん、きっと……そうだったんだろうな」

困ったような悲しそうな顔をしながら笑う訪問者さんを見て、オレは胸の奥がチクリと痛んだ気がした。確かにオレも……『前の話』を実際に読んだ記憶を、そのきっかけとなった『夢』を、おぼろ気ながら思い出していたから。


その後、訪問者さんはまた最初から同じ本を読み始めていた。まるで遠い銀河を慈しむように、何処かへ過ぎ去った過去を空想するように、ゆっくりと。

そんな訪問者さんを複雑な面持ちで眺めながら、オレは思考を巡らせる。




『銀河鉄道の夜』──成長してから改めてその童話を読んでみたら、作者は「自己犠牲の心」を『幸福』と考えている……少なくとも、俺にはそのように思えた。それは昔に読んだ話を思い出した今でも変わらない。

自己犠牲。誰かの、何かの為に命や心を、自分の人生をなげうてる精神性、その覚悟。たとえそれで死んだとしても、そうして幸せになる他者がいる事が自分の幸せになるのだから。

しかし同時に、「何が『ほんとうのさいわい』か」という結論も出されていない。それは『銀河鉄道の夜』が未完成に終わった物語だからというのもあるだろうが……作者はきっと、その自己犠牲は遺された誰かを『不幸にする』事があり得るとも自覚していたのだろう。だからこそ幾度も改稿を重ね、作者自身も読者にそれぞれの『幸福』を委ねる形になった──のではないか。


これはあくまでもオレが勝手に考えた推論だ。それでもオレはこの推論と、童話全体から静かに漂う「死生」と「犠牲」への想いに……どうしても『訪問者』さんの事を──かつては『傍観者』でもあった昔の彼を、思い出さずにはいられなかった。



『……訪問者さんはどう思ったんだ?』

『それは…………優桜には秘密。ごめんね』


(あの時の訪問者さんも、もしかしたら……)



「訪問者さんは、何が『ほんとうのさいわい』なんだと思う?」

かつてオレが訪問者さんから問われた言葉を、今度は訪問者さんに聞いてみる。『今の』訪問者さんは……どう考えるのだろうか。


「ほんとうの……それってこの童話に出てきた話の事、だよね?」

オレが頷くと訪問者さんは本から手を離し、時折小さく唸ったり首を捻りながら考え込んでいたが、少しして降参したように起き上がり肩を落とした。


「……ダメだ。オレには難しくてよく分からないや。けど……」

「今のオレにとっては、優桜とこうして一緒にいられるのが一番の幸せだから……それができなくなる事は『ほんとうのさいわい』にはならない、かなぁ……」


悩み声で出されたその答えを聞いて、オレは何故だかホッとしてしまった。訪問者さんは……少なくともオレの前からいなくなってしまうような「自己犠牲」は起こさないだろう、と思えたから。

──昔の訪問者さんも同じように考えてくれたのだろうか……そんな都合のいい事まで想像してしまいながら。


「あ……でもこれ、よく考えたら答えになってないよな? ごめんね、優桜」

「謝るなよ……十分さ。ありがとな、訪問者さん」

「そう? ……それなら良かった」

少し落ち込んだ様子だった訪問者さんの顔がフワリと笑顔になるのを見て、オレも釣られて微笑んでしまった。彼はやっぱりこうして笑ってくれるのが一番良い。



「それより、本……読みかけだったんじゃないか?二周目」

オレはすっかり床に開かれたままの本を指差す。ページの残り具合からするともう終盤に差し掛かる頃合いだろうか。訪問者さんは一瞬キョトンとしてから視線を落とし、それから大きく目を見開いた。

「あ! そうだ、すっかり忘れてた!」

「邪魔しちまったな。オレは仕事に戻るから、ゆっくり読んでてくれ」

「ううん、全然! それじゃ、お言葉に甘えて……」


訪問者さんは今度は壁を背に座って続きを読み始めた。その様子を確認して、オレはパソコンに向き直る。

部屋には本のページをめくる音、キーボードを叩く音だけが心地よく響く。


それから数十分か経った時だった。




──♪~~……~~♪~~……



背後から不意に聞こえた「歌」に、オレはキーを叩く指を止める。振り返ると……その歌は訪問者さんの口から紡がれていた。無意識に零れ落ちるような、微かで辿々しい歌声。



「訪問者さん……その、歌……」


「え? オレ、今何か言ってたか?」

「あ、ああ。ハッキリ……いや、というか……何で知ってるんだ、その歌……?」

「? だから何が?」

困惑と驚愕が入り乱れ要領を得ないオレの態度に、訪問者さんは少々不満げに疑問を漏らす。



「だって、それ……それが、百之助と一緒に行ったプラネタリウムで……流れてた歌、だったから……」

「…………は?」


ポカンと口を開けて呆ける訪問者さんをよそに、オレは何十年振りかにその歌を記憶の底から引っ張り出し、一つ一つ言葉を確認するように口ずさむ。ついさっき、訪問者さんが奏でていたメロディーに乗せながら。



“I am waiting for you 探してる月夜の記憶”

“香る花は打ち寄せる波のほとり”


“and nothing but you 残された風をまとい”

“So I can see the sky ……”



元々記憶力は良かった方だが……自分でも驚くほどに詞も音もすんなりと思い出す事ができた。

そして、そこまで歌い終わってから訪問者さんの方を見て……オレは思わず心臓が飛び跳ねそうになった。



「……訪問者さん、泣いてるのか?」

「え?」


その言葉でやっと自分の両目から流れる涙に気付いたらしい訪問者さんは、慌てて本を置き袖で頬を拭おうとする。

「あ……ご、ごめん。優桜の歌を聴いてたら、すごくキレイで、寂しくて、切ないけど優しくて……何だか、とても懐かしい歌だなと思って……。そしたら、勝手に……涙が、出ちゃったみたいで…………。よく、よく分からない、けど…………何でだろ……?」


拭っても拭ってもとめどなく溢れる涙を必死で堪えようとしながら、訪問者さんは途切れ途切れに話す。

オレは堪らず訪問者さんの元に駆け寄り、隣に座ってその肩を抱き寄せた。そのままゆっくり頭を撫でてやると、訪問者さんは抱えた膝に顔を埋めて小さく嗚咽を漏らし始めた。



『懐かしい』……その言葉を聞いたとき、オレはまた一つ過去の記憶が蘇った。

オレがこんなにも簡単にこの歌を歌えたのは、子供の頃に聴いたからだけじゃない。……もっと昔に「教えてもらった」からだったんだ。


『どこかの誰かさんから良い歌を聞いた』と言って、いつかの昔に訪問者さんがオレと弟達へ歌ってくれた──まさかそれが未来からの歌で、生まれ変わったオレ達がまたその歌に出会っていたなんて。


(『奇跡』っていうのは、やっぱりあるものなんだな……)

肩を震わせて静かに泣き続ける訪問者さんを宥めながら、繋がった過去と今に思いを馳せた時……自分の目からも流れてきた一筋の涙を、オレは気付かれないようそっと払った。



……暫くして、ようやく泣き止んだ訪問者さんは顔を上げ、少し腫らした目を擦りながらオレの肩に寄りかかって呟いた。

「ねえ、優桜。さっきの歌、一緒に歌っていい? 知らなかった筈なのに……優桜となら全部歌えそうな気がする」

「ああ、勿論いいぜ。何せこれは、オレ達と訪問者さんとの思い出の歌でもあるんだから」

「んん……?どういう意味?」

「もしかしたら、歌ってれば思い出すかもな」


不思議そうに見上げる訪問者さんに軽く微笑んでから、まずはオレが最初のフレーズを歌った。訪問者さんもそれに続く。

最初は拙く呟かれていた訪問者さんの言葉も、少しずつ解きほぐされるように滑らかな歌になっていった。



“Melody 奏でる刹那を届けたいだけ”


“小さな手を包み込むように”


“あなたさえいれば風は吹くの”


“いつかstand alone 時に迷った夜 …………”



時には交互に、時には一緒に。オレと訪問者さん、二人だけのささやかな合唱が部屋に響く。

街の片隅にある味気ない家の一室が、今だけは数多の星粒に見守られて煌めかんばかりの海原になったような……そんな気がした。




──────────




“I am waiting for you and lookiong for truth.but not a sound is heard.”

“Whenever you need any help and my voice,please let me know ……”



『……珍しいな、勇助。お前が歌ってるなんて』

「別に……。『訪問者』と『人の子』の話を聞いていたら、何となく思い出しただけだ」


『思い出した……? ……ああ、なるほど』

『その歌詞……昔、優桜が教えてくれた歌だったな。どこかの誰かさんから聞いた“銀河鉄道の夜”に関する歌だ、って』

「……アイツはもう覚えちゃいないだろうがな」



♪~~……~~♪~~……



『いや……そうでもないみたいだぞ』


“…… I am waiting for you 探してる月夜の記憶”

“香る花は打ち寄せる波のほとり”

“and nothing but you 残された風をまとい”

“So I can see the sky ……”



『これは“思い出す”事ができた記憶だったみたいだな……。良かったな、勇助』


「……………………」

「……歌の一つ程度、『訪問者』が覚えてようがなかろうがオレには関係ない」


『…………』(あの二人に負けず劣らず星を降らせて、何を言ってるんだか……)

『フフ……』「笑うんじゃねぇ」



…………………………



“Let me tell you おどけてる水面の光”

“染められた心は見えない星の輝き”

“and I think of you 止められた過去をまとい”

“So I can see the sky ……”


(少しだけ、優桜や『人の子』に似ている詞……)

(アイツが忘れてしまってからは、時々頭で反芻するだけになっていたが……。それでも……)


『やっぱり、良い歌だな……』








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【ここからはSSのちょっとした補足、解説ページに飛びます。お暇な方は是非とも。】


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